第13話 同伴
昼休み、俺は風呂敷を広げると二段になった弁当を開封し中身を確認する。
ほうれん草のごま和えに小エビのからあげ、半身のサバの塩焼きに銀紙の筒にはまんばのけんちゃん、ごはんは炊き込みご飯になっていた。
最近ではこうして毎日彩られる弁当の中身を確認するのが少し楽しみになっていたりもする。
本当に毎日毎日欠かすことなく弁当を作ってくれてるので俺の財布の中身が削られずに済んでいて正直ありがたい。
「いただきます」
俺は学校で唯一の楽しみといっていい時間を自分の席で1人楽しんでいると購買から帰ってきた久が袋をガサガサと探りながら俺のところに近寄ってくる。
そして空席になった前のイスを俺の席にくっつけると袋を開けパンをほうばる。
「おー今日も、気合入ってんな!たくっ羨ましいぜ」
「やらねぇぞ」
俺は縄張りに入られた野生動物のように鋭い視線を久に送る。
「ハッハッハ!すっかりほだされたな涼介」
「別にそんなんじゃねぇよ。飯に罪はねぇし…それに…結構うまいからな。取られたくないだけだ」
俺は久と自分に言い聞かせるようにそう云うと飯を放り込む。
「たくっ相変わらず素直じゃねぇな」
久は半ば呆れ顔で答えると2個目のパンを開封していた。
「で?どうなんだよ。誘うやつは決まりそうか?」
「いや…というより何で誘われた側が誘うやつ決めるんだよ。普通お前だろ…」
「だって、お前俺が勝手に決めたら来ねぇじゃん」
久は見透かしたように図星をついてくる。いや、そうだけども…クラスで顔を見知ってる程度のやつとせっかくの休みに会っても気まずくなるだけだし多分自分も向こうも気を遣って楽しくないだろう。
「大体、何で俺なんかを誘うんだよ…お前なら他に誘う奴もいくらでもいるだろ」
「いやだって、今回はお前と遊びてぇんだもん」
久は当然といったように即答する。仕方ない今回はこいつの思い通りになってやるか…しかしどうしたものか…俺と久が知ってて、まともに話せる相手といえば…いやわかっている。1人しかいない。
「…じゃあ女木とか」
「まぁそうなるだろうな」
久は始めから俺の答えなどわかっていたと言わんばかりにストローを使って牛乳を流し込んでいる。
「けど、あいつが素直に来てくれると思うか?」
「まぁ、言うだけいってみればいいんじゃないか?」
「誰が」
「もちろんお前が」
俺は溜息を吐くと教室の立て掛け時計を確認するともうじき昼休みの終わりを告げようとしていた。
俺は立ち上がると女木のいる女子グループの方へ足を運ぶ。
女木は既に食事は済ませ俺には絶対に見せないような笑顔で友人と花を咲かせていたが、俺が近づいてくるのを確認すると静かに真顔になりこちらに顔を向ける。
本当そういうの堪えるんでできれば普通に接してください、女木さん。
俺は少し傷ついたハートを押さえながら到着すると口を開く。
「ちょっと今いいか?」
周りのグループは静まり返り女木は無言で俺を見つめ立ち上がり廊下に出ていく。おそらくついてこいという意味だろう。
俺は周りの女子に軽く会釈をすると女木を追いかけて外に出る。
そして昇降口の前で立ち止まると彼女はこちらに振り返る。
「で?何」
女木は腕組みをしながら俺を見ている。果たしてこの関係性の俺達が急に遊びに誘って快くきてくれるもんなんだろうか?
「あー、今度の休みのGW…なんだけどさ…その暇だったりするか?」
「ゴールデンウィーク?別に空いてるけど…それがどうかしたの?」
「いや…良かったらでいいんだけどな…遊びにいかないか?」
俺は人差し指で顔をポリポリ掻きながらダメ元で答ると何故か目の前の彼女が挙動不審になっていた。
「え、私と?」
「他に誰がいるんだ?」
女木は自分を指さして確認してきたので俺は当然のように答える。その瞬間彼女は顔を隠しフリーズする。
「あ、えっと…いってくれるのか?」
俺が再度そう尋ねると女木はブンブンと首を縦に振っていた。
「そうか!分かった。じゃあ久にもそう伝えとくわ」
「え?」
その瞬間女木は全てを悟り、同時に恥ずかしさと目の前の言葉足らずの男に激しい怒りを覚え、思わず涼介を睨んでしまう。
「ひっ」
俺は情けない悲鳴をあげると、すたすたと歩いていく彼女に問いかける。
「いや、だから無理に来なくても…大丈夫だぞ?」
「…いくわよッ!!」
何故、彼女があれほどまでに煮えたぎっているのか全く分からなかったがこれ以上問いただすことは俺には到底できず、少し震えながらその鬼の背中を見守っていた。
教室に戻ると、久は自分の席にもたれかかりながら退屈そうにスマホをいじっていた。
俺は久の元に行き女木も来れるようになったことを伝えると久は「だろうな」と一言いってそれで会話は終了し、あれから女木とは顔を合わせられないでいる。
放課後いつものように教室を出ようとすると同じく帰宅前の久に声をかけられる。
「ちょっとコンビニでも寄っていこうぜ」
特に用事もなかったため、おとなしく久と一緒に下校を共にする。
「そういえば、お前ってそんなに運動できるのになんで帰宅部なんだ?別に運動が嫌いなわけじゃないだろ」
「んーまぁ今はこっちのほうが何かと自由が利くからな。俺にはこっちのほうがあってるってだけだ」
「ふーん、まあどうでもいいけどお前勉強の方はからっきしだろ?スポーツとかで稼いだりしとかなくていいのか?」
「いや、だからやってるじゃねぇか。助っ人」
「え、あれって他の生徒に頼まれてやってんだろ?」
「それもあるけど、教師連中に頼まれたりもしてるぜ?内申点を保証してもらうかわりに」
不思議そうな顔で答える久に俺は学校の闇が垣間見え出したのでこれ以上は踏み込まないようにした。
俺と久はコンビニで適当に飲み物を選び店を後にし再び道を歩く。
何故か久の手には似つかわしくないファッション雑誌が握られていた。
「そういえばお前、帰り道こっちだったか?」
「…今日はちょっと寄るとこあるからこっちでいいんだよ」
きっと連れの家か何かだろう。まぁこれ以上は詮索しても仕方がないしする気もなかった。
「おっ、涼介!奇遇やね!!」
すると突然後ろから誰かに呼び止められ俺達は後ろを振り返向くとそこにはジャージ姿の家の居候少女が両手に袋を抱えて佇んでいた。
「…そんな格好でスーパー行くなよ」
俺はまず初めに彼女の着ている紺色のジャージが気になりそれに対し呆れ顔で指摘した。
「だって楽なんやもん」
ジャージ少女は特に気にしている様子もなく、身軽そうにこちらにやってくる。
「八重さんご無沙汰しています。いつも涼介がお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそうちの涼介がお世話になっております」
二人は向かい合うと丁寧にお辞儀をした。
「おい」
俺は突っ込みを入れる。
「あっそうだ」
すると久が何かを思いついたように少女に近づくとコソコソと俺に聴こえないように耳打ちをした。
そして数十秒後話しが終わったのか少女は元気にグッドサインを久に突き出しそのまま久は別の方向へと足を向けて走り出しこちらに手を振る。
「じゃあな、涼介!楽しくなってきたな!」
「お、おおまたな」
何が楽しいかはわからないが何となく嫌な予感がしていた。
俺はそのままパートナーを変更すると、少女と一緒に帰路につく。
「なぁ、あいつと何話してたんだ?」
「何って、GWはみんなと集まって遊ぶから、私も是非って誘われたんよ!!もちろん涼介の友達の子やけん即オッケーしたで!」
「なッッ!?」
俺はさっきの場所に戻り久を目視しようとしたが奴の姿は既に消え失せていた。
あいつ、まさか最初からこれが目的で俺と帰ってたんじゃ……まんまと久に図られたというわけか。バカのくせに変なところはずる賢い。
涼介はうなだれると八重は少し離れたところで首を傾げていたのだった。




