第12話 四月の終わりに
あれからなんやかんや自分をばあちゃんだと名乗る少女は俺の家に居座っている。
相変わらず世話焼きであるらしく、起床から安定して枕元に立つようになり、週に一度は勝手に俺の部屋を掃除までしにくるおかげで、親には絶対にバレてはいけない物の1つや2つは出てくる訳で、最近ではそれを弱みにことあることにそれをチラつかせてくる始末。
入浴時にもお決まりのように一緒に入ってくるし、ことあることに俺が呼び出すと顔のすぐ近くにまで寄ってきたりして心臓に悪い。
最初にもいったことだが、不覚にも俺はあの子を一目惚れしている訳で、それでいて毎日あの調子なのでいつ俺のタガが外れてもおかしくないのだが、今のところ何とか踏みとどまれている状態だった。しかし当の本人はそれにまったく気づいていないご様子だ。
両親に聞いても、やはり彼女は俺の祖父母にあたるらしく、直にそれがわかるというがまだその兆候は見られないまま、もう少しで一カ月が経とうとしていた。
俺はすっかり慣れた桜柄の風呂敷の弁当を渡されるとそれをバッグに入れ今日も今日とて学び舎に向かうため家を後にする。
「いってきます」
するとタタタと小さい音を弾ませて割烹着少女が手をエプロンで拭きながら元気に送り出してくれる。
「いってらっしゃい!」
太陽のような眩しさに背中を押されると俺は家から一歩を踏み出し外に出る。
暫く歩いていると後ろから同じ学校の男子グループに肩を叩かれる。
「ウェーイ!おはよう!涼っち!」
俺は朝からやかましいのに絡まれたことに苛立ちを覚え、静かに睨みながら挨拶する。
「…おう」
「くうぅぅぅ!相変わらず冷ややかな目で対応してくるな!!流石、涼っちだぜ!ところで今日、八重ちゃんはいねぇの?」
つい最近まで顔も知らなかった奴らだったが最近はこいつら含め沢山の男共と話すようになった。
勿論、急に俺のコミュニケーション能力が上がったとかそんなんではなくあいつらの目的はもれなく家で居候している少女目当てだった。
あれからも幾度か外で少女と出くわすことがあり、そのたんびにそのありふれんばかりの笑顔と誰に対してもフレンドリーな性格のおかげで最近では俺を通して学校のクラスの連中は愚か、他学年の奴らにまで話しをかけられることとなり正直かなりめんどいことになっていた。
「知らん。てゆうか何で俺があいつのこといちいち把握してなきゃならねぇんだ」
「そりゃあ、一緒に住んでんなら逐一連絡は取り合ってるだろ?なぁ?お前本当に八重ちゃんにその気はないんだよな!?只の親戚なんだよな!?」
最近は絡んでくるやつは揃いも揃って同じ質問ばかりだ。まぁ正直なとこ滅茶苦茶意識はしてるんだが、今は只の親戚ということで、学校側にも話しがいっている以上余計なことはいうまい。
「ああ、その解釈で問題ない」
すると嬉々とした男共が俺に問い詰める。
「なぁ、俺だけでいいからさ、あの子の連絡先教えてくんね?大丈夫絶対誰にもいわねぇから」
「は?お前何一人で抜け駆けしようとしてんだよ!?ふざけんな!!」
「何言ってんの?お前らはあの子に顔も覚えられてねぇだろ?俺なんかこの間あの子に名前で呼んでもらったんだぜ?完全に脈ありだろうが!」
俺はその不毛な争いを目の当たりにしながら、あいつにはもう少し警戒心というものを持って欲しいと思った。
さて今日はこいつらをどうやって巻こうかと考えているとタイミングよくそいつが現れた。
「よぉ!!涼介!おはよーさん」
「ああ、おはよう久」
久は笑顔で俺に挨拶をすると周りにいる奴らを一瞥し睨みつける。
「朝っぱらからうるせぇよお前ら」
すると男共は目の色を変えてその場から離れる。久はあの日の失態を胸に刻み、あれから俺にまとわりつくようになった奴らを俺の雰囲気で察して追い払ってくれていた。
久はそのガタイと運動神経で腕っぷしもかなりのものであり、自分からは決して暴力は振るわないが、かかる火の粉を振り払うように向かってきた奴等はことごとく返り討ちにしている。
正直、この学校であいつと対等にケンカができるのは思い浮かべても1人しかいなかった。
「その…すまねぇな毎回毎回、お前を悪者みたいにさせちまって」
「何言ってんだ、こうなったのも元はといえば俺のせいだろうが!!お前は何も気にせず前だけ見てろよ!」
やだ…カッコいい
俺は謝罪のつもりでいったのにも関わらず帰ってきた言葉に思わずそう思ってしまった。
念を押すようだが、こいつに悪意はない。ただ単に純粋な行動で起こした結果だ。だが、真実を知った久はその日からいつもにも増して俺に目をかけてくれるようになった。
こういう性格はどこか、あの少女と重なるところがある…そう思った。
「なぁ今度のGW、久々にみんなで遊びにいかないか?」
久は唐突にそう云った。




