第10話 家族の味
女木はそう口に出すとその料理をまじまじと見つめる。長方形で先端が月のように尖っており鮮やかな黄金で包まれた黄身には赤いケチャップが交差するように描かれていて、まるで熟練のシェフが作り出したような完成度だった。
「さあ、おあがんなさいな」
そうゆうと少女は片手にフライ返しを持ちニコッと笑う。
「…ま…まぁ、せっかく作ってくれたんだし食ってけば?」
複雑な面持ちでただオムレツを見つめる女木に俺が恐る恐る試食を促してみた。
彼女は暫く葛藤していたようだったが、漂ういい匂いと隣でニコニコと笑う少女に根負けし食事を共にすることにし手を合わせる。
「いただきます」
用意された割り箸を持ち丁寧にオムレツの中身を広げる。すると白い湯気が立ち込め中に詰め込まれた具と肉汁が溢れ出す。にんじん、きのこ、玉ねぎ、ひき肉その他諸々が垣間見え色鮮やかな見た目に食欲がそそる。
女木は割り箸で卵と一緒に包み込むとそれを自分の小さい口に入れる。
「ん!!」
ふわふわの卵が肉と野菜と絡み合い、上品な味を醸し出しており、女木は口元を押さえ柔らかな表情を浮かべ、自身の味覚を刺激している。
そこから彼女は何かに取り憑かれたように口に入れては咀嚼を繰り返し幸せに包まれていた。
「どうや、結構いけるやろ?」
少女が夢中で食べ進める女木に満足したように問いかけると食べるのに夢中になっていた彼女が反応する。
「…は、はいとても…おいしいです。とても優しい味で…安心するような味…」
卵を溶く際に使用している砂糖や味の素白だしの分量に至るまで適切でしょっぱすぎず甘すぎずを実現させたそれはまさに愛情がこもった家庭料理だった。
「そうやで、誰かのことを思って作る料理はな、かけがえのない隠し味やけん」
彼女は腰に手をやりニシシっとハニカムと白い歯を見せピースサインを送る。
「…誰かを思う料理の味」
女木は箸を止め何かを考えるように呆けていた。
「ほぅら涼介も女の子ばっか見とらんとちゃんと食べーや」
少女がジト目でニヤニヤしながら、俺にちょっかいをかけてくる。
「いや別にそんなんじゃねえって!!」
「どうやろうか、さっきもちょっと目を離しとったらくんずほぐれつしよるし」
「よし、あんた一回黙ろうか」
「はぁ!?ばあちゃんに向かって黙れとはなんや!!」
「どこの世界にこんな見た目のばあちゃんがいんだよ!?」
「おるやんか!?ここに!」
涼介と少女は互いに引かずヘンテコな構えを取り戦意を見せつけている。
「「ガルルルルルル」」
「ぷっ」
そんな2人の会話を聞いて女木が思わず吹き出してしまう。
「や、やめて…お腹…痛い」
それからも元気な少女を中心に賑やかな食事が続いた。
食事が終わると女木は両親が心配するからという理由ですぐに帰宅することになった。
「あの、今日はご馳走さまでした。本当においしかったです」
俺と少女は一緒に外に出ると女木を見送るように隣で立つ。
「じゃあ、また明日学校で」
俺が見送りの挨拶を告げると横の割烹着少女が眉間にシワを寄せこちらを睨む。
「何をよんや?こんな暗い夜道を女の子1人で歩かせる気か?」
俺は少女の威圧に押され仕方なく送っていくことにした。
「やれやれ、ほら早くいくぞ」
「え!?いいよ別に」
「こっちがよくねぇんだよ!察しろ」
そうゆうと涼介は道路側に立ち2人はてくてくと歩いていった。
「…涼介もやけど、あの子も暫くみんうちにべっぴんさんになったもんやね」
少女はそんな2人の様子を暫く見つめていた。




