第七話 私達は気が合いません。
先程志穂から言われた言葉がずっと俺の頭から離れない。人間の帰巣本能が自然と家に辿り着いていた。
志穂の良い匂い、耳の中に来た生暖かい風が俺の意識を阻害する。
もう外は真っ暗だ。21時30分…両親はまだ帰ってきてない。
ぼーっとしたまま俺は扉を開け、中に入る。
「遅かったねぇ」
「あぁ、友達と遊んでた」
祖母がいち早く左側にある扉を開け、心配してたような声でそう言いながら出てくる。
俺は脊髄で喋ってるかのように適当に答えては、階段の上で待つ犬に会いに行く。
昨日と同じようにしっぽを振っている。
悪いが余裕が無さすぎる。軽く頭を撫で、制服をハンガーに掛け、ワイシャツのみ洗濯カゴに入れ風呂場へと向かった。
頭からシャワーを浴びながらずっと考え、ようやく理解が追い付いた。
「なんで俺が居るから残ったんだ?」
俺の疑問は一つしか無かった。理由は分かったが何故俺に執着するかのような言い方をしたのか?
俺と同じように友達が少ないのか?そんな訳ない。志穂はあんなにコミュ力も高そうで何にせよ高嶺の花と言っても良いくらい美少女なのだ。いくらなんでも俺しかいないなんて事は無い。
似たような理由でほぼ全ての可能性が除外される。
シャワーを止め、シャンプーを手に取りながら
「もうそれしかないのかもな」
俺は独り言でそう言った。
それとは何か?言わなくても分かるだろう。多分…いや、ほぼ確実に志穂は俺の事を異性として見ている。
だとしてもこんな普通の俺がどうしてあんな美少女に好意を持たれるのか検討も付かない。志穂なら絶対に他の良い男がいるはずだ。俺をからかってるのか?
「どうしたもんかな…」
そのまま俺は風呂を上がる。考え過ぎて長風呂が出来ないことを忘れていた。頭がクラクラする。俺は急いで居間に向かい水を汲み喉に流す。
ドライヤーをしないと。しかし気力が出ない。もう良いか1日くらい大丈夫だろう。
変に意識してしまう。そりゃ俺だって嬉しい。初カノになりそうな相手が高嶺の花なのだから。
俺は食事も済ませ、自室のベッドに倒れ込む。
「ゲーム…少しだけするか」
ここまで意識してしまってもゲームは見捨てられない。少しだけでもしようとベッドから立ち上がり椅子に座る。
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いつものように犬に突撃され叩き起された。あの後結局ゲームはしたが、まともに集中出来ず、1時間程でやめてしまった。
寝たらマシにはなったが、意識はしてしまう。俺はいつも通りに身支度などを済ませ、家から出る。
「あれ?今日は待ち伏せしてねーのか」
キョロキョロと辺りを見渡すが、志穂の姿がない。まぁ都合が良い。
俺はそのまま同じ通学路を歩き、あの分かれ道に近づくと二人が言い争ってる声が聞こてくる。
「葉月先輩とはどういう関係なんすか?」
「だから教えなーい」
彩花と志穂だった。何があったのだろうか?それに彩花の声は凄く怒ってるようにも聞こえる。志穂は揚々と挑発のような事をしている。
この二人、もしかしたら相性最悪なのかもしれない。とにかく、二人の仲介をしなければ。
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志穂はまた家の前で待ち伏せしようとルンルンで葉月の家に向かって歩いていた。あの分かれ道に辿り着くと、奥から見覚えのある姿が歩いて来ていた。
「あれ?彩花ちゃんじゃん」
「あ、志穂先輩」
志穂は微笑みながら近寄りそう行った。しかしいつもとは顔が違く、なんなら更に可愛く見える。メイクってやつだろう。
彩花も同様いつもより可愛い顔をした姿で会いたくなかったそうな顔をしながら返事をした。
「なんでここにいるの?」
「ウチの家、葉月先輩の近くなんです。だから朝から一緒に行こうと思って」
質問してきた志穂に対してちょっと不機嫌そうにそう言う。
「そうなの〜?でもごめんね?葉月は私と一緒に行く決まりだから。後輩の彩花ちゃんは先に行って貰える?」
彩花のおでこに人差し指を当てながら志穂は言った。
それに対して怒りを感じたのか尽かさず反論する。
「なんでですか?同じ学年なんだからいつでも会えるじゃないですか。先輩後輩関係ないです」
人差し指を薙ぎ払うように指を退かしては、少し睨んだ表情で彩花は言う。
「だって昨日言ったよ?デートするくらいの関係なの。そんなの必然的に私との行くのが妥当でしょ?」
殺意が籠っているかのような笑みで志穂は言う。
彩花は大きく息を吸い
「葉月先輩とはどういう関係なんですか!」
そう叫ぶ。息が上がってるかのように深呼吸をしながら彩花はそのまま黙り込む。
そして葉月が間に入るかのように歩いてきたのだった。
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「ちょいちょいちょい!なんでそんな喧嘩してんだ?」
俺は二人の距離を離しながら交互に二人の事を見つめる。
そして俺は事の経緯を聞いた。内容が俺関連過ぎて言葉が出なかったが喧嘩は良くない。
「まずそもそも、俺はお前らのものじゃない。それに志穂?お前は少し言い方がキツすぎるんだから優しくしろ」
俺を取り合っていたが、別に俺は二人の彼氏では無い。
少し言い過ぎな志穂をじっと見つめて叱る。しかしよく見るといつもと雰囲気が違う。メイクしてるのもあるだろうが、意識してしまうせいで物凄く可愛く見えてしまう。
志穂は俺には従順ですと言わんばかりのスピードで
「たしかに!ごめんね彩花ちゃん」
と言った。
俺が間に入らなかったらいつまで喧嘩していたかも分からない状態だったのによくそんな事言えたな。
彩花もあんな怒った顔していたのに柔らかくなり、首を縦に振りながら
「大丈夫です!こちらこそカッとなっちゃってごめんなさい…」
そう言って頭を下げる。不自然な程の和解だ。まぁどちらにせよ仲直りしたのなら良かった。
俺は二人の頭を優しく叩く。
「ほら、行くぞ二人共」
「分かってます先輩!」
俺はそう言って歩き始めると彩花がにこっにこで俺の左腕に急に抱きついてきた。志穂よりは小さいが柔らかい何かが俺の左腕に押し当てられている。
何が起こったのだ?何故急に?疑問には思うが俺の身体は正直者だ。
顔は赤くなり、心音が早くなる。
志穂はその光景に唖然としながら歩いていく姿を見ている。その時、彩花だけが振り返るように志穂を見てニヤニヤしながら舌を出し挑発するような顔を見せてまた俺の顔を見つめていた。
「ちょ!なにしてんのよ!」
動揺しながらも嬉しそうな顔をしている俺の背中を走りながら叩き隣で歩き始めた。
志穂はじっとその光景を見つめているが、同じ事はして来ない。恥ずかしいのだろうか?
正直、志穂のその胸でこれを喰らえば俺は大変なことになるだろう。
まずいこれ以上は。俺の聖剣が引き抜かれてしまいそうだ。
俺は咄嗟に彩花の腕を振りほどく。後一歩で美少女二人の前で恥ずかしい光景を見せる所だった。
「お前な!いきなり距離近いんだよ!びっくりしただろ!」
「ふん!嫌われちゃったんじゃないの?」
照れながらも俺は彩花を叱る。それにしょんぼりした顔を見せる彩花だった。
追い討ちをかけるように志穂がまた何かを言い出してしまった。この二人はほんとにダメだ。
何か仲良くする方法を探さないと。
「あーもう今日の昼三人で学食行くぞ。仲良くしろほんとに」
やはり飯を食いながら会話するのが1番良いだろう。しかし志穂と彩花は嫌そうな顔をしながらお互いを見合っていた。
「もうお前らと一緒に登下校しないぞ!」
「行きます!」
その言葉を聞いた途端、二人は口を揃えてそう言った。志穂に留まらずなんで彩花まで俺に執着してるんだ?
その後は何事も無く俺達三人は高校に辿り着いた。
注目度は物凄いものだった。二人の美少女が普通の男子高校生と歩いている。俺は視線がほとんど殺気のようなものを感じて苦しかった。
「じゃあまた昼に!」
そう言って一年のクラスに向かっていく彩花。俺と志穂も二年のクラスに辿り着き、教室に入り席に座る。
「あのなぁ志穂。もう少し仲良くできないか?」
単刀直入に俺は志穂に向けて言った。
流石に大変だった。
志穂はそのまま返答してくれた。
「だってデートしてるって言ったのに今日の朝一緒に行こうとしてるのやばくない?」
志穂から出る言葉はおかしいものだった。
俺は呆れながら言葉を考える。何故そんなにも彩花を嫌うのか?
「んな事言わずになぁ、まだ付き合ってるとかじゃないんだから仲良くしてやってくれよ」
別に彼氏彼女なら分かる。嫉妬的なものだろう。しかし今は友人と友人。別に変な感情を抱く必要がない。と思っていたのだが、好きな人が他の異性と話していたら何か嫌だなと感じる部分は共感してしまい強く言えない。
というか何故こんな事を感じてしまったのだ?昨日から俺もおかしくなっている。
「アンタがそこまで言うなら頑張ってみる」
志穂は頑張ったらご褒美くださいと思わせてくるような顔でそう言った。
俺はその顔がやはり可愛いと思ってしまう。少し志穂に甘くなった気もする。変に意識してしまうせいで普段通りに接することが出来ない。
まぁすぐに慣れるだろうし気にする事は無いだろう。
多分……。




