第四話 重愛な二人
一番最初に葉月の元を離れ帰宅して行った志穂は12階建てのマンションに辿り着く。自動ドアが開き、特定のパスワードを入力しもう1つの扉が開く。エレベーターがすぐ目の前にあるが、横の階段をコツコツと音を立てながら上がっていく。
やがてその音は5階で止み、左側に何個も扉がある長い道へと辿り着く。1番手前から三番目の扉で志穂は足を止め、鍵を使ってドアを開ける。
ガチャ...その音だけがこの静かな場所に鳴り響く。志穂は中に入りドアを閉め鍵をかける。
靴を脱ぎ、目の前の扉に歩いて行きその扉を開ける。
「ただいま~っ」
暗闇の中から帰ってくるのは志穂の声だけで返答は何も無い。暗いリビングの電気を付け、壁に掛けられたテレビをつける。
両親はと言うものの、大阪にいる。一年前に葉月と知り合った頃父の転勤で大阪に引っ越す事になったのだが、どういう訳か彼女だけが残る選択をして、このセキリュティが厳重なマンションの空き部屋を用意してくれたらしい。
正直言って、3人家族が入ってもお釣りが出るくらい広い部屋だ。志穂は荷物を適当に地面に置き、テレビの前にあるソファーに制服のまま仰向けになるように寝転ぶ。太ももまで捲られていたスカートが更に捲られ、大秘宝が見えるか見えないかのギリギリのラインだ。
「可愛いって言われた~っ!」
急激に近所迷惑になりかねない声量で言葉を出す。葉月が帰り道に言っていたことを思い返して足をバタバタとさせながらソファーに置かれた枕をぎゅっと強く抱き締める。
「それにあの寂しそうな顔何!?めっちゃ可愛かった!これってもう両想いってことだよね?あ〜好き好き好き好き好き好き好き~...」
志穂の目はハートになり、顔を赤らめながらそう叫ぶ。志穂の好きな人は葉月だったのだ。本人の前で言えないのも納得が行く。
志穂はソファーから立ち上がり、ソファーの後ろにある扉を開ける。その先にあるものは想像を絶するものだった。
パッと見は女の子らしいぬいぐるみや整理整頓された綺麗な部屋。
しかし、ベッドの方を見ると葉月の顔が印刷された等身大レベルの抱き枕が置かれていた。それだけでは終わらない。
志穂はその抱き枕に手を出すのではなく、衣類などが入っているであろうタンスに近づきしゃがむと一番下を勢いよく開ける。その勢いのあまり、紙切れのようなものが数枚宙を舞い地面にヒラヒラと落ちる。
「あーあ、私ったら好きすぎてものに当たっちゃったみたい」
その声は凄く冷静でさっきの興奮はどこに行ったのかと思わせるものだった。
ゆっくりと落ちた紙切れを拾う。だが、それは紙切れでは無かった。葉月が写っている写真だった。タンスの方を見るとぎっしりと写真が詰まっている。全て葉月関連のものだろう。
「良かったー私だけ両親に着いて行かなくて。あんな優しくて可愛い人、絶対居ないし両想いだったなんて。
でもすぐに行動したくないなぁ、私のこんな姿見られたら逃げられちゃうかもしれないし。
まぁその時はその時で逃がすつもりないけど...」
写真を見つめながらまるで病んでいるのかと思わせるような表情でそう言った。
数分間その写真と睨めっこした後、タンスにしまってこの部屋を後にした。
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俺は一軒家に辿り着く。カードキーのようなものを取り出し扉に翳すと、ガチャと音と共に鍵が開く。葉月は扉を開け、中に入ると限界を掃除している祖母と遭遇する。
「おぉ葉月おかえり」
「ただいま」
たった軽い一言の会話で俺は靴を脱ぎ2階へと上がる。少しすると"くーん"と言う可愛らしい鳴き声が階段の上から聞こえてくる。そこには伏せをした状態でしっぽを振る焦げ茶色のミニチュアダックスが葉月を見つめて待っていた。俺は一瞬で笑みを浮かべ階段を上がり切る。
「ちょこ~!ただいまぁ」
帰宅が相当嬉しいのだろう俺に向かって飛び跳ねて来る。よしよしと頭を軽く撫でながら既に開かれている左の扉を通る。
電気は付けられ、リビングには作り置きらしき食べ物が置いてある。
「今日も夜勤ね~とっとと風呂入って...飯食うかぁ」
俺の母は忙しく、ほとんどが夜勤で作り置きばっかだ。父も同様帰りがとても遅いので基本一人だが、二世帯なので一階には母の祖母と祖父が暮らしている。
俺は真横にある扉を開ける。すぐ正面にはモニターとゲーミングチェア、その隣にはベッドくぼみが出来た空間には衣類やタンスと言わなくてもわかるここが俺の部屋だ、荷物をタンスの上置き、制服をハンガーにかけ、ベッドの上でしっぽを振りながら待っている犬と軽く戯れてから風呂場に向かって行った。
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彩花は既に自部屋の中のベッドで横になりながらスマホを見ていた。
辺りの異常は見られないしオタクなのだろうか?アニメキャラのようなフュギュアがどデカいタンスに飾られている。
しかし彩花はずっとスマホを眺めている。
「葉月先輩~♡ ウチだけの葉月先輩~♡」
スマホの中を見てみると、そこにはSNSの葉月のプロフィールが映っていた。目がとろんとしながらもただプロフィールを見つめている。
「てか何あの女、ウチの葉月先輩に馴れ馴れしくして!葉月先輩は私だけ居ればそれでいいのに」
あの女とは志穂の事だろう。まさかの事態だ。葉月が二人の女の子から好意を向けられていたとは。
「あっそうださっそく葉月先輩に連絡しちゃお」
ルンルンでプロフィールを閉じLIMEを開く。
葉月と書かれた名前をタッチしてはメッセージを送信しようと文字をうち始める。
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彩花:先輩!今日の夜時間ありますか?
葉月:どうした?
彩花:その...電話しませんか?
葉月:電話かぁ、今日男友達とゲームする予定なんだよ。多分また深夜までやると思うから厳しいかもなぁ
彩花:そうですか...じゃあまた今度誘います!
葉月:ごめんな~。今度なら予定空けとくから!またな!
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あまりの即レスに彩花は嬉しさを見せていたが、他の予定で埋まっていた為断われてしまった。少し残念そうな顔を見せる彩花だったが、予定は開けてくれる事を知ってまたすぐ元気になるのだった。
「とりあえず絶対1回は電話できるの確定!即既読してくれるなんて...愛してるよ葉月先輩♡」
彩花もまた目がハートになってしまっていた。
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食事をしながら連絡を返し終わった俺は食器を下げ、洗い物をしてから相棒のゲーミングチェアに座り、ヘッドホンを頭につけ、PN5を起動する。パーティー画面には既に皆集まっていた。俺も続けて入る。
「うし!やるど〜!」
「おぉ葉月。なんか元気だね?」
「クックックッ...。夏輝聞いて驚け!俺は神を味方にしたのだ!!」
「我が名はタ・〇ンみたいな言い方やね」
元気そうな俺の声を聞いて夏輝が問うが返答が馬鹿すぎてつこっみが出る。
「今日のメンバーは?俺と夏輝と奏佑と蒼馬と檸檬か」
夏輝、奏佑、蒼馬は中学の友達だ。檸檬はネッ友だが、たまたま北海道に住んでいるので遊ぶこともあるイツメンだ。
「そうだ葉月、今日火曜日で今週の土曜日さバイトある?」
「土曜日は入れてないおー」
「なら良かった。その日さこの5人で遊びに行かん?」
蒼馬が俺に問い掛ける。俺は土曜日は絶対バイトを入れない男なのでもちろん休みだ。
そして遊びを誘われた。
「行こうぜ!どこ行くん?」
「それを今から決める。檸檬も行きやすい所がいい」
「いや俺はどこへだって行ける。最強だから」
俺は質問する。それに対して奏佑が答え檸檬の事を配慮しながら場所を決めようとするが、檸檬は最強な為どこにでも行けると変な冗談を言い出し五人は笑いながらそしてゲームをしながら予定を決めて行く。
しかし、ゲームは更に大連敗を更新した。場所はラウンドツーに決まった。
夜の九時頃ゲームで盛り上がっている中、俺のスマホから着信音が鳴り響く。
「ちょ悪い電話出るわ」
俺はそう言ってマイクをミュートにし、スマホを見ると志穂と言う名前が表情されていた。
「もしもし?」
電話に出ると可愛らしい声がスマホの中から聞こえてきた。
「何の用ですか〜?」
「いまなにしてんの」
「言わなくても分かるだろゲームだ」
「あっそうアンタらしいね。まぁそんな事も面白いからいいけど。明日放課後暇でしょ?私に付き合え」
「はぁ?俺にはなゲームっていう大切な予定が...」
「関係ない!そういう事だからまた明日!」
電話の内容はほぼ拒否権の無いものだった。要件だけを言われ、それに断る猶予もなく話を遮るかのように電話を切られてしまった。
はぁ...と溜息をつきながらミュートを解除しゲームに戻っていく。
深夜2時。ようやくゲームは終了し、歯磨き諸々をすませ自分の部屋のドアを閉じワイヤレスイヤホンを右耳にだけつけ、スマホを持って布団に入る。
葉月は両親には言ってないとある症状を持っていたのだ。
「はぁ、今日もすぐ寝れねぇなぁ」
不眠症───。
簡単に言えば十分な睡眠が取れないものだ。
高校に入ってからこの不眠症によく悩まされている。そしてイヤホンをつける意味は深夜の状態な為、メンタルも低下し弱りやすいのだ。
それを防ぐ為のASMRやシチュエーションボイス。癒しを提供しいつの間にか寝ていた事にする戦法だ。
動画の力も借りつつ俺は1時間後の深夜三時に眠りにつくことが出来た。




