第二話 入学式
キーンコーンカーンコーン。この広い校内にチャイムが鳴り響く。あんなにガヤガヤしていた校門前は今では静まり返っている。チャイムは鳴ってしまったが、葉月らはギリギリセーフという形で遅刻扱いにはならなかった。
32名程の人数が1-Cと書かれた部屋に集まりそれぞれの席に座っている。俺はというものの、一年生で何も出来なかった為、窓側の端っこにただ一人無言で座っていた。周りからは話し声が聞こえ色々な話が飛び交う中、黒板の前に立つ一人の男が口を開く。そう、先生だ。
「はーい静かにしろー。今から今日の全体の流れ説明するからなー」
いつもの事のように真顔で生徒達に向かって言った。その発言で次第に話し声は止み、全員が先生の方を見るように視線を向けた。
「今日から君達は二年生という事で、後輩を持つ事になると思う。人生の先輩として規則正しく過ごせよー」
新しくこの高校に入ってくる新入生達。葉月達はもう二年生だ。新入生にお手本を見せなければならない。しかし俺は教室の隅でだるそうにため息を静かについた。
「(同級生との関わりがほぼ無いのに後輩とか無理だって…)」
俺は心の中で絶望してるように叫んだ。そんな事は知りませんと言わんばかりに先生は続けて喋り始める。
「三年生と二年生は先に体育館に移動して、椅子が置いてあるのでそこにクラス毎に座って待ってもらいます。
入学式が終わった後、1度ここに帰ってきて、二年生のクラス表を黒板に貼ってあるからそれを見て各自移動。その後は移動した所に居る先生が説明してくれるから騒ぎ過ぎず移動しろよー」
説明が終わると同時に生徒達は"はーい"と口を揃えて返事をする。時間が少し押しているのもあって、もう移動だ。先生が"廊下に出て適当に並んでください"と言うと生徒達は席を立ち廊下に並ぶ。A組から順に体育館へと歩き始めた。体育館に到着後、既に三年生は椅子に座っていた。次第に二年生達も椅子に座る。俺もため息をつきながら椅子に座ると、後ろから右肩をトントンと叩かれる感覚がしたので後ろを振り返ると、後ろに志穂が居た。
「あれ?おまえD組だったっけ?」
「は?友人のクラスも忘れるとかもうボケたの?」
俺はどうにも記憶力が悪いのか時々馬鹿になる。その馬鹿っぷりには志穂も呆れた様子で口を開いた。少し不貞腐れながらも俺は話し始める。
「ボケてねぇわ。てか何で俺に話し掛けて来たんだよ?志穂は他にも友達居るだろ?」
「何?悪い?私は葉月に話しかけたかったんだけど」
「悪くないけど?まぁその理由なら仕方ないか」
志穂は正直言って、あまりにも可愛い顔をしているので男からの人気も高く女友達も沢山いるはずだ。それなのにどうして俺に話し掛けたのか疑問に思い志穂に問う。
志穂はその質問が嫌味に感じてしまったのか少し残念そうな顔をしながらボソボソと答えた。
その顔に俺もごめんと言わんばかりの表情を見せた。
少しの沈黙の後、体育館に明るいBGMが流れる。そのBGMは数分後に止まり、マイクを通して男の声が響き渡る。
「第124回 北之海高校 入学式を開始します。新入生入場。大きな拍手でお出迎えください」
教頭らしき人物がそう言うと、辺りは大きな拍手で包まれた。俺と志穂もそれに合わせて拍手を始める。
ゆっくりと体育館の入口から新入生が2列になって歩いてくる。A組からゆっくりとステージ側に用意されている椅子の方へと歩いて行く。しかし俺はA組の中に見覚えのある茶髪の女の子を視界に捉える。
皆もその子が目に入ったのか拍手の中に混ざって微かに近くから話し声が聞こえてくる。その姿は可愛く、少しザワつくのも無理もない程だ。
「さっきぶつかっちゃった子だ。よく見てなかったけどめっちゃ可愛くね?」
「ふーん。可愛いじゃん」
俺はは志穂に向かって拍手をしながら言った。志穂はその事に不満があるように不機嫌そうな顔で共感する。俺はその変化に気づいていたが、触れない方が妥当かと思い、ゆっくりと前を向いた。
A組、B組とクラス毎にゆっくり入場してくる。F組まで入場してから拍手もやがて無くなる。
沈黙が続く中、ステージの中央に向かって歩く頭のてっぺんが太陽に照らされ光り輝く男の人が現れる。中央に辿り着くとマイクを手に持ち、口を開く。
「おはようございます。えー校長の秃輝夫です。まずはご入学おめでとうございます」
その男は校長だった。何がと言わないが名前の通りの人物だ。そして校長と言えば何が始まるか、規格外とも言える長話だ。
そしてとうとう俺は徹夜までゲームをしていた反動がこの退屈な長話によって強烈な睡魔に襲われてしまった。マイク越しに話しているのに俺にはその声はもう聞き取れない。
次第に俺は夢の中へと落ちていってしまった。
「あーあ、ほんとに馬鹿なんだから」
その様子を見ていた志穂はクスッと笑いながら起こすこと無く俺を放置した。
二時間程経っただろうか?とっくに校長の話は終わり、俺は志穂によって背中を優しく叩かれ起こされる。
「んぁ?今何してたっけ」
「ゲームしすぎ。もう校長の話終わったし、新入生の子達退場しちゃったよ?」
「え?俺そんな寝てた?」
既に入学式は終わって三年生から順番に退場していた。俺は目を擦りながら周りを見渡す。
志穂はニヤニヤとした顔でこちらを見つめていた。俺が何か言おうとした時、先生が近付いてきた。
「おい葉月。なーに寝てんだよ」
「あ、先生。これはですね…」
「こいつ、徹夜でゲームしてたんですよー?」
「それは言うなって!」
腕を組みながら俺をじっとニコニコと見つめる先生。慌てた様子で言い訳を考えている中、志穂が本当の事をチクリ、目を丸くしながら俺は焦った様子で志穂を見た。
「葉月〜?後で説教な」
「ちょ待ってくださいよ...」
「冗談だ。まぁでもゲームし過ぎんなよ?そろそろ教室戻るから準備しとけ」
「先生…!!」
怒られる覚悟をしていた俺だったが、先生はとても優しく、今回は見逃してくれた。その事に俺は神を見るかのような目でその場を立ち去る先生を見つめた。
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俺は教室に戻り席に着く。そして言われていた通り、黒板に二年生のクラス表が貼られていた。生徒達が各自移動開始すると俺も自分の名前だけを探しに黒板に近づくと、先生が俺に近寄ってくる。
「お前は2年B組だぞ~」
「なんで知ってるんですか?」
「お前の担任だから。また1年よろしくな」
「ちょマジすか、てことは…?」
「大マジ、荷物運ぶの手伝え^^」
偶然な事にまた同じ先生だった。彼は友成先生。面倒見がよく、学生達の同じようなノリで冗談を言ったり言われたりする生徒の中ではとても評判が高い先生だ。
一年の頃、俺も何回か世話になった事がある為、面識が結構ある。その為か同じクラスの為、荷物持ちとして色んなものを持たされてしまった。 現在地が二階。一年の教室になる為、二年生は三階に移動しなければならなかった。
無駄な荷物を持たされながら階段を上がり、2-Bと書かれた教室に辿り着き、荷物を置く。
トホホ…なんて顔をしながら、座席表を見て指定の席に座る。その席は安定の窓側端っこ。同じ先生だから接待してくれたのだろうか?
「やっほー!荷物持ちー!」
少しの休みも無く、隣の席から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「まじかよ…お前と同じクラスか」
そこには凄く嬉しそうな顔をした可愛らしい志穂が俺を見つめていた。俺はこのうるさいのが隣かよと言わんばかりの顔を見せると志穂はムスッとしながら右肩をフルスイングで引っぱたく。
「もう!何回目だよ!俺の肩無くなっちゃうよ!?」
「アンタが悪い!!私は嬉しかったのに…」
志穂はツンツンしてるのかデレてるのか分からないが、照れ臭そうにしているのが伝わってきた。
俺は何度も叩かれた右肩を撫でながらその姿を見て不意に可愛いと思ってしまい見惚れてしまった。
「ん?何?なんか付いてる?」
「いや!なんでもねーよ」
視線に気づいたのか、志穂は此方を見つめ返してくる。俺は一瞬の判断で顔を背ける。右頬を隠すように手を置いて、動揺してそうな声で誤魔化した。
俺は実際女性との経験などあまり無い。その為、不意の可愛い姿には弱いのだ。自分も照れてしまっている事を志穂を見つかったら何を言われるかわかったもんじゃない。だから咄嗟に顔を背けたのだ。
しかし俺は見ていなかったから気づかなかった。志穂がその姿を見て嬉しそうな笑顔を見せていた事に……。




