20時(1)
そしてさっさと話を済ませようと、転移しようとしたとき、それが現れた。
「少しよいかな?そこのお嬢さん方」
『?!』
慌ててモニカが剣を抜きそうになるのを止める。武器を抜いたらろくなことにならない。
見た目は厳つい老人。身長は三メートルを優に超えていて、漂わせる空気は神格と呼んでよい重々しさ。そう、私たちが異世界に召喚されたときに通過した謎空間にいた、うさんくさい女神と同じような、圧倒される空気感。
「もしかして……神様とか?」
「ほう、なかなか理解が早いの。説明の手間が省けてよい」
『神……だと?』
「そこは敬意を持って様をつけてほしいのだが」
『え、いや、しかし……神というのは女神と……』
「モニカ……それはあっちの世界での話。こちらは多分、この世界の神様よ」
「そちらのお嬢さんは柔軟でよいな。そちらはなかなかの堅物か?」
『う……うむ……』
「ああ、えっと……私たち日本人って、八百万の神って呼ぶくらい、そこら中に神様がいるというのが基本概念だから、受け入れやすいのよ」
「なるほどな」
「それと、モニカと日本語でコミュニケーションできるのも神様の力?」
「ほう、気づいたか」
「まあ、ね」
神を自称する老人は近くの岩に腰を下ろし、私たちにも楽にするよう促したので、遠慮なくそうさせてもらう。なお、モニカはまだフリーズしている。まあいいか。
「ところで、神様が何の用でしょうか?」
「何、時空連続体に綻びが……それもかなり大きな綻びが生じたので来てみただけだ」
「時空連続体?」
「あまり深く考えんでもいいぞ。時間も空間も常に連続して存在し続けていることを指しているだけだからな」
「はあ……まあ……うん。それで綻び?」
「うむ。穴と呼んでも差し支えないレベルだな。何が起きたのかとしばらく様子を見ていたが、塞がったようなのでこれはこれでよいかと思ったのだが……しばらく見ていない間に地球の様子が様変わりしているじゃないか。何があったのかと、事情を知っていそうなお主らのところに来たというわけだ」
時空連続体の綻びって多分、異世界とつながっていた扉とか?いや、その前に私たちが異世界に召喚されたのも綻びのはず。でも、そのときは神様は気づいていなかった?謎が多いわね。あと、うさんくささも。
「うさんくさい老人だな、と思っただろ?」
「うわ、心を読まれてる?!」
「むやみに心は読まんよ。特に女性の心はな」
「どういうこと?」
「知らぬが花、という」
「なんか失礼なことを言われた気がするわ」
「かっかっかっ……まあいいではないか。それにそもそも顔に出ていたぞ。うさんくさそうだ、と」
「それは申し訳なかったです。で、その時空連続体の綻びですけど」
「うむ」
「百年前にも起きてませんでした?」
「……百年前だけではない。この百年間に何度も起きている。そして先だってもでかい綻び、むしろ穴と呼んでいい異常があったのが今は消えている。何か知っているな?」
「ええと……」
こんなときは心を読んでもいいと思うんだけど、話が逸れていきそうなので言わずに、私、そして私たちの身に何が起きたのかをかいつまんで話す。と、話を聞いている神様の表情がついさっきまでの好々爺としたゆるいものから、世界のすべてを憎む鬼かと見まがうほどとなり、空気が一気に冷えていった。
「……というのがさっきまでのことで、異世界から来ている王子一行はそこのダンジョンの中にいます」
「そうか。ところで、謎の空間で出会った女神はこんな姿ではなかったか?」
神様の指先にぼんやりとした映像が浮かび上がる。忘れもしない、私たちをこんな目に遭わせた張本人の顔だとコクリと頷いた。
「そうか……わかった。あとのことは任せよ。もう二度とこんなことは起こらないようにする」
「え……何を……」
「決まっておる。神の座から引きずり下ろし、地を這う虫けらに転生させる」
「わあ……」
「それにしてもそんなことをしでかしていたのか……まったく……っと、そうだ、その前に」
「ん?」
「私からでは筋が違うかもしれんが、謝罪する。いやもう、なんと言って謝罪すればいいのかわからんが、すまなかった。同じ神として、いや、この地を司る者として、あまりに不始末が過ぎた。謝って済むことではないが、本当に、すまなかった」




