18時(3)
そして、ざっと私たちを勇者召喚した後にこの世界で起こったことを話す。あっちで死んだ皆の死体が消え、こちらにダンジョンが出現したこと。こちらの世界には魔物なんていなかったからいきなり人類存続の危機になったこと。戻ってきてみたら百年経っていて、私は家族はおろか、知人の一人すらいない状態だってこと。
そもそも、魔王を倒すなんてのは口実で勇者という人間兵器を欲していただけの勇者召喚がもたらした結果は計り知れない規模の悲劇。
『しかし、我々の国も、魔王の脅威にさらされていたわけで』
『魔王の脅威があったら……他の世界をこんなふうにめちゃくちゃにしてもいいってこと?どれだけの命が奪われたと思ってるの?魔王とあなたたち、どっちが非道かしら?』
『ぐ……』
まあ、この騎士さんは国王に忠誠を誓った騎士の中の騎士、近衛騎士。国のやり方に問題があったなんて間違っても口にできない立場だろうから、口ごもるのも仕方ないのかな。私としては言いたいことを言ったらそれでお終いにしたいので、それだけ伝えよう。
『二度とこんなことを起こさないようにしてほしい。私が言いたいのはそれだけ』
『……確約はできかねますが、私の叔父が宰相の妻の従兄弟になります。その伝手でどうにか』
『任せるわ。それとその王子連れて帰って色々責任とらせるのも追加ね』
『わかりました』
『じゃ、行って。まだ扉は残ってる。今から急げば間に合うわ』
『そうさせていただきます。度重なる無礼に謝罪を。それと助けていただいた慈悲に感謝を』
『受け入れます。時間がないから急いで』
『はい。では失礼します。お前たち、行くぞ』
『『『はっ』』』
王族に仕える彼らは王子の言うことには従うしかない。だけど、私に対する態度とか、実はただの人間兵器として欲していただけとか、その辺を知ってしまうと……ね。
するとモニカが懐から封筒を一つ取り出し、胸元にたたきつけるように渡した。
『これは?』
『もう少し詳細に書き上げた書面と、私の辞表だ』
『わかった。必ず届けよう』
騎士たちは一度ビシッと敬礼をした後、モニカに何発か腹を蹴られて悶絶している王子を担いで学校の方へ消えていった。今からだと、ギリギリかな。あ、私、蹴り忘れた。
「さて、なんて説明しようかな」
見上げた門の上にいる皆さんの渋い表情。どう説明すればいいだろうか。
「ダンジョンは機能停止したのか?」
「多分、ですけどね。少なくともダンジョンっぽさはなくなってますし」
「ダンジョンっぽさ?」
「ええ。モンスターが出てきたりする感じはなくなってます。ただ……」
「ただ?」
「地下に大空洞が残ったまま」
「え?」
「元はダンジョンですから……大きな穴が」
「崩れる可能性は?」
「ダンジョンの壁って普通は壊れないらしいんですけど、ダンジョンじゃないってことは……」
「小出、至急埋め立て工事の手配だ!」
「無理言わないでください、埋め立て工事の手配って、どうやるんですか?」
正論である。
「あの……参考までに。私が探知できる範囲で言いますと、深さはだいたい二百メートル、広さはあの入り口跡を中心に南北に五百メートルほど、東西に三百メートルほどに広がった……蟻の巣みたいな感じ?」
「いやな蟻の巣だな」
「いい殺虫剤、用意しましょうか?」
「後でよこせ。それよりも埋め立てる土砂をどこから持ってくるかが問題になるな」
「あとは形の複雑さでしょうね。入り組んだ形だと上から流し込んでも奥まで届かないでしょうし」
「何年かたっていきなり崩落とか、シャレにならんからな」
話が一段落ついたところで、ウィルがスッと、目の前にやってきた。
「実里様、そろそろです」
「え?もうそんな時間?」
「どうした?」
「例の「扉」が消える予想時刻まであと……」
「二分です」
「連中はたどり着いたか?」
「ええと……ああ、たどり着いたみたいですね。階段登り終えてます」
「そんなとこまでわかるのか。すごいな、探知魔法ってのは」
「実里様の能力は突出しておりますので」
「ウィル、余計なことは言わなくていいの」
「失礼しました」




