17時(2)
『ちょっと中の様子を探るわ。モニカはここで監視を』
『わかった。気をつけて』
『お互いに』
ダンジョンに一歩足を踏み入れ、すぐに戻った。
『実里?』
『これ、マズいわ。かなりマズい』
『一体、何が?』
『いい、見るだけよ?足を踏み入れないでね?』
『う、うん……』
そっとのぞき込もうとするモニカの手をつかんで、万が一にも転がり込まないように用心していると、唐突に振り返った。
『なんだこれは?!』
『でしょう?』
ダンジョンは洞窟タイプっぽい。そう、ぽいんだ。
見た目だけならゴツゴツとした岩肌なのに、生物の体内かのように脈打ち、蠢いている。ダンジョンの中はそんな感じだった。
『触った感じは硬いんだけど、少し押すとぐにっとヘコむ』
『硬くて柔らかいという謎の状態か』
『生まれたてダンジョンってこんな感じなの?』
『知らん。生まれたてダンジョンなんて初めて見る』
『だよねえ』
『それで、どうする?』
『中に王子たちがいるのは間違いないのよね。助けに行く?』
『ふーん』
ふーんって、一応あなたの上司でしょう?ああ、違うか。命令系統的には国王から騎士団長を経由していて、王子には騎士への直接命令権はないんだっけ。王子を護衛するときも国王からの命令を忠実に実行するだけだし、出先で王子が「○○したい」と言った場合でも、護衛の範疇内なら従うんだっけ?
『あと、ダンジョンコアの反応も確認できてる。まだ近いけど、少しずつ奥の方へ行ってるみたい』
『ということは、つまり』
『破壊するなら早めに』
『そうか、では行こう』
『待って』
『何だ?』
『モニカは王子のほうへ向かって、ウィルがいれば案内できるから』
『王子を?なぜだ?放っておけばいいだろう?』
モニカの言いたいこともわかる。勇者召喚なんてのをやった元凶の一人で、私に対しての扱いはひどいし、こっちに来てからの諸々もある。それにモニカはもう国を捨てているのだから、サルヴァート王国の王族に敬意を払うつもりもなければ、義理も義務も責任もない。だけど、
『アレはアレでひどい奴だけど、責任を負わせる必要はある』
『責任?』
『少なくともあっちに戻って、二度と勇者召喚なんてさせないようにしたい。そのためには必要な人材だと思う』
『……わかった』
渋々了承してもらったところで武器をいくつか取り出して渡す。
『これ、持っていって』
『これ……な?!何だこれは?!』
『ドラゴンの骨から試作した剣、ミノタウロスの斧をバジリスクの鱗で強化してみたもの、ベヒモスの牙から作ってみた槍、ね』
『いつの間にそんなのを狩っていたんだ?』
『ま、色々とね。魔王と戦うために用意した武器だから生まれたてダンジョンの魔物程度、一刀両断だと思うよ』
『わかった』
『じゃ、気をつけて。何かあったらウィルを通じて教えて』
『ああ。実里も気をつけて』
右拳をコツンと突き合わせ、モニカはウィルの案内で飛んで行った。文字通りウィルの魔法で浮かび上がって。地面がこんなだと走りづらいからね。
「さて、私も行きますか」
ダンジョンコアは入り口から遠くへ、そして下へ、深く深く奥の方へ移動中。ダンジョンの構造がぐにぐにと変わっている中では私の空間探知によるマッピングで最短ルートをとろうにもなかなか難しいので、手っ取り早い方法をとることに。
「とりあえずこの辺……えいっ!空間破壊!」
気合いと共に魔法を放ち、私が通るに十分な穴を穿って飛び込む。本来、ダンジョンの壁というのは頑丈を通り越した頑丈さで破壊できないとされているが、ウィル爺から教わり、何度も練習し、体の改造によって魔王をも凌駕するほどの魔力量になった私の使う、空間自体を破壊する魔法ならば穴を開けられる。勿論、すぐに修復が始まるので、さっさと通る。空間破壊は百メートルほどにしておいたので、そこからまた方向を調整して穴を開けていく。ダンジョンコアまでの距離、移動速度と私の移動速度から考えると十分ほどでコアに追いつくわね。




