17時(1)
コンコン。
ノックをしても返事がない。
コンコン。
……返事がない。
このまま入ろうかと思ったらドアが開いた。って、モニカが開けたの?
『ご覧の有様で、誰も動けないんだ』
『なるほど』
そろそろ今日の仕事も上がりだろうって時間にもかかわらず、青山さんたちはネットで大喧嘩しているようだった。喧嘩している相手は福岡リージョン他、横浜から福岡の途中にあるリージョンの協会の人たち。
自分のところのハンターをどうして呼ばなかったんだという、予想できたことで、説得するに充分な理由を用意しておいたんだけどなかなか引き下がらなかった。
曰く「福岡から横浜まで転移できるなら、ウチのところからだって」
曰く「お前のところだけじゃなく、ウチも大変なんだぞ」
もうね、なんて言うか……私を酷使すること前提で、私が同意するかどうか次第ってこと、誰も考えてないのよね。
もちろん、私の魔力はとんでもない量なので、今のところ話題に上がっているらしいリージョン十数ヶ所を往復するくらいでは枯渇どころか、減った感じすらしないだろう。
だけど、それはそれ。そもそもリージョンに行ったことがなくて、上空を通過しただけだから、私が行くとなると上空から。いくら私が頑丈でも、高度数千メートルからのダイブを何度もやるのは結構キツいし、そこからリージョンまでは徒歩移動。
全速力で走ればすぐに着くかも知れないけど、そんなことをしたら私の通ったあとにはペンペン草すら生えない荒野が広がってしまう。
そんなわけで、飛行機の航路からそれ程外れておらず、青山さんも顔なじみだという近隣のリージョンが対象になった経緯を何度も説明しているところ。で、なかなか納得しないのでこうして大喧嘩状態というわけ。正論で殴っても全く引かない面の皮の厚さとでも言えばいいのかな?まあ、私にできること、できないことを説明してあるので、必死にフォローしてくださっている姿は尊敬に値する。あとで何か、いい物を差し上げましょう。
そんな様子を見てため息をつきながら椅子に座ったら小出さんが書類をスイッと差し出してきた。
「こちら、全員の職業をまとめたものになります。可能な限り詳細を教えていただけると、助かります」
「ん、わかった」
この職業というのが結構細かい……違うな、言葉通りに受け取りづらいものがあってわかりづらいので、追って説明しますね、としておいたのをあらかじめ整理してくれていた。さすが小出さん、できる女性だわ。さてそれでは一つ一つ詳細を書き込みますかと紙の山の前に座ったところで、それは起きた。
「?!」
「どうした?」
私とモニカが同時に飛び上がるように立ち上がったのを見て、周囲が何事かと立ち上がった。
「マズいです!」
『実里!』
『先に行ってて!』
『わかった』
私の返事と同時にモニカが部屋を飛び出していった。
「何が起こったんです?」
「ダンジョン発生よ」
「え?」
「また?」
「今度はどこだ?」
「場所は……あいつらのいた場所!」
「あいつらって、あの異世界の王子たちか?」
「そう!おっさん詰め合わせの場所!」
「「言い方?!」」
そう言われてもねえ。
そもそもなんでピンポイントでそこにできるかな。日頃の行い?心当たりしかないわね。
「多分、何十年も前に……誰かの遺体、血の一滴とか、髪とかが落ちていて……」
「まったく、とんでもないな」
「どうすればいい?」
「門は封鎖したまんまでしたっけ?」
「ああ。念のためにな」
「なら、それは継続で。あとは現地確認しますけど、早急にダンジョン潰さないとマズいですよね?」
「そうだな……門から数メートルの位置だったか?」
「ええ」
「つまり、他の出入り口が近くにできてしまうと、街の中につながってしまう可能性があるということか」
「そうですね」
「頼んでいいか?」
「ええ。ですが、どのくらい時間がかかるかわかりませんので周囲の警戒を」
「小出、すぐに手配を」
「はいっ!」
「では……行きますっ!」
門のそばに転移すると、すでにモニカはダンジョン化したおっさん詰め合わせ跡地の前にいた。足が速いなあ。
私が構築した、土を固めて作った壁ごとダンジョンに吸い込まれたらしく、そこにはただぽっかり空いた穴があるだけ。
『モニカ、どう?』
『おそらく中級ダンジョン』
『ええ……』
モニカの言う中級ダンジョンというのはダンジョンの規模を示していて、だいたい二十~五十層の階層からなる結構な規模のダンジョンだ。
何度か異世界で探索したけど、各階層もかなり広くて三十層につくまでに数日かかってしまったっけ。
『モニカ、こんな街の近くにダンジョンって、どう思う?』
『危険極まりない。少なくとも私の知る限りでは、冒険者が大勢集まる……いや、呼び寄せている、迷宮都市と呼ばれるような街以外ではあり得ん。ここのような街のそばにダンジョンができた場合は』
『できた場合は?』
『街ごと移転だ』
『大変ねえ……』
『わかっているのか?異世界よりも危険だぞ?』
『え?何で?』
『ここは壁の外にも人が暮らしているんだろう?』
『そうか』
異世界では、スラムですら外壁の内側にあったんだっけ。外壁の外で暮らす人がいないわけじゃないけど、完全な世捨て人か街への出入り自体が禁じられているような重罪を犯して逃亡し続けている人くらい。そのくらい壁の外側は危険と認識されているらしい。




