12時(3)
「扉を抜けて向こうに行って帰ってくる?」
「はい」
「それ、何の意味があるんだ?」
「さっきも話したように、私たちは異世界に行ったときにそれぞれ固有の職業を得て、いろいろなスキルを身につけました。異世界へ行くだけでそれが同じように起こるのではないかと」
「……つまり、ハンターの底上げか」
「はい」
「うまくいったとして、どの程度効果があるか……」
「ぶっちゃけた話ですが……私、錬金術師なんですよ。戦闘職じゃないんです」
「そう言ってたな」
「向こうに行ったばかりの私でも、横浜にいるハンターの皆さんに後れをとらない程度の戦闘力はありました」
「マジか?!」
「つまり、君たちレベルになれるのか?」
「え、ええ……多分」
もちろん、ちゃんと戦闘訓練は受けたし、色々準備して工夫して、という前提はあるし、確実かと問われると、何とも。だけど可能性はあるんだ。
「失敗するとこちらには帰ってこられません。が、うまく行けば戦力は大幅アップです」
「ダンジョンからさまよい出てくるモンスターの対処がしやすくなるし、ダンジョンを潰して回るのもやりやすくなる、か」
「はい」
「やろう。ただし、強制はしない。あと、お前らの予想だとあと三十時間も経たずに扉が消えるんだろう?」
「根拠のない予想ですけどね」
「何、そもそもがダメ元の話だ。で、三十時間か……外国のハンター協会に話をつけても意味はないな。話を通すにも時間がかかるし移動も間に合わん。国内でも、俺の話をまともに聞きそうですぐに横浜に来られる者となるとかなり限定されるが、やれるだけやろう」
ハンターたちは普段活動している集団単位で向こうに行くことになっていて、最初の五人が扉の向こうへ消えていった。
「戻ってこないな」
「まだ入ったばかりですよ?」
「それもそうか」
一応向こうに行って、職業とかスキルとかを確認してから戻ることになっているので、それなりに時間はかかるはず……鑑定の水晶の字、読めるのかしら?モニカなら読める……言葉が通じなかったわ。まあ……なんとかなるでしょう。
「お、戻ってきたぞ」
「ただいま」
「どうだった?」
「どうって言われても……これ、読めますか?」
「ん?」
一枚の紙切れに走り書き。
「そういう方法で解決なのね」
「ん?どういうことだ?」
「鑑定の水晶に浮かび上がった文字を書き写したってこと」
「ご名答。鑑定の水晶に手をかざせと言われていたからやってみたら字は読めないし言葉も通じなかったんで、すっげえ微妙な空気になったぞ」
「あはは……」
「で、思いついてメモ用紙を渡して書き写してもらったんだ。これ、読めるか?」
「はい、大丈夫……っと、次の人、どんどん入ってもらって。っと、メモ用紙、持って行くようにと」
「はい。では次の人……」
見落としていたことだったけど、モニカの機転でなんとかなりそうね。……最悪、私が一人一人鑑定すればいいんだと気づいたのはそれから十人ほど、メモ用紙を読み上げた頃だった。
『ん?モニカ?』
ハンターがだいたいはけた頃、モニカがひょっこり顔を出した。
『残り時間が僅かになったから、戻ってきたんだが、マズかったか?』
『あとどのくらい?』
『三分少々といったところだ』
『ん、頃合いってことね』
『ああ』
まあこちら側もかき集めた実力のあるハンターたちとここに集まれた協会職員は全員向こうに行って何らかの職業を得た。
ここに来ていないのは、横浜リージョンの職員の中でも、青山さんたちが「やめておこう」と判断した者。どういう判断基準かわからないけど、多分良からぬことを企みそうな人だと思う。
その辺の判断に伴う責任や、あとから出てくるだろうやっかみは全部青山さんたちが引き受けることになっている。私たちが引き受けるものではないと。当然よね。モニカはともかく私はまだ未成年……あれ?戸籍上は……考えないことにしよう。
「よし、引き上げよう……その、何だ、頼めるか?」
「ええ。ではまず静岡リージョンの方」
「うーっす」
「はいはい、っと」
横浜に戻る面々はこのまま徒歩で。私が余所から連れてきた人たちは順次私が連れて行く。異世界行き帰りで得た職業やスキルは、私とモニカがわかる範囲で追って説明とした。




