16時
『どうした?やるならさっさとやろう』
『こちらではこうも言うのでしょう?「善は急げ」と』
どうしたもこうしたもないというか、なんて答えれば丸く収まるんだろう……
『いや、あそこで斬り捨てたら、通行の邪魔でしょ』
『それもそうですね』
『しかし、心配は要りません』
『え?』
『細かく切り刻んだ後洗い流せば『うん、ちょっとそっち方面から離れようか』
そう言って、周囲を確認。うん、これなら大丈夫。そう判断して錬金術を構成し、パチンと指を鳴らすと、新たに来た騎士たちと、オッサン詰め合わせ状態の半球を飲み込む形で壁がせり上がる。
内側をオーバーハングにして、私が錬成できるギリギリの硬さを持たせてやれば簡単には脱出できない。これで片付きましたと青山さんたちに報告だ。
「とりあえずこれで様子見で」
「いいのか?」
「何がです?」
「見たところ、彼らも騎士だろう?」
「騎士ですね」
「それなりに高い地位の者ではないか?」
「うーん、異世界の王族とか貴族って、日本で通用します?」
「しないな」
他国の王族、貴族に敬意を表するのは国交があればこそ。国交はおろか、国の名前も知らなければ言葉も通じない上に、いきなりクレームをつけてきたり矢を射かけてきたりする連中に敬意とか言われても、というのがこの場にいる者の総意であった。
「ああ、しかし、こちらに向けて矢を撃てるのではないか?」
「大丈夫ですよ。上が開いてるように見えて、じつは塞がってますので」
「え?あれ、塞がってるのか?」
「はい。空気も通しません」
「それって……」
「そのうち窒息するでしょうね」
「「「エグいな?!」」」
「白旗揚げてきたら解放するつもりですよ?」
「白旗の意味は異世界でも同じなんだな」
「若干違うところがあった……かな?」
王族を護衛している騎士が白旗を掲げる場合、護衛している騎士の中で一番地位の高い者――だいたいの場合隊長だ――の命と引き換えに王族の命だけは、って嘆願を意味するんだったかな。全面降伏に近いと言えば近いから問題はないと思う。
そしてよく耳を澄ますと、微かにガンッガンッと音がする。
「案外元気そうですよ」
「必死なんだと思うが」
「……こ、細かいことは気にしない!さ、戻りましょう!」
「え?ちょっ!わわわっ!」
まとめて元いた会議室へ転移すると、青山さんが足下をふらつかせた後、ひっくり返った。
「運動不足じゃないですか?」
「転移って、ちょっとクラッとくるだろう?心の準備くらいさせろ」
「一秒でも早くあの場を離れたかったんです」
「その気持ちはわかるが……」
ぶつくさ言いながら席に着くので私たちもそれに倣う。
「さてと、どこまで話したっけ」
「ホント、迷惑な連中ですよね」
ええと……
「ちょうど解散、という流れでした」
「ウィル、ありがと」
「そうだっけ?」
「そうですよ。特にこれ以上話すことはないと」
「さっきので話すことが増えてるんだが」
「ええ……」
本当に迷惑な連中だわ。
「そもそも、彼らはどこから来たんだ?」
「んー、多分私たちがこっちに来るときに使った扉、かな?」
「扉?」
「うん」
「……まさか、この先もあんな連中がやってくるのか?」
『その辺、モニカはどう思う?』
『彼らの実里に対する執着は、狂っていると言ってもいい程。可能性は高いと思う』
『ええ……』
「一ついいか?」
「はい」
「その、扉はまだ開いたまま、なのか?」
「うーん……多分開いてる」
「わかるのか」
「まあね」
正確には「わからないからわかる」といった感じかな。あの扉は世界と世界を繋いでいる、まさに神様渾身の扉。空間としては特異点中の特異点で、私の空間魔法による探知に引っかからない。そう、扉の周辺を探知できない状態なの。探知できないということは扉という特異点があっておかしな空間を作り出しているのだろう。つまり、まだ扉は開いていると思う、多分、いや、間違いなく。
『実里、まだ扉が開いているのは確実なのか?』
『私の探知で妙な感じになるって言ったでしょ?アレがそのままなのよ』
『ふむ……ここからは仮説になるが、恐らくまだしばらくは開いたままなのではないか?』
『しばらく?』
『実里の言うように、女神がおかしなことを考えているのなら、こっちの世界で数日間は開きっぱなしか、ある条件を満たすまでは閉じないとか』
『ある条件?』
『一つは時間経過。あっちで一時間程度は開きっぱなしという可能性だ』
『こっちだと百時間か、もうひとつは?』
『実里があっちに戻ること』
『マジか……』
本当に女神がそんなことを考えているとしたら、腐ってるとしか言えないどころか、本当に神様なのかと疑うレベルね。
『そこで、この仮説があっているとして……今後、この世界のためにできることを考えたんだが』
『この世界のために?』
『そう。実里のためにね』




