10時(5)
「さて……どうかな」
追加の結界を二枚被せたところで、球体に変化が現れた。
「おおっ!」
一瞬、球体がボンッと膨らみ、すぐに元の大きさに戻る。だが、すぐにまたボンッと膨らむ。これを数回繰り返した後、球体の一部がウネウネと盛り上がり、元通りに戻る。今度はその反対側、さらに九十度右へ、さらに真下、左上。あちこちがボコボコと盛り上がっては元通りにと繰り返すうち、禍々しい色へと変貌を始めた。
まるで水面に色々なインクをたらしたようなマーブル模様になったかと思えば赤一色、青一色と次々変化している。
めまぐるしく変わる様子は、地上で戦っていた者たちが思わず手を止めて見入ってしまうほどだけど、私としてはいつ大きな爆発をするかと、気が気でない。
「うう……大丈夫かな……っと、これはっ……ふぅ大丈夫。って、また大きく!」
「実里様、落ち着いてください」
「落ち着きたいわよ。早く収まってくれないかな」
一体どれほどの時間が経ったのか、私にはたっぷり二、三時間に感じられるほど経った頃、球体の表面に亀裂が入った。
地上からでは確認できないほど小さかったけれど、球体を監視していた私はすぐに異変に気づき、さらに結界を追加していく。
これで結界は二十枚。これ以上重ねようとすると、結界の構造自体を大きく変えないと入らないかと思った瞬間のでき事で、ウィルと共に「マズい!」と叫んだ。
ズシン、と世界が震えたかと錯覚するような響きと共に球体が爆発した。
そして無情にもパリンパリンと内側の結界が破られる。与えられた衝撃を反射して返す構造の結界でも膨らんでくるものは反射できない。膨張するのに合わせて一枚また一枚と結界が破られていく。
だけど、諦めたりしない。
「空間縮小!」
大きくなってきた球体を無理矢理小さく。
「これならどう?反転!」
ダンジョンの外に向かって膨らんでいく何かをダンジョンの中へ押し返す。
無限に近い広さがありそうなあのダンジョンの内部なら、膨らんでいくダンジョン自身を飲み込ませるなど造作もないはず。蛇が自分の尻尾に噛みついて飲み込んでいっても蛇自身が消えて無くなることはないけれど、あっちで宮廷魔導師を率いていたウィル直伝の空間魔法はダンジョンなんて理不尽にぶつけるには十分すぎるほどの理不尽を引き起こすはず。
そしてさらに二枚、結界が破られた。
「外からも攻撃を!」
「了解!空間破壊!」
あらかじめ用意されていた魔法が発動し、膨張し続ける球体に大きな亀裂が入る。先程までの表面が裂けるようなものではなく、内部まで到達し、粉々に砕けていくような亀裂。
そして、破壊されたダンジョンは、粉々になりながらさらに膨らみ……結界を三枚残したところで膨張を止め、サラサラと砂のように崩れた。
結界の中に砂のように堆積していくダンジョンだったモノをそのままにしていいとは思えなかったので、上空のダンジョンから下のドラゴンゾンビの死骸から溢れるガスでモンスターがのたうち回る方へストローのように結界を伸ばして接続。比較的大きな入り口のあるダンジョンのそばまでのばして、砂のようになったダンジョンだったモノを流し込む。アレが何かはわからないけれど、調べる気も触る気もない。ダンジョンに流し込んで吸収されることを期待する。
見た目よりも体積があるようで、全て流れきるまでたっぷり十分かけて、無事によくわからないけど多分ダンジョンだった球体は消滅。そして、大量発生したダンジョンから溢れていたモンスターたちもモニカや他の駆けつけてきたハンターたちによって駆除された。
数匹、街の方へ逃げてしまったようだけど、ハンター協会が何とかするでしょう、多分。
とりあえず安全になっただろうから、ゆっくりと足場を降ろし、モニカと合流する。
『お疲れ様』
『実里こそ、大丈夫か?』
『ん、なんとか。予想以上に色々起きるもんだからちょっと焦っただけ』
『そうか』
『今日はもう宿に引き上げよっか』
『そうだな。実のところ、かなり疲れた』
さて帰ろうかとしたところへ、村上さんと田島さんが車を降りてやって来た。
「……」
「お疲れのところ申し訳ないが、色々話を聞かせてくれないか」
近づいてきていることは気付いていたけど、こちらに用がないことを祈っていたのに。




