10時(4)
「よし……空間探知」
まずはダンジョン周辺を完全に掌握するため、もう一度探知を行う。自分の位置からミリ単位の精度で穴の大きさを測定し、次に展開すべき魔法を微調整していく。
「結界構築……射出!探知魔法発射!」
筒状に構築した結界を一気にのばしてダンジョン内へ突入させ、その中に探知魔法を固めて叩き込む。これなら内部の様子も確認できるはず。
「さあ……どうかし……ら……って、何これ?!」
「実里様?」
「ウィル、一緒に解析をお願い」
「はい……ほう、これは」
探知魔法で感じ取った内容をウィルにも共有すると……ウィルも少し驚いたようだ。
「何もない?」
「ですな。生物の気配も、地形の概念すら存在しません。虚無の空間です」
ダンジョンにも色々あって、洞窟っぽいもの、人工的な遺跡、迷宮っぽいものの他、青空と草原が広がっているような非常識なものもあるのだけれど、共通して言えるのは「とりあえず壁っぽいものがある」くらい。本来ダンジョンというものは、それだけで完結した一つの閉鎖空間なのだ。しかし、このダンジョンっぽいナニカには境界となる壁がない。天井も地面もない。おそらくこの中に入ったら、宇宙に放り出されたように何もない空間にポツンと浮かぶことになるだろう。
そう、この空間内に突っ込ませた私の結界も、何もないところにいきなりにょきっと生えているんだけど、そのすぐそばが外に通じるわけでもなく、反対側に回り込んでも何もない。そんなトンデモ空間だ。さっき出てきたドラゴンゾンビは一体どこをどうやって出てきたのか疑問だけど、それはもう、そういうものだと受け入れることにしよう。考えても答えはないし。
「さて、この中をどう……ああ、探す手間が省けたわ」
「わかりやすすぎて罠を疑いたくなりますな」
「あはは。でも罠っぽさはないわね」
伸ばしていった結界の先に強い光を放つ物体がある。ウィルによるとこれがダンジョンコアで間違いないらしい。
「じゃあ、破壊するわ」
「お気を付けて」
「え?」
「ただし、ご注意を。このような異様なダンジョン、コアの破壊には想像もつかないほどの魔力が必要になるはずです。実里様でも魔力切れを起こしかねません」
「わかった」
ウィルのアドバイスに従い魔法を構築していく。外側、ダンジョンの周囲に色々内側へ反射する障壁を展開。念のために五重。その外側に単純に頑丈な障壁。これも五重。
そしてダンジョンコアに向けて放つのが、
「空間破壊、起動……そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!!」
「実里様、サイトスコープがありませんが」
「細かいことはいいのよ」
魔法の構築に時間がかかる上、魔力を込めても今ひとつな威力しかなく、おまけに魔法の速度も遅い。要するに魔王、つまり魔法を回避する動きをとるような相手には使う意味のなかった魔法。でも、ダンジョンコアという動かない相手なら!
放たれた魔法がダンジョン内に入ると同時に筒状に伸ばしていた結界を拡張し、ダンジョンコアの周囲を囲むように形を変えつつ、性質も変更していく。球体の外側に展開した障壁のように、内側からの衝撃を反射するように。
かろうじて探知魔法からの情報が届いており、空間破壊魔法がダンジョンコアに順調に近づいていることを教えてくれる。
「あと三十秒。結界もう少し重ねて置いた方がいいかな」
「そうですな。この規模のダンジョン、しかも異様なダンジョンですから何があってもおかしくないです」
二枚追加。
「あと十秒」
地上ではモニカが縦横無尽に駆け回り、ダンジョンからあふれ出てきていたモンスターを狩っている。私が蓋をしたおかげでモンスターの数が増えなくなったので、少しは楽になっているようだ。
「三、二、一……」
探知魔法が空間破壊魔法の発動を検知し、それきりになった。探知魔法自体が空間破壊に巻き込まれたからで、そこまでは想定内。とりあえず魔法は正常に発動したようだ。




