10時(2)
到着してみると、直径が五十メートルほど、高さは十メートルほどの丸い建物が半壊しており、その隙間からはモンスターがあふれ出していた。建物の中はそのまま地面を掘った穴になっていて、相当に深く、モンスターは簡単には登れない……と思いきや、あふれ出しているモンスターの数が異常。互いに踏みつけ、足場にしながらよじ登ってきているのがここからでも見える。そして彼らの上、穴を覆っていた建物の半壊した屋根中央部に直径十メートルほどの真っ黒な球体が浮かんでいた。
モンスターのあふれ出してきた地上は、ギャアギャアと騒ぐゴブリンやらオークやらが手当たり次第に人間に襲いかかり、なぶり殺しにしているまさに地獄絵図だ。
『実里、剣を』
『ん。一人で行ける?』
『問題ない。実里はあの黒い球体をなんとかできるか?ここではあれが一番ヤバいと思うんだが』
『ヤバいってのは同感。なんとかやってみるわ』
『任せた!私は襲われてる人たちを助けて回る!』
モニカ用に適当に錬成した剣を五振り渡すと、『行ってくる』と飛び降り、着地と同時にブンッと一閃。半径五メートルほどにいたモンスターが上下真っ二つに分かれるのを見届けてから、ウィルと共に黒い球体の方へ向かう。
「空間探知……うわ、マジか」
「実里様?何かわかったのですか?」
「あの球体……存在しないのよ」
「は?存在しないとは?」
「私の通常の探知に引っかからないのよ」
「実里様の探知に引っかからないとはまた……」
「うん……うわ、なんだこりゃ」
「他にも何かあったのですか?」
「地面の穴……いわゆる共同墓地としてのあの墓穴、あの中に少なくとも三十くらいのダンジョンがあるわ」
重なっているので実際にはもっとあるかもしれないけど正確に数える余裕も意味もない。
「三十?!」
「ええ。さすがにちょっと多い……って、また一個増えた……うん、五十以上かも」
さて、これはどうしたらいいのだろうか。とりあえずあの黒い球体を調べようとしたところで、ウィルが警告を発した。
「実里様!あの黒い球体から何かが出てきます!」
「了解……とりあえず、周辺を探知……え?」
「実里様?」
私の空間探知はざっくり言えばレーダーのようなもので、周辺にあるもの全て、遮蔽物の向こう側まで詳細に把握する魔法。だからこの位置からも建物の向こう側、つまり視線の通らないところにもモンスターが溢れ始めている様子が探知できている。なのにあの黒い球体は……その存在が探知できない。だけど、その球体の辺りに何かが……そう何かが出てこようとしているのを感じる。
「あの球体……あらゆる方向から中に入れる穴、そんな感じがする」
「フム……言い換えるなら引力のないブラックホールのようなものですか?」
「言い得て妙ね」
とりあえず何があっても対処できるように、足下に結界魔法で足場を造り、身構える。飛行魔法のように位置や姿勢の制御に意識を向けなくて済むので、集中しやすいからだ。
「さてさて……何が出てくるのや……ら……うぇっぷ!」
それが出てきた瞬間、周囲に腐臭がまき散らされた。全体的に景色が黄緑色に見えるのは気のせいじゃないよね?普通に考えたら風より早く臭いが届くはずないのに、異常なことが起こるものだと思いながら息を止めて地上をみる。モンスターたちもこの臭いはきついらしく大騒ぎになっているのが見えた。
モニカは……鼻に洗濯ばさみを挟んでる。いつの間にそんなものを持ってきていたのだろう?それ以上に、そんなものを鼻につけていても美人というのはなぜだろうね。
さて、黒い球体から出てきたブツに目を向ける。出てきたのは腐ったドラゴン。ドラゴンゾンビとかいわれるモンスター。それも相当年季の入った腐り具合で、ボタボタと肉が腐って下に落ち、地面でジュッと煙が上がっている。そしてその周囲でモンスターたちがまた騒ぐ地獄絵図だ。ゴブリンって相当臭いんだけど、そんな連中にも臭く感じるほどといえば、この臭さが伝わるかな?




