10時(1)
モニカは長い鍛錬の末、敵意とか殺意といった気配を感じ取る能力を身につけていて、どうやら何かを感じ取ったみたい。そうした細やかな技術を身につけるヒマの無かった私には何のことやらサッパリ。それでもモニカの様子がおかしい時点で、ちょっとマズいことが起きているのかなと思う。
『何かあるのね?どっち?』
『こっちだ。距離は二キロほど』
『了解』
広域探知魔法を起動。モニカの示した辺り……うわ、何だこれ。
『実里、わかった?』
『何かがあるけどなんだかわかんない』
『……とりあえず、何かマズいというのは間違いないってことだな!』
さて、どう動こうかとしたところへ協会職員が一人飛び込んできた。
「所長!って、そうだった!出掛けてたんだった!」
「どうした?」
「ああ、田島所長!よかった!大変です!」
「何があったんだ?」
「共同墓地にモンスターが!」
「は?」
「えーと、ちょっといいですか?」
「ん?」
話に割り込んできた私に田島さんたちが顔をしかめる。いやだなあ、邪魔はしませんよ。
「取り込み中ってのはわかるんで一言だけ。今から私たち、そちらへ向かいます」
「え?」
「では『モニカ、行くわよ』
『ああ!』
身長的に実里がモニカに抱きつく形を取ると、すぐに飛行魔法を発動させる。
「え?何あれ?」
「さ、さあ……」
魔法で空を飛ぶ。まさにファンタジー。だけど、ファンタジーが酷い形で現実と化しているこのご時世でも未だ実現されていない魔法を見せられ、協会職員たちと見物していたハンターたちはポカンと見送ってしまった。
「って、そうだ!共同墓地が!」
「状況はよくわからんが行くぞ!ここにいる全員、急げ!」
「あれは……街か?」
「コレもおかしいですね。勇者様方の世界では街をああやって壁で囲んでいないという話でしたが」
「ううむ」
「こ、コレは?!」
「どうした?」
「殿下、あの者はここにいる中で最も遠くまで気配感知ができます」
「お、畏れながら申し上げます……あちらの方角から魔王の再臨かと見紛うほどの邪悪な気配を感じます!」
「「「「なんだと?!」」」」
魔王の再臨だと?
「とにかくあの街に向かうぞ!」
「はっ!」
『実里、あれを』
『うわ、何あれ』
飛び出してみれば一目瞭然。共同墓地なるものがある辺りはひと言で言えば「何あれ」である。
『急ぐわよ!』
『ああ!』
――およそ五分前
「えーと、今日は……今んとこ五件か」
共同墓地と言いながら、火葬場も兼ねた施設内で、当番の職員たちが朝礼をしていた。世界が一変したこととは無関係に人は死ぬ。そして葬儀のやり方は百年前からあまり変わっておらず、寺などで葬儀を終えた後にここに運ばれて荼毘に付される。唯一違うのはその後、墓に納骨せず、そのまま共同墓地である大きな丸い建物の中に送り込まれる。この建物、実際には壁と屋根しかなく、中身は空洞で、地面に大きく掘られた穴を外から隠しているだけ。そしてその穴の中に遺骨や灰が放り込まれるのが納骨となる。
そんな共同墓地兼火葬場で今日の出勤となっていた十名ほどが「10時半に二件か」などと確認をしていたところ、突然警報が鳴り響いた。
遺骨と放り込む穴。貴重品がなどはないものの、落ちたら上がってくることはまず不可能なほどの深さがあり、誤って誰かが入り込んで転落しないように赤外線センサーの警報装置が設置されている。それが一斉に鳴り響いたのに職員たちは慌てふためいた。
「なんだ?何があった?」
「ほぼ全部の警報が一斉に?」
そこへ、たまたま外に出ていた職員が「大変だ!」駆け戻ってきたので、全員が慌てて飛び出して見たそこはなんと表現したらよいのかわからない状況。我に返った者が慌てて事務所に駆け戻り、非常ボタンを押したのだった。




