9時(2)
「いいか実里、錬金術の基本は、材料と作りたいものを詳細に理解すること、材料を必要なサイズまで分解すること、作りたいものに合わせて構成すること。この三つだ」
「ええと……」
「難しいと思ったか?」
「はい」
「心配要らん。考えなくても使えるようになるまで反復練習だ」
「え?」
「さて、まずは三日ほど徹夜だな」
「ええええええ!」
という、ウィル爺直々の特訓を受けた結果、これまでに見たことがない、触れたことがないもの以外は、鼻歌交じりに錬成できるようになった。
そう、例えばこの木刀のように、瞬時に組成を理解して分解だけで止めるようなことも簡単にできるようになったのだ。
「へ?」
間抜けな顔をしながら飛び込んだ勢いのままこちらに近づいてくる顔面を右拳で殴りつけると、交通事故でもそんな風には飛ばないだろうというくらいに川口はクルクルと回転しながら吹っ飛び、壁に激突した。
「ってて……何が起きた」
壁にめり込むほどの勢いだったが、川口は何事もなく起き上がってくる。
私がその気になれば、今の一撃で全身ミンチどころか、地面と壁の染みに変えるくらいは造作もない。ただ単にルールとして「殺すな」というのがあったため、力を抑えつつ、右手袋の治癒術の紋様に魔力を流し、数秒間、治癒術が発動するようにしただけ。
「くっそ……何が……おい、そっちのをよこせ!ぶっ殺してやる!」
そう言いながらそばにあった木刀を二本取り、両手で構えて駆けてくる。
まさかの二刀流かあ。
サルヴァートの騎士にも二刀流の者は数名おり、何度か模擬戦をして、相手をしづらかったことを思い出す。二刀流の真価は左右別々の方向から、別々のタイミングで繰り出される攻撃だ。熟練すれば通常の二倍の手数で絶え間なく攻撃されるため、躱して受け流して躱して受け流して……が延々続いてしまい、こちらから攻撃する隙がつかめなくなるのよ。
ある程度――私が単独でオーガの群れを撃破できるくらいまで――強くなるまでは本当に大変な相手だったなと思いながら、こちらに向かってくる川口を見ながらため息をつく。先程と大して変わらず大きくジャンプして、木刀は十字に重ねているという、実に間抜けな攻撃だからだ。昔見たアニメにこんな感じの剣士がいたような?まあ、アニメはアニメだからね。そして現実としてみた場合は……
(馬鹿なのね)
面倒なので治癒術を発動させる魔力を少し抑えた右手で十字になった部分を殴り、そのままへし折りながら顔面へ。物理的におかしく見えるほど、その場でグルングルンと三回転し、ベチッと潰れたカエルのように落ちた。
多分、顔にバッテンの溝が刻まれて一生消えないだろうけど、そんなことは知ったことではない。何しろ、私からは完全に死角となる後ろ、左右から二人の男――えーと、井川と山本だったかな?――がそれぞれ首と脇腹めがけて蹴りを放とうとしているのだから。
おそらく彼らは私からは見えていないと思っているのだろうけど、それがそもそもの間違い。私はあっちの世界で何度も死にかけるほどの傷を負い、そのたびに失った体を魔物の体の一部や鉱石などで補って自身を強化してきた。その過程で、常時いくつもの魔術を起動させながら生活している。周辺の状況を感知する魔術も常時発動しており、半径五メートル以内の猫より大きな物体の移動は常に把握している。もちろんそれよりも範囲を広げられるし、感知する対象を小さくもできるけど、情報量が多いので普段はおさえている。
(面倒くさ)




