9時(3)
そもそもこの決闘って一対一だったはず……あれ?そう言えば確認していなかったかな?まあいいか。どうせ大したことはない。そう考えて常時発動している魔術の一つを停止した。
体を改造していく過程で、いくつもの問題に直面した。わかりやすい話なのだけど、人間に限らず、生物の体は実にバランス良くできている。例えば、時速百キロで走れるようにした義足を作り、自分の足の代わりに取り付けたとしたら時速百キロで走れるだろうか?
答えは否、だ。
走ろうとした瞬間に、大きな力がかかりすぎて、足と胴を繋ぐ股関節が大破して、足が千切れ飛んでいくだろう。ではゆっくり加速していけばいいかというと、徐々に体の方がついていかなくなるし、走るに伴って生じる上下動に脳が耐えられなくなる。
そうしたアンバランスによる問題を解決すべく、空間魔法による圧縮も交えて全身を色々と改造していった――あるいは改造するしかなかった――結果、私の体重は見た目通りではなくなっていった。正確に測る以前に、そもそも正確に測れるような体重計もなかったけど、おそらく数十トン、もしかしたら百トンを超えているかも知れない。そして、そんな体重では日常生活を送るにも支障が出るので、普段は重量軽減の魔術を発動させており、だいたい五十~百キロになるように調整している。調整の幅が広いのは元の体重が重すぎるせい。こっちに帰ってきたときに体がそのままで、なおかつまともな生活をするということになっていたらもう少し細かい調整も考えたんだけど、今のところ必要性がないのでそのまま。そんな魔術を停止したらどうなるか。
「ぐがっ!」
「ぎゃあああ!」
数十トンの重さの岩を思い切り蹴ったらどうなるかなど、火を見るよりも明らか。男二人は足を抱えて地面に転がった。ゴキッと鈍い音がしたけれど、自業自得ということで。これで諦めてくれればいいのに、モニカに向けてさらに男が二人――名前は確か広野と太田だったかな――が走り出した。
あの程度の相手、モニカなら素手でも対応できる。だけど、ここはしっかり彼らの心を折るっておくべき、いや、叩き潰しておくべきだろうと、転移魔法を使用する。
一方、モニカは実里なら問題なく対応するだろうと判断して、ノホホンと待つつもりでいるらしく、気づいていても気づいていないふり。そんな様子にすっかり騙されている二人とモニカの間に滑り込むように転移。振り下ろされようとしていた真剣を素手で握りつぶし、さらに手を伸ばしてそれぞれの手首を掴んでブンッと練習場の真ん中へ放り投げる。「ぶべっ」とか妙な悲鳴を上げているけど、仮にもダンジョンでモンスター相手に戦うのを生業とするハンターなら受け身くらいとればいいのに。掴んだ拍子に手首の骨を握りつぶしてしまった激痛のせいかもしれないから、そこは仕方ない?命のやりとりする現場で、痛いからちょっと大目に見て、なんて言えないでしょう?
ヒュンッと転移魔法で中央に戻り、審判役の田島の方を見る。
「これ、まだ続けるの?」
「うーむ」
完全に気絶しているならともかく、手足が痛いとわめいている程度なら勝負は続行だろうと田島が答えようかと思ったところをちょっとだけ遮っておく。
「これ以上続けるなら、彼らの手足を一本ずつ潰していくわ」
「潰す?」
その場にいた野次馬も含めて首をかしげる。
折るならわかるが、潰すとは?
「具体的にはこんな感じね」
私がトンッと軽く足を上げて下ろすと、ズンッと重い音が響き、足首辺りまで沈んだ。
「これをまずは利き手の手首に。次は右膝、その次は利き手と反対の手首、左膝。それでも続けるなら股間を一度踏み潰してから「わかった!待ってくれ」
ヒュンッとなるものを感じてちょっと腰を引きながら田島が答えた。
「勝負あ「待った!」




