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  作者: ひじきとコロッケ
2126年4月20日
45/66

20時(8)

 ウィルによると墓地と言っても普通に想像されるようなものとは異なり、火葬場が併設されていて、荼毘に付された後、そのまま大きな穴に放り込まれる仕組みとのこと。リージョンの広さに制限がある以上、共同墓地的な扱いになるのは仕方ないのだろうが、これはこれで問題だ。


『どれがダンジョン関係の遺骨なのか全く見分けがつかないわね』

『それと墓地ができてから既に三十年ほど経過しています』

『底の方はダンジョン化しているかもね』


 穴の深さは二百メートル以上はあるらしいし、下に降りる手段は用意されていないから、ダンジョンをどうにかしようとしてもダンジョンに行くまでが大変そうだ。


『それに私たちがダンジョン関連の死体がダンジョン化する可能性がある!と言っても、聞いてもらえるかどうか』

『社会的な地位がないからな……どうしたものか』


 戸籍さえもないような立場だからねえ。


『となれば、できることは一つだな。ハンターとして実績を積み、それなりの権限を持つ者へ進言できるくらいまで上り詰める』

『うーん、できるかな』

『ん?私、おかしなことを言ったか?』


 あちらではサルヴァートに限らず色々な国で、実績を積んだ冒険者が成り上がって、貴族になったり、王族と婚姻関係になったりといったことが可能だったけど、日本では……王族?皇族かしら?今はどこにいるのか……調べないでおこう。

 それはそれとして、そもそもの認識のズレは正しておこう。


『ウィル、確認。今の日本の政治はどうなってるの?』

『政治ですか?』

『そう。国会とか総理大臣とか、そういうの』

『機能しております』

『おお……って、本当に?』

『はい。ただし、実里様の思い描いているものとはだいぶかけ離れているかと』

『かけ離れている?』

『そうですね……まず国民の状況です』


 日本に関して言えば、国民の状況は大まかに三つに分けられている。

 リージョンの外に住んでいる、リージョンの中だけど外縁部に住んでいる、リージョンの中央付近に住んでいる、の三つ。

 そして戸籍管理に相当するIDは原則として全国民に発行されるよう義務づけられているけれど、リージョン外に住む者に関しては正確性は著しく低くなる。ID無しで一生を終えるものもかなりの数に上るのでは、とも言われているほどに。

 そして人口比率。リージョン中央付近、セクター1とか2に住んでいる者は十%程度で、リージョン内に住んでいる者は三十%程度と言われている。「言われている」という曖昧な感じになっているのは、総数が把握できていないからという仕方ない理由による。

 実里たちのいた頃――百年前――はほぼ全ての国民、九十九%以上が戸籍に登録されていたのに対し、現代では戸籍に登録されているのが半分程度ではないかとまで言われている程。いかにダンジョン発生や世界大戦が社会に影響を与えたかがよくわかる事例といえよう。

 そしてこの歪な構造はそのまま政治にも反映されている。選挙権と被選挙権、つまり公民権と呼ばれる権利を有している、いや行使できるのは大半がリージョン内に住んでいる者だけと言っていい。日本の憲法はほとんど変わっていないので、全国民が選挙権を有するのにそうなっていない。理由として一番にあげられるのは選挙の仕組みで、百年前から変わっていない。

 投票所がリージョン内にしか用意されないし、選挙活動もリージョン内。リージョン外に住んでいる者は選挙があった(・・・)ということをあとから知るのみ。そしてもっと悪いことに、立候補の受け付けはセクター1か2で行われるため、セクター3以上の外縁部に住んでいる者はなかなか立候補できない。また、投票所の数もセクター3全体で一、二ヶ所。期日前投票なども外縁部では行われないため、投票日には大混雑……とはならない。

 何よりも、相変わらず紙の投票券が送られてくるので、住所通りに住んでいない者の所には届かない。それにそもそも郵便自体が不安定で、正しく住所を書いても届くのは半分程度。そもそも住所自体もいい加減で、「○○の角を南に曲がって何メートル先」なんて住所はざら。こんな感じで、明治時代の選挙の方がまだマシかも知れない状況で選挙が行われているのだ。そんな感じなので、地方の議会や首長に関してはほぼリージョンの支配者的な特権階級という位置づけになるまでそれほど時間はかからなかったようだ。

 では選ばれる国会議員はどうか。これはこれでセクター1に住む者が大半で、さらにサイバーネットを介したテレビ会議の要領で国会が開催され、各議員の後ろには常にそれぞれのリージョンのトップたちが控えていて、何だかんだと口を出していて民主主義が行方不明になっているような状況。

 実によくわからない構図になっているのが日本の実情であった。


『えーとね、モニカ』

『はい。少なくともこの国には王様はいない』

『え?王がいなくて国が成り立つのか?……もしかして皇帝か?』

『うん、皇帝もいないね』

『ええっと……どういうことだ?』


 封建社会しかなかった世界の住人に民主主義を教えるのは、さすがに荷が重い。とりあえず、国民の代表を選んで、選ばれた人が色々するのだと教えたら、実に的確なひと言が返ってきた。


『その選ばれた者が私腹を肥やすために悪事に走ったりしたら誰が止めるのだ?』

『ええと……あっちの世界で王様が何かやらかしたらどうなるの?』

『クーデターだな』


 うん、暴力は全てを解決するね。

 誰の目に留まればいいのかもよくわからないまま、とりあえずハンターとしての実績を積んでいけば何かわかるかも知れないと結論づけた。

 何をするにしても情報が少なすぎる。そして実里には社会経験が皆無だし、モニカはこの世界の常識に疎い。急いては事をし損じるというし、何より世界中にダンジョンが広まってしまっているのだから、いまさら焦って色々動いても手遅れなのだ。せいぜい、この横浜リージョンの墓地がダンジョン化していないか定期的に確認するのが関の山ということになった。

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