20時(7)
ウィルが調べたところ、色々な情報が公開されているダンジョンが百程。あとはダンジョンがある、という以上の情報はない。
そして、情報の公開されているダンジョンはどれもかなりの広さと深さがあることがわかっている。大きなものだと山手線がすっぽり入るくらいの広さで十層以上あるのも珍しくはないらしく、最深部が何層になっているかわかっていないものも多い。そもそも、わかっているダンジョンなんて数える程度。
そのくらいの広さになってくると私たちでも最深部に到達するまで何日かかるやら。ダンジョンごとに規模が違うとは言え、ダンジョンへの移動も含めて考えると、八百を優に超える数のダンジョンを全部まわったらとんでもなく時間がかかる。何年、何十年単位で、休むこと無く、殺伐としたダンジョン攻略を続けるとか、ブラック企業ですら裸足で逃げ出すんじゃない?ブラック企業の実態なんて知らないし、今の時代にもブラック企業があるのか知らないけど。
しかも、そんなダンジョン攻略をしている間にも新しくダンジョンは生まれてくるだろうという現実。何しろ、ダンジョン内で死んだ者を外で埋葬するとそこにダンジョンが生まれることを知っているのは私とモニカだけ。今は何も起きていなくても、何年か経つとそこら中の墓地がダンジョン化しそう。
そして新しく生まれたダンジョンを攻略している間にも被害が広まって……と、エンドレスになるのは明らか。
『ダンジョンで死亡した場合、埋葬するためであっても遺体を持ち帰るのは禁止、って情報を流すのが先かなあ』
『そうだな。それをしないと永遠にダンジョン攻略する羽目になるところだった』
『モニカ、情報を流したとしてもダンジョン攻略はしないわよ』
『え?』
『数が多いというのが一つ。そしてもう一つは、ダンジョン発生は私にもモニカにも責任はないから』
『し、しかし』
『責任を感じるのは仕方ないと思う。でも……どうしようもなかったんでしょう?』
『う……』
召喚に至る詳しい経緯は聞いていないが、魔王討伐後に勇者を自国の戦力に組み込もうとしていた時点で、色々とどす黒いものが見え隠れしている。
『どうせ「魔王討伐、他国侵略、両方とも為し得ますぞ!」「よしやろう」って感じで進めたんじゃない?』
『……否定できる材料がないどころか、心当たりしかない』
『でしょ?あの連中にモニカが「反対です」なんて言っても、絶対に「お前、それでも我が国の騎士なのか?」とか言われそう』
『う……うむ』
『あんな連中の尻拭いをモニカがする必要なんて、ない』
それに、私だって同意を得ているとはいえ、モニカをこっちに連れてきてしまっている。そして、私は帰る手段に僅かながらも望みがあったのに対し、モニカにはあちらに帰る手段はないというか、帰るつもりがなくなっている。
『さて、色々と面倒なことになってるけど、これからのことを考えましょう』
『そうだな』
『幸いなことに、私たちがいるここ、横浜リージョンを含めた日本は比較的平和。ダンジョン探索でお金を稼げば、それなりのものが食べられて、それなりのベッドで寝られる』
『ええ』
モニカがうっとりと何かを思い出すような顔をしているが、多分あれは今朝食べたモーニングセットかトンカツのどちらかだろう。毎日同じというのも飽きるだろうから明日は違う店に行ってみようね。
『そしてぶっちゃけた話、私たちはダンジョンで稼ぐという一点では世界中見てもトップクラスだと思う』
『暮らすには困らないってことか』
方や魔王を討伐した勇者、方や若手ながらも騎士団の上位者と互角に渡り合え、いずれは隊長かとも言われていた元騎士。ぶっちゃけドラゴンの群れですら蹴散らす自信がある。
『しかし……ダンジョンのことは、できるだけ早く大勢に知らせるべきだろう』
『そうよねえ』
この世界にダンジョンを出現させる原因に僅かながらも関わっていたモニカにとって、できるだけこの世界での被害者を減らしたいのはわかる。
まず考えるべきは、
『ここね』
ウィルが表示している地図の一部を実里が示す。
『ここは?』
『横浜リージョンの墓地』
『墓地……あっ!』
そう、ダンジョンに挑み、死んだハンターはどうなるのだろうか?
もしも、仲間が「丁重に弔ってやろう」と死体をどうにか持ち帰り、墓地に埋葬していたら?
『そうでなくてもダンジョンからさまよい出たモンスターに殺されたら?』
『死体をダンジョンに放り込めばダンジョンは発生しないが……』
『その発想をする人は多分いないと思うよ』
そんな寂しい弔い方って、ないよ。




