20時(5)
2020年代から色々とゴタゴタし出した東側の大国と、その大国に対峙する西側。二十世紀の東西冷戦と全く同じ構図は世界のあちこちで小競り合いを生み出し、当事国もうんざりする状況が三十年以上続いた。そして、その状況をよしとしなかった当時の国連事務総長――二十世紀末から二十一世紀初頭の働き過ぎる事務総長以上によく働く者だった――が、色々と手を尽くし、大国アメリカとロシアが大統領の会談の場を設けた。
場所はハワイ。日付は2058年がもうすぐ終わろうかという12月の27日。
そしてその会談のために両国の大統領他、政府高官が会談の前日までに現地入りした。
ここまでは、特に問題は無かった。
当日の早朝、両国の高官数名が無残な姿で発見されるまでは。
目撃者らしい目撃者もなく、何かで引き裂かれたような遺体を前に、両国大統領が冷静でいられるわけもなく、会談はキャンセル。
その後、互いが互いを非難する声明を次々と発表し、非難に対して反論する声明も発表されるのだが、どちらも要領を得ない内容ばかりである。
通常の自分たちの非を認めないタイプの声明とは違い、「何が何だかわからん!だが、こんな芸当ができるのはお前らしかいない!つまりお前らが悪い!」という内容で、互いに平行線どころか接点すら見当たらず、非難の応酬は一年と経たずに武力衝突へ発展し、開戦となった。
これが第三次世界大戦の開戦の流れである。
『この高官の惨殺って……ダンジョンから出てきたモンスターの仕業じゃないの?』
『その辺りを検証した記事は見当たりませんでした』
そりゃ、そんな検証どころじゃないことが起きてるんだからね。そして、暗殺とかの類いなら色々と根回しだの証拠隠滅だのをしているだろうから、「俺たちは関係ないもんね」って言葉もスルスルと滑らかに出るのだろうけど、そうでないならしどろもどろになるのも無理はない。
『ハワイのダンジョン発生ポイントはこちら。遺体発見現場はこちらです』
『目と鼻の先ね。他に……そうね、その前後、その地域で失踪とか殺人の類いは?』
『誤差レベルとも言えますが、増えています』
『そして、開戦後にダンジョン発見、か』
平時なら関連性を調べる声も上がりやすく、詳細な捜査もされただろう。ハワイと言えばアメリカ海軍の重要拠点でもある。戦争が始まってしまえば、前線基地としてフルに稼働中。すなわち戦時下ではダンジョンの封鎖がせいぜいで、詳しい調査はされなかったようだ。なにしろ世界中に戦争の爪痕が刻まれるのと、並行して増えていったダンジョンとそこから溢れてくるモンスターの脅威により、大国アメリカもそれどころではなくなってしまったのだから。
『そして持ち帰った政府高官の遺体から二、三十年ほどで』
『新たにダンジョンが発生してどんどん広がっていくわけです』
『ええと、戦争が始まったのが……』
『2060年1月中旬、特に日は限定できないようです。各地で牽制し合っていたところに実弾が混じり始めて始まったようです』
ウィルが見せてくれたいくつかの記事には十日頃から微妙な小競り合い……少しだけ国境線を越えてすぐ戻る、みたいな動きが増えてきて、牽制のための空砲が撃たれる回数が増えた。そして相手も牽制に応射するようになった。もちろん空砲で。だが、そのうち何発か実弾が混じり始め、具体的な日時や場所は特定されていなかったが、兵に死傷者が出るまで十日ほど。互いに宣戦布告などの明確な手続きを経ず、なし崩し的に戦争状態に突入したようだ。
ウィルの探し出してきた記事は世界中のメディアが報じた内容をまとめたものとなっているので、この戦争をどう見ているか、色々な視点からの意見が述べられていた。
意見としては大きく二つに分けられている。一つはアメリカとロシアが直接殴り合い、雌雄を決すれば終わるというもの。もう一つは、実際に戦争が始まったのはアメリカ、ロシアどちらの領土でもない全く別の地域だから、どこが主体となっている戦争かわからず、終わりの見えない戦争になるのではないかというもの。




