20時(3)
モニカが姿勢を正し、ゆっくりと告げた。
『今まで……そう、今まで実里は他の勇者候補が亡くなったとき、死体を見たことは?』
『え?』
『どこそこの魔物との戦闘で死亡した、としか聞いていないのでは?』
『確かに「見ない方がいいほどにひどい状態だから」と聞かされていたわ』
見ることで精神的ショックを受け、勇者としての訓練に影響が出るとまずいという判断をしていたのだろうと勝手に思ってるんだけど、何か違うのかな?
『真実は違うんだ。全員、死亡と同時に死体がどこかへ消えているんだ』
『つまり……えっと……』
『王国に残っていた古い記録では、過去に勇者召喚された者も死体は消えたとあったと聞いている。たとえ平穏に過ごし、天寿を全うしたとしても』
『この記事……死んだことで、元の世界に戻された……』
『おそらくは。今まではそれを確認する術が無く、推測だったのだが、そうだった、とわかった』
仲間が死んでも弔うことさえできない。そう聞いたら勇者として役に立たなくなる。それを王国は恐れ、伝えないようにと指示されていたことを追加し、モニカが謝罪した。見事な土下座で。
『申し訳ありませんでした』
謝罪されてもね……
『隠し事があったってのはいい気分じゃないけど、聞かされてもどうにもならないものだし。それに死体が消えたのも、モニカのせいじゃないんだし』
『だが……うん、そうだな』
『ならいいわ』
薄情に聞こえるかも知れないけれど、どうにもできなかった話をほじくり返しても意味はないし。
『では次。ダンジョンが初めて現れた場所はどこだ?』
『お待ちください……横浜とハワイ島、サンディエゴにてほぼ同時期にダンジョンが確認されています。確認された時期は2060年の11月から12月にかけてとなります。それから一年以内に関東地方を中心に数ヶ所で確認されています』
『実里、カントウ地方というのはどこだ?』
『ざっくり言うと今私たちがいるあたり』
ウィルの言葉に続けて当時の新聞記事が表示されていく。「突如として現れた巨大な穴」「謎のモンスターを発見」と言ったような見出しと共に。
内容は見出しのまんまで、実里たちの立場で言えば「ダンジョンが発見されました」「いつ頃できたかは不明」「危険と判断し、警察が封鎖」といった感じの内容だ。鳥頭たちから聞いた内容とズレがあるように感じるけれど、戦争前の頃の情報なんてまともに伝わっていないのは仕方ないとしておこう。
『これも、実里たちには伝えていない情報なのだが』
『ええ』
『騎士はもちろん、冒険者たちの間でも一つの掟と言っていいルールがある』
『ルール?』
『ダンジョンで死んだ場合、死体はそのままにしておくこと。たとえ髪の毛ひと束でも持ち帰ってはならないと』
『どうして?』
『理由ははっきりしていないが、ダンジョンの魔物に殺されるとその死体に、なんというか……ダンジョンの因子のようなものが埋め込まれるらしい』
『ダンジョンの因子?』
『ああ。そして、二十年から三十年ほどかけてその因子からダンジョンが生まれると言われている。二、三十年というのは正確ではないかも知れないのだが、そのくらいだと言われている』
『外に持ち出すと、その死体からダンジョンができるってこと?』
『そうだ』
『それで……えっと、ダンジョンにそのまま残した場合はダンジョンに吸収されるんだっけ?』
『ああ。その通り』
『吸収されてしまうから、ダンジョンの中で新たなダンジョンができることはない?』
『その認識でいい』
『そして、最初に死んだ十人はダンジョンで死んだ……そして死体がこっちへ戻ってきた。そしてダンジョン因子からダンジョンが生み出された……ってこと?』
『この記事にあるヨコハマという地名はこの近辺だったよな?たしか今いるところがヨコハマリージョンだったか』
『ええ……えっと……これか。薊川寺ね』
『寺というのは、教会のようなものか?』
『教会のようなというか、教会と同じ位置づけね』
『つまり、墓地もあるのだな?』
『うん』
つまり、地元の寺に埋葬された結果、ダンジョン因子が成長してダンジョンを生み出したというわけだ。




