19時
『そろそろ人工精霊が安定したのでは?』
『ええ。確認してみましょ』
取り出してみると……うん、いい感じ。
『どう?』
『えーと、これが……うん、予定通り。あとはこれをこうして……』
道具を並べて処理をしながら、一つ大事な話をしておく。
『この人工精霊、結構な知能を持つはずなのよ』
『ええ』
『だから、最初から名前付けをする必要があるんだけど、いい名前、ある?』
『名前か』
フム、と腕を組んで考えること数秒。
『ウィル、というのはどうだ?』
『やっぱそうなるよね』
『実里も?』
『ええ』
ウィルというのはサルヴァート王国の元筆頭魔術師。勇者召喚には直接関わらなかったけれど、私たちの境遇――そもそも魔法の存在しない世界から来たから魔力とか全然わからない――を聞きつけて教育係を買って出てくれたお爺ちゃんだ。
そして、筆頭魔術師でありながら実は錬金術師という、ちょっと変わった人でもあり、私が一番お世話になった、私の錬金術と魔法の師匠でもある。決して類友ではない。
長生きする人でも八十位の異世界で、既に九十後半という高齢だったため、魔王討伐のひと月ほど前に亡くなったけど、その知識と技術には全く追いつけていないどころか、追いつける気がしないほどの人。もちろん魔王討伐後、真っ先に墓前で報告し、元の世界に戻ることも告げておいた人だ。
そんな人の名前をつけて、またお世話になろうというわけ。
『最終調整……ここがこうで……術式を接続して……よし。モニカ、少し離れてて』
『ああ』
あらかじめ用意しておいた錬成陣の上に、各種素材を並べ、その上に人工精霊を入れた丸い球体を乗せ、その上からウィル爺お手製の秘薬――レシピを教わっておいてよかった――を振りかけて、錬成のための魔力を注ぎ込む。するとすぐに錬成陣が輝き始め、素材を陣の中に飲み込むとうねうねと動くエネルギーが生えてきて球体を包み込む。
「くうう……」
ウィル爺にやり方を教わったときに言われたことがある。
『これやると、ワシでも十日は寝込むからな』
王国随一の魔力量を誇る彼が、身動きできなくなるほど魔力増幅魔道具を身につけて、魔力回復薬をラッパ飲みしながらようやく完成させられるレベルの作業。大丈夫、私の魔力量はウィル爺の数十倍を誇る……はず。
「はあああああ!」
気合いと共に魔力を流し続け、錬成陣が点滅を始めながら剥がれて宙に浮き、球体に張り付いて秘薬と同化していく。
『……顕現せよ、叡智の精霊ウィル!』
人工精霊を構築する錬金術は錬金術の中でも最高難易度。そしておそらく呪文は日本語じゃダメだろうと考え、あちらの言葉で詠唱する。
「たあっ!」
ひときわ強く輝くと、一瞬球体が宙に浮いてゴトリと落ち、光が収まった。
『ふう』
『どうだ?』
『上手く行ったはず』
そして見つめる先で、球体がゆっくりと宙に浮き始め……表面に複雑な模様の光の筋が走り、一瞬全体がピカッと光った後、静止した。そして、表面に光の線が浮かび、まるで顔のような形になると、ゆっくりと言葉を発した。
『はじめまして、わが主。私は人工精霊、叡智のウィルです』
『はじめましてウィル。私は実里。十倉実里よ』
『個体名として十倉実里を認識しました。実里様とお呼びしても?』
『ええ、よろしく』
『よろしくお願いします。そしてもう一方』
『モニカ・トリエステだ。よろしく』
『個体名としてモニカ・トリエステを認識しました。モニカ様とお呼びしても?』
『構わない』
『では改めて、お二方に。よろしくお願い致します』
よし、いい感じ。やっぱりとっておきの材料として、ウィル爺の遺髪を入れたのは正解だったわ。え?さらっととんでもないものを入れるなって?大丈夫よ。
ウィル爺に今際の際に呼ばれたときにもらったんだから。
「儂の髪を切って持っていけ。錬金術の材料としてはもってこいのはず。そうだ、人工精霊の材料くらいにはなるだろう」
「え?でも……」
「いいから持っていけ。儂も自分が人工精霊になれるかも知れんとか、今からワクワクが止まらん」
って託されたんだから問題ないわよ。全くとんでもない変態じじいだったわ。ただ、そのときにもう一つ、魔王を倒したときに割れた石も渡されたのよね。
「これを持っていけ。肌身離さずな」
「はあ?」
「儂だと思って」
「捨てていい?」
「冗談だ。だが、必ず役に立つ。空間収納に入れずに持っているんだ」
「……わかった」
いつもの飄々とした空気じゃなくて受け取った石、ちょっとおどろおどろしい空気を纏ってるから、ダンジョンに捨てても悪影響が出そうなのよね。どうしようかしら?
それは置いといて、人工精霊が完成したら次は。




