8時(1)
「なるほどね……まだそんな生き残りがいたのか」
奥の会議室に通され、やって来たのは五十前後の眼光鋭い男性。ハンター協会横浜リージョン支部の支部長の青山さん。ちなみに今いるところはセクター3西出張所だそうで、支部長がいたのはただの偶然。その隣にいる、ちょっと気の弱そうな男性、村上さんがここの所長さん。支部長がいなかったら所長が対応するつもりだったらしい。
うーん、支部長のあの佇まい……うん、間違いない。あれは、少なくとも二、三人処理したことがあるわね!と勝手に殺人経験者認定しておこう。ちなみに私はそんなことはしていません。人型のモンスターや人間の服を着た人でなしは結構倒しましたが。
モニカ?仕留めた盗賊は私の高校の生徒数より多いと思う。
「ま、食い詰めて山を下りてみたら、聞いていた昔話と現実が違っていたってのはよくある話だな。どうやって壁をくぐったのか……地下を通る穴を見つけて入ってみた、か」
いちいちこちらの様子を窺っているけど、もしかして「真贋鑑定」とかそんな感じのスキルでも生えてるのかしらね。でも大丈夫。
ワケのわからないところにいたのは事実だし、壁を越えるのに地下を通る抜け穴を通ったのも事実。嘘偽りは申しておりません……多分。モニカはそういったウソが苦手なタイプだけど、そもそも日本語が通じていないので嘘も何もあったものではないし。
「……嬢ちゃんたち、ここが何する場所かわかってんのか?」
「会議をするところ?」
「そうじゃねえ……ああ……おい小出!」
「はい?」
「あとで説明しとけ」
「まさかの丸投げ?!」
「んで、本題だ。嬢ちゃん、ここはな、腕っ節以外に信じるものがないような物騒な連中が血と泥にまみれながら稼ぎに来る場所だ。その辺どうなんだ?」
「多分……大丈夫かな、と」
一応、ソロで魔王までなら撃破しましたので、魔王より弱い相手ならなんとか戦えます。モニカ?彼女も結構強いですよ?単独でドラゴンはちょっと厳しいですけど。
「それは、追々確認するが……問題はそっちの嬢ちゃんだ」
そういって支部長はモニカを指す。
「ん?モニカがどうかしましたか?」
「モニカっていうのか……そいつ、日本語わかってないだろ」
「ええ。小さい頃は体が弱くて両親以外とはほとんど顔を合わせることなく過ごしてしまったので、日本語よりも両親の母国語に馴染んでしまって」
「で、嬢ちゃんが通訳か」
「はい」
「さっきから聞いてると明らかに英語じゃないよな?」
「はい」
「ロシア語でもドイツ語でもフランス語でもないようだが……どこの国の言葉だ?」
「それが私にもサッパリで」
異世界のサルヴァート王国の言葉です、と思っているのを真贋鑑定しているかも知れないけど、異世界帰りの勇者という事実だから嘘は言ってませんよ?
「ふーん……日本語は教えてるのか?」
「少しずつですが。私と二人で暮らしているぶんには不都合はなかったのですが、ここで暮らすなら必要ですし」
「一つ確認だ。本当に嬢ちゃんが正しい通訳をしているかどうか」
「いいですよ」
私の返事を待たず、支部長は目の前のテーブルに数本のカラフルなペンを並べた。




