19時(2)
しかし引き金を引こうとした瞬間、拳銃がバラバラに斬り落とされた。そして糸井の首筋にピタリと当てられた鋭い切っ先……いや、あまり鋭くなかったかな?そろそろ研いだほうがいいね、多分。
「へ?」
間抜けな声を発する男がすぐ横で剣を構えているモニカを見てから恐る恐るこちらを見る。
「えっと……」
「一応、いきなり殺しちゃダメよ。一発だけなら誤射かもしれないし、って言ってあるからまだ大丈夫だけど、どうするの?まだやる?」
「い……いいえ」
男が目を泳がせている中、モニカが不満げに呟く。
『実里、斬り捨てていいか?』
『ダメよ。まだ情報を引き出したいから』
『そうか。斬ってよくなったら言ってくれ』
……モニカ、おそろしい子!
糸井が指先にかろうじて残っていた引き金の残骸を捨てながら両手を挙げて降参の意思を示す様子と、実里の『解放して』にモニカは少し不満げにフンと鼻を鳴らしてから剣を納めた。とりあえず「むやみに殺さないようにね」と何度も言い含めておいたのを守ってくれたことにホッと息をついて、糸井に告げる。
「ぶっちゃけたところ、私たちはあなた方の組織なんてどうでもいいのよ」
糸井には、無用な殺生をするつもりがないことだけは伝えておく。
彼らの話を100%鵜呑みにしたわけではないけれど、少なくとも見たこともない壁がある時点で社会体制が大きく変わっているのは事実。もしかしたら拳銃所持くらいは犯罪ではないかも?さすがにそれはないと思いたい。まあ、黙認されているというか、必要悪としてこうしたアウトローを気取る連中がいたとしても、いちいち私が気にかける必要はないか。だいたい、「ここにアジトがあります」って通報する手段がないし。
とりあえず怪しいところから攻めてみるか。
「私たち二人の戦力が知りたいなら見せてもいいわ。あなたが最期に見る景色がこの掃き溜めのような部屋で構わないというのなら、今すぐ見せてあげるわよ?」
「やめておく……って、言って聞いてもらえるか?」
「私としては情報が欲しいのよ」
「情報?」
「私たちは今のこの世の中のことがよくわからない。例えば……ここに来る間にえっと鳥頭だっけ?」
「鳥坂ッス」
「そう、その鳥頭「鳥坂」
「うん、ちょっと黙ってて……でその鳥頭が、アンタにどうやって連絡を入れてたのか、とか」
「あー、ちょっといいか?後ろ……げ、マジかよ」
「ん?」
糸井が少し姿勢を変えて私の後ろを確認して驚きの声を上げる。
「お前ら……BCポートないのかよ」
「BC……何?」
「BCポート、ブレイン・コネクト・ポートだよ」
「脳と接続する……端子?」
「そう。そのポートにこいつを差しておけば、いくらでも連絡は取れるぜ?」
そう言って出してきたのは厚さ一センチほどの名刺より少し小さいサイズの箱。そこから伸びたワイヤーが糸井の首の後ろについた端子へつながっていた。
「USB TYPE-C?」
「なんだそりゃ?」
まさか、USBって無くなったの?ええ……スマホの充電どうすればいいのかしら?
「これがBCポートだ」
「なるほど。脳に電極ね」
「若干違……ま、いいか。とりあえずこれがありゃいつでも……両手が塞がっていても連絡が取れるぜ?」
詳しくは糸井も知らないらしいけど、なんでも2050年頃に開発された技術で、第三次世界大戦では兵たちとの連絡に大活躍……する一方、通信の傍受・改竄を行って混乱させるなんてことも行われたんだとか。
そして戦争が終結する頃には技術的にかなり成熟していて、横浜リージョンでBCポート手術をしていないのは肉体的に成熟していない子供か、今更そんなものを使ってもという老人と宗教的理由がある者くらい、らしい。つまり私たちは天然記念物並みの珍しい生き物になっちゃったというわけ。




