19時(1)
「あそこです」
「おお、確かに壁がある」
男たちの案内で進んでいくと一時間もしないうちに「横浜リージョン」と呼ばれる、壁で囲まれた都市の最外壁が見えてきた。高さは五メートルほどでその向こうにも建物があるのがチラホラ見える。
「一応聞きますけど、姐さんたち、IDは持ってないっすよね?」
「ID?」
「ですよね」
「任せてください。何とかしやす」
大きな通りを進んでいった先には門があるようで、人々の列が作られている。どうやらあの壁は完全に外と中を隔離しているわけではなく、出入りは可能なようだ。
「なんで、あんな壁を?」
「外からモンスターが入り込んじまうからです」
「モンスター?」
え?モンスターって……何?
「姐さん、まさか一度も見たことねえんすか?」
「初耳よ」
「そうっすか。まあ、その辺の詳しい話はボスのところで。あ、こっちです」
ボスねえ。アウトローなイメージ通りと言えばイメージ通りかしらと、男の先導について茂みの中を進んでいくと、モニカが剣に手をかけてこちらに耳打ちしてくる。
『あの男、実里に何かおかしなことを言ったのか?なんなら斬り捨てるぞ』
『待って、ちょっと待って。そんな物騒な話はしてないから。ほら、あの壁見て。モニカはどう思う?』
『はあ……街とはああやって壁で囲むものでは?でないとモンスターや盗賊の侵入を許してしまって大変な事態を招くだろう?』
異世界あるある来たわ。というか、さっきまで私のいた異世界の街もだいたいそんな感じだったから、モニカの返事は納得のいくものだったね。
「ここです。暗いし、階段急なんで気をつけてください」
『彼は何と?』
『暗くて急な階段だから気をつけろって』
『思った以上に紳士だな……ふむ、あれがこちらの世界の紳士的な格好なの……か?』
『一応聞くけど、アレが紳士だとしたら、モニカは淑女になりたい?』
紳士はヒャッハーなんて言いませんし、モヒカン&肩パットの格好もしません。
多分。
百年経っても、紳士の概念が変わってないならね。
薄暗い地下道(?)を進むこと少し。突き当たりの階段を登るとどこかの建物の中で、さらにそこから三階まで上っていく。
「ボス、俺です」
「「俺」なんて名前の知り合いはいない」
「鳥坂ッス」
「入れ」
そう言えば名前を聞いていなかったなと思いながら、鳥坂という男に続いて中に入ると、アニメや映画に出てくるヤのつく自由業の下部組織リーダーを絵に描いたようなスーツを着崩した「俺、カッコいいっしょ」と言いたげな男、糸井――ここに来るまでにボスの名前は聞いておいた――がソファにふんぞり返っていた。
「そいつらが?」
「へい」
「ふーん、そいつらがねえ……」
なんかわかり合っちゃってるし。むしろ、あらかじめ私たちをここに連れてくるって連絡を入れていた?いつ?他の男たちも含め、スマホとかいじってる様子は無かったんだけど。
「鳥坂……本当に連れてくるとは思わなかったぞ」
「へ?」
「壁を越える隠し通路を、どこの馬の骨ともわからん連中に教えて、おまけにアジトまで案内しやがって」
「え?で、でもボス!連れてこいって!」
「……お前はバカか?どっか壁の外に待たせときゃいいだろうが」
「あっ」
「ということで死刑。そっちの嬢ちゃんたちも同罪。運がなかったな」
そう言って糸井がスルリと懐から出したのは拳銃。百年経ってもこういうアウトローな方々は拳銃を手に入れる手段を持っているのねと感心しながら、こちらに向けられた銃口を見つめる。殺意的なものはモニカも感じているようだから問題ないでしょ。
「じゃあな」




