第1話 夏の盆と、帰り道
夕方の天野家リビング。
御珠がソファで読書をしていると、雪杜のスマホが短く振動した。
「……父さんからだ」
「……ふむ」
御珠は本のページをめくる手を止めずに、静かに聞き耳を立てた。
雪杜が通話ボタンを押す。
「もしもし」
『……雪杜か。久しぶりだな』
電話の向こうから、俊明の声が聞こえた。
「うん」
『お盆のことなんだが……』
「うん」
短い沈黙が落ちる。
『……仕事が立て込んでいてな。墓参りには行けそうにない』
「そっか」
『すまない』
(仕事、か……まあ、そうだよね)
(夏休み、家族と過ごしたいんだろうな)
(こっちに来るだけで2日消費しちゃうし)
雪杜は小さく息を吐き、努めて落ち着いた声を出した。
「気にしなくていいよ」
『……』
「修一さんと一緒に行くから」
『……そうか。頼む』
電話の向こうで、かすかに息を呑む気配がした。
躊躇いを断ち切るように、俊明がひどく真摯な響きで告げる。
『一周忌は、必ず帰る。それだけは約束する』
「うん。分かった」
『……体に気をつけろよ』
「お父さんも」
通話が切れる。
雪杜は、スマホをゆっくりとテーブルに置いた。
「……よいのか?」
「うん」
「寂しくはないか?」
「……寂しいかどうかは、よく分からない」
(いままでもいなかったわけだし)
胸の奥にあるのは、小学生の頃から続く静かな諦めだった。
「でも、修一さんが来てくれるから」
「……うむ」
御珠が本を閉じ、静かに雪杜の隣へ座る。
「晴臣に、会いに行けるのじゃ」
「……うん」
二人はしばらく黙って、夕暮れの光が差し込むリビングに並んで座っていた。
―――
お盆の朝。
天野家のチャイムが、静かな室内に鳴り響いた。
雪杜が玄関の扉を開けると、そこには修一と和江が立っていた。
和江の腕には、大事そうに風呂敷包みが抱えられている。
「会いたかったよ!雪杜くん、御珠ちゃん!」
「和江殿!」
和江の弾むような声に、奥から御珠がパタパタと駆け寄る。
「顔色いいねぇ。ちゃんと食べてるねぇ」
「うむ!毎日食べておる!」
「えらいえらい」
和江は目を細め、嬉しそうに御珠の頭を撫でた。
「上がらせてもらうよ」
「はい、どうぞ」
修一の言葉に雪杜が頷き、二人を仏間へと案内する。
和江が座布団の傍らで風呂敷を解き、ジュースセットと菓子折りを仏壇の前に供えた。
「晴臣……来たよ」
和江が線香に火をつけ、静かに鈴を鳴らす。
四人は並んで座り、静かに手を合わせた。
(……雪杜くんと御珠ちゃん、立派に育ってるよ)
(……おじさん。ちゃんと見てますよ)
細い煙が、風のない空間をまっすぐに立ち上っていく。
しばらくの静寂の後、修一がゆっくりと顔を上げた。
「じゃあ、行くか」
「はい」
修一の静かな声に、雪杜が短く応える。
「晴臣、きっと喜ぶよ」
「うむ!」
和江が立ち上がりながら言うと、御珠も元気よく頷いた。
家を出て、雪杜は修一の車に乗り込みながら、ふと空を見上げる。
(今日は晴れてよかった)
抜けるような夏の青空が、彼らの頭上に広がっていた。
―――
墓地には青い空が広がり、絶え間ない蝉の声が降り注いでいた。
石畳が、じりじりとした夏の日差しを受けて白く光っている。
四人は、晴臣の墓の前に立った。
修一が桶に水を汲み、雪杜が柄杓を受け取って丁寧に墓石へ水をかける。
和江が花を供え、線香に火をつけた。
白い煙が、風のない空へ真っ直ぐに立ち上る。
四人は静かに手を合わせた。
(……晴臣。雪杜くんと御珠ちゃん。本当にいい子たちね)
(……おじさん。俺がしっかり面倒見ます)
(……おじいちゃん)
(……晴臣よ。妾は元気にしておるぞ。雪杜も元気じゃ)
蝉の声だけが、周囲を包み込んでいる。
不意に吹いた風が、線香の煙をゆらした。
「……顔、見せてあげられてよかった」
「……うん」
和江のしみじみとした呟きに、雪杜が小さく頷く。
「晴臣、きっと喜んでるよ。うんうん」
誰も急ごうとはしなかった。
四人はしばらく、穏やかな時間の中でその場に立っていた。
―――
帰りの車内。
修一が運転し、和江が助手席に座っている。
後部座席には、雪杜と御珠が並んで座っていた。
「このあと、うちにも寄ってくれよ。ご馳走を用意してある。一緒に食べよう」
「え、いいんですか?」
バックミラー越しに声をかけてきた修一に、雪杜が目を丸くする。
「ああ。お盆ってこういうもんだろ」
「うむ!馳走になるのじゃ!」
「うんうん!いっぱい食べてもらわないとね」
御珠が無邪気に喜び、和江が朗らかに笑う。
しばらく、車は夏の道を滑るように走っていた。
ふと、和江がぽつりとこぼす。
「……しかし俊明は薄情だねぇ。
自分の子供を放ったらかしにした上に、親の墓参りにも来ないとは」
「母さん!」
修一が慌ててたしなめる。
「……」
「雪杜くん。ごめんよ」
気まずそうに謝る修一に、雪杜は静かに首を振った。
「いいんです。
父さんには父さんの暮らしがありますから」
「にしてもだよ。
新しい家族がいるかもしれないけど、一緒に来ればいいじゃないか」
和江が納得いかないように唇を尖らせる。
雪杜は、膝の上に置いた両手を見つめながら、淡々と答えた。
「たぶん……合わせたくないんだと思います。
僕が気を遣うので」
(本当の理由はたぶん……)
「そういうもんかねぇ」
車内に、しばらく沈黙が流れた。
運転席の修一が、前を向いたまま小さく息を呑む。
(……雪杜くん。やっぱり気づいていたか)
張り詰めた空気の中、御珠がそっと、雪杜の手に自分の手を重ねた。
少しだけ体温の低い、神様の柔らかい手。
(……御珠)
繋がれた手の温もりを感じながら、雪杜は顔を上げる。
窓の外を、まぶしい夏の景色が静かに流れていった。
―――
浜田家のリビング。
テーブルの中央には寿司桶が鎮座し、人数分の椀が並んでいる。
キッチンに置かれた大鍋からは、すでにたっぷりと具材がよそわれていた。
「いい馬肉が手に入ったから煮込んでおいた」
「夏バテしないように、朝からしっかり煮込んでおいたのよ。
少し冷ましてあるからすぐ食べられるわよ」
馬肉と豆腐、ネギとキャベツとゴボウが煮込まれた汁物が、椀の中でほんのりと湯気を立てている。
「わぁ。美味しそう!」
「うむ。馳走になる」
雪杜と御珠が目を輝かせる中、リビングに入ってきた一樹の動きがピタリと止まった。
「あ……」
(……うわ。相変わらず、なんか、すごい……)
「どうも……お邪魔してます……」
「世話になるの」
雪杜たちが挨拶をするが、一樹は御珠の美しさに見惚れたまま固まっている。
すかさず、修一の鋭い視線が飛んだ。
「どうぞ……」
一樹は何か言いたげな口を噤み、黙って自分の椀に箸をつけた。
「……馬肉とな」
「御珠ちゃん、食べたことある?」
不思議そうに椀を覗き込む御珠に、和江が笑いかける。
「初めてじゃ」
「食べて食べて!お寿司もあるからね」
促されるまま、御珠は椀の汁を一口すする。
「……うむ!」
パァッと表情が明るくなった。
「これは……よいのじゃ!」
「よかったぁ。うんうん」
雪杜も慌てて一口すする。
「うんま!なにこれ!?」
「雪杜くんもいっぱい食べてねぇ」
「遠慮しなくていいぞ」
「おかわりください!」
和江と修一が微笑ましく見守る中、一樹はまたちらりと御珠の方へ視線を泳がせた。
「一樹」
修一の低い声。
「……馬肉うまいな」
「そうだな」
慌てて取り繕う一樹をやや不憫に思ったのか、修一が助け舟を出した。
「一樹。挨拶したらどうだ」
「えっと……一樹です。篠見東高校2年」
「あの……天野 雪杜です。篠見中学校2年です。いつもお父さんにお世話になってます」
雪杜がペコリと丁寧にお辞儀をする。
「天野 御珠じゃ。同じく篠見中2年。修一には感謝しておる」
「……いや、こちらこそ」
(御珠ちゃんって言うのか……)
一樹は照れ隠しのように、また御珠をちらりと見た。
その視線に気づいた御珠が、きっぱりと言い放つ。
「妾は雪杜以外に興味がないぞ。妾に惚れるでない」
「え!いや惚れるとか……そんな……
え!?いま名字同じじゃなかった!??」
「いいんだ。そっとしとけ」
混乱する一樹を、修一がピシャリと睨みつける。
「お、おう……」
気まずくなった空気を変えるように、和江が明るく手を叩いた。
「御珠ちゃんはお勉強、得意なの?」
「歴史は得意じゃ。じゃが……他はからっきしじゃ」
「あらー!雪杜くんは?」
「得意な方だと思います」
「うんうん!二人で助け合えるね」
和江の言葉に、御珠は誇らしげに胸を張る。
「うむ!毎日雪杜に教わっておる」
「まぁテスト前だけだけどね」
「毎日じゃ」
「ふふふ。仲いいねぇ」
和江が楽しそうに笑い、場がふわりと和む。
テーブルの上で、穏やかな昼食の時間が流れていった。
―――
食後。
お茶を飲みながらひと息ついていると、修一がふと切り出した。
「せっかくだから、うちの自慢の風呂に入っていかないか?」
「え……いいんですか?」
「ああ。ゆっくりしていけ」
「御珠ちゃんも一緒に行きましょ」
「うむ!行くのじゃ!」
和江の誘いに御珠が即答する。
それを見ていた一樹が、そわそわと腰を浮かせた。
「お、俺も行きたい」
修一がジロリと睨む。
「……風呂、好きなんだよ」
(御珠ちゃんの浴衣姿とか見れたり……)
「……そうだな」
一樹の邪な内心を察しつつも、修一は短くため息をついて了承した。
―――
浜の家。
夏の昼下がり、客足の落ち着いた時間帯だった。
玄関を入ると、フロントには修一の妻である麻衣の姿があった。
「あら、あなた」
「風呂使わせてくれ。雪杜くんたちを連れてきた」
修一の言葉に、麻衣が雪杜へと目を向ける。
「あら、雪杜くん」
「え……あ、初めまして」
「ふふ。通夜でお会いしてるのよ」
「す、すいません……何も知らなくて」
恐縮する雪杜に、麻衣は優しく首を振った。
「いいの。大変だったものね」
麻衣は装いを正し、温かい笑顔を向ける。
「浜田 麻衣です。よろしくね」
「えっと、こちらこそ。いつも修一さんにはお世話になっています」
「麻衣殿。よろしくなのじゃ」
「ふふ。御珠ちゃんね。皆が言ってた通り、かわいらしい」
「ありがとうなのじゃ」
麻衣の言葉に、御珠が上機嫌に頷く。
「じゃあ、ゆっくりしていってね。今の時間なら誰もいないと思うわ」
「ありがとうございます」
フロントで館内着の浴衣とタオルを受け取り、脱衣所へと向かう。
「じゃあ、男湯はこっちな」
「御珠ちゃんはこっちよ」
「うむ!」
和江たちと別れ、男湯の暖簾をくぐる。
(……御珠ちゃん、浴衣……)
「一樹」
「……早く行こうぜ」
「そうだな」
未練がましそうな一樹の背中を、修一が小突いて中へ促した。
湯気の向こうには、誰もいない広い湯船が広がっていた。
「うわー広い」
(大きいお風呂。修学旅行以来だな)
雪杜は感嘆の声を漏らす。
「晴臣さんもたまにきてたんだぞ」
「え、おじいちゃんも?」
「ああ」
(知らなかった……きっと僕を気遣って出かけないようにしてたんだ……)
胸の奥が少しだけチクリと痛む。
雪杜はゆっくりと湯船に体を沈めた。
「あー、なんか贅沢~」
「だな」
一樹と並んで足を伸ばした、その時だった。
薄い壁を隔てた女湯の方から、声が飛んでくる。
『雪杜~。湯加減はどうじゃ~』
「え!?御珠!!?また!?」
いつかの修学旅行での出来事を思い出し、雪杜は真っ赤になって立ち上がった。
「え、御珠ちゃん!?」
一樹も驚いて壁の方を見る。
『雪杜よ~、照れておるのか~』
「もう!やめてよ御珠ー!」
『ぬはは。誰もおらぬのでよいではないか』
『御珠ちゃんたら、大胆ねぇ』
壁の向こうから、和江の楽しそうな笑い声も聞こえてくる。
「はぁ。恥ずかし……」
雪杜は肩まで湯に浸かり、顔を覆った。
「なんかすげーな。お前ら」
「いや……何というか……」
「……賑やかでいいな」
修一が目を細め、静かに湯を楽しむ。
しばらくして、一樹がふと疑問を口にした。
「なぁ。御珠さんって妹か何か?」
「一樹!」
修一が鋭く咎める。
「えと……兄妹ではありますね……」
「え、でもさっき雪杜くん以外興味がないって……」
「やめろ!」
修一の怒鳴り声に、雪杜は静かに首を振った。
「修一さん。いいんです」
「……」
「あれは御珠なりの優しさなんだと思います」
「優しさ?」
一樹が首を傾げる。
雪杜は、湯船の縁を見つめながら静かに口を開いた。
「御珠……子供ができないんです……」
「え……」
「だから、自分に惚れても時間の無駄だってことを暗に伝えてるんです」
「……はぁ」
修一が、心の底から絞り出すような大きなため息をついた。
「……言ってよかったのか?」
「いいんです。もう学校の皆にもバラしちゃったし、ある程度親しくなった人には言うようにしようかと。
その方が僕たちのこと、理解してもらえるので」
淡々と語る雪杜の横顔を見て、一樹は言葉を失った。
「そ……んな……
御珠ちゃん……」
「絶対誰にも言うんじゃないぞ」
「うん……」
―――
その後、三人はサウナへと移動した。
テレビをぼーっと眺めながら、熱気に耐える。
(サウナって初めて。あっつ)
「僕、もう無理!」
雪杜はわずか一分ほどで離脱し、サウナ室を飛び出していった。
「はは。おこちゃまだな」
一樹が笑い、室内には修一と二人だけが残された。
「これ以上余計な詮索するんじゃないぞ」
「分かってるよ。何か大変だな。あいつ」
「ああ。中学生なのによくやってるよ……
いつも一生懸命だ」
修一の目元から、一筋の滴が流れ落ちる。
それが涙なのか汗なのか、薄暗いサウナ室では誰にも分からなかった。
その後も水風呂に浸かったり、露天風呂でぼーっとしたりと、男たちは存分に温泉を満喫した。
―――
二時間後。
湯から上がった三人は、ラウンジへと向かっていた。
「はーいいお湯だった」
「楽しんでくれたようで良かったよ」
「何か知らんけど、頑張れよ」
一樹の不器用なエールに、雪杜が苦笑する。
ラウンジのソファでは、フロントで借りた館内着の浴衣に着替えた御珠と和江、麻衣が談笑していた。
「雪杜!遅いのじゃ!」
「ごめんごめん。サウナとか何回も入っちゃったから」
「あら。やっときた」
「男って風呂が好きよねぇ」
麻衣がくすりと笑う。
(御珠ちゃんの浴衣!来てよかった!)
一樹が内心でガッツポーズを決める中、修一が財布を取り出した。
「アイスでも食うか?」
「アイス食べたい!」
「妾も食べるのじゃ」
「また食べるの?お腹壊すわよ?」
和江が呆れながらも、皆の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
汗もすっかり引いたところで、彼らはそれぞれの服へと着替えに向かった。
―――
浜の家の、広々としたロビー。
帰り支度を終えた雪杜たちに、修一が声をかけた。
「送っていくよ」
「いえ、お昼までご馳走になって温泉まで。
少し歩きたいので、電車で帰ります」
「遠慮しなくていいんだぞ?」
「本当に大丈夫です」
雪杜が丁寧に頭を下げると、修一は少し迷ってからゆっくりと頷いた。
「……そうか。気をつけて帰れよ」
「また来てねぇ!御珠ちゃん!」
「今度は泊まりでいらっしゃい」
「またな」
和江と麻衣、そして一樹が見送りの言葉を口々に掛ける。
「うむ!また参るのじゃ!」
御珠が元気よく手を振り返し、自動ドアが開いた。
夕暮れ前の住宅街。
二人は並んで、最寄り駅へと続く道を歩き出す。
少し遠ざかった蝉の声が、夏の終わりを告げるように響いていた。
「……よき一日じゃった」
「うん」
駅のホームに着き、ベンチに並んで座る。
吹き抜ける風が、火照った体を優しく冷ましていった。
「皆、気持ちのいい連中じゃったのぅ」
「うん。皆な優しかった」
「晴臣の人徳のなすところじゃな」
「そっか。こんな所でも、おじいちゃんに助けられてるのか」
雪杜はふっと目を細め、どこか誇らしげに空を見上げた。
やがて電車が滑り込んできて、二人は空いている車内に乗り込み、窓際の座席に腰を下ろす。
動き出した窓の外を、夕暮れの景色が次々と流れていく。
「おじいちゃん。
お墓参り、喜んでくれたかな」
「喜んでおるに決まっておる」
「……かな」
「決まっておる」
御珠は、迷いのない声で力強く断言した。
「……うん」
雪杜は安堵したように息を吐き、また少し黙って景色を眺めた。
「和江さんって、おじいちゃんの姉なんだよね」
「うむ」
「似てるなって思って」
「……ふむ?」
「笑い方」
「……そうか」
御珠が少しだけ目を細め、遠くを見るような顔をした。
(……晴臣)
電車が心地よいリズムで揺れる。
窓の外では、夕日が建物の隙間へとゆっくり沈んでいこうとしていた。
「……夏休みも、あと二週か」
「うむ。あっという間じゃな」
「来週から、文化祭の準備に駆り出されるんだ」
「うむ。妾も行くのじゃ」
「うん」
「咲良も来るであろう」
「そうだね」
雪杜の相槌に、御珠はふと視線を窓の外から雪杜へと移した。
「じゃが今日は……二人だけの帰り道じゃの」
「……うん」
オレンジ色の光に照らされた車内で、御珠がぽつりとこぼす。
「晴臣が……妾らを見ておる気がする」
「……見てていいよ。
恥ずかしいことしてないし」
「ふふ」
雪杜の素直な言葉に、御珠がくすりと笑った。
(……笑い方)
(……お爺ちゃんに、似てきた気がする)
大切な人の面影を重ねながら、雪杜は静かに微笑み返す。
電車はゆっくりと、次の駅へ向かって走っていった。




