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神愛 ─ 永遠の刹那 ─  作者: 神愛
第4章 中学生編 ― それぞれの場所 ―
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第29話 夏影の再編、それぞれの居場所3

御珠が砂浜へ向かう足を止め、わずかに首を傾けながら華蓮へ視線を向けた。


「華蓮、一緒に散歩するのじゃ」


突然の誘いに、華蓮は照れ隠しのように鼻を鳴らす。


「……別に、いいのに」


だが御珠は揺るがない声で続ける。


「いや、妾はそなたと話しがしたいのじゃ」


その言葉に、華蓮は小さく瞬きした。

拒む理由も、拒みたい気持ちも薄れていき、ゆっくり立ち上がる。


「……わかったよ」


二人は砂浜へと歩き出す。

波が寄せては返し、足元へ涼しい音を届けてきた。


「日差しあちー」


華蓮はつぶやくと、海を見て足を伸ばした。


「ちょっと海に足入れてもいいか?」


「好きにするとよい」


御珠の穏やかな声が風に混ざる。

華蓮はくるぶしまで水に浸しながら、御珠と二人きりの時間を確かめていた。


(御珠と二人……)

(悪くない)


そこで、華蓮は違和感に気づく。


「……あれ?」


「どうしたのじゃ?」


「いや……誰もこっち見てこないな」


御珠が瞬きを返す。


「……?」


「いつもなら、ナンパとか……チラチラ見られるのに」


「ふむ」


華蓮は御珠を見る。

日の光に照らされる横顔は、ため息が出るほど整っていた。


(そうか。御珠がめっちゃ可愛いから、あたしがかすんでるんだ)

(御珠の隣にいると……ナンパされない……!?)


その事実に、華蓮の目が輝き始める。

だが次に、別の疑問が浮かんだ。


(でも、御珠はなんでナンパされねーんだ?)


華蓮はじっと御珠を観察した。

可愛いとか美人とか、そういうだけじゃなく――


(可愛いとかじゃなくて……なんか“近づきづらい気配”出してんだよな)


気安く触れてはいけない存在みたいに、線を引く強さが彼女にはあった。


「華蓮?」


御珠が不思議そうに首を傾げる。


華蓮は慌てて視線を逸らした。


「……なんでもない」


御珠はその反応を愛おしいもののように受け取り、微笑む。


「そういえば……以前、同じ高校に行こうと誘ってくれたの」


華蓮は固まり、頬が熱くなる。


「……あー、まぁな」


「あの時は……申し訳なかったのじゃ」


海風の音が遠のいたように思えた。

御珠の言葉には、素直な後悔が含まれていた。


「別に気にしてねーし」


華蓮はそっぽを向きながらも、その気遣いは胸に届いていた。


御珠が足を止める。


「でもな……最近、思うのじゃ」


「……?」


御珠は華蓮の瞳を真っ直ぐに見つめる。


「そなたと同じ高校に行くのも、悪くないのではないか……そう思い始めておる」


その瞬間、華蓮の目が大きく見開かれた。


「……マジで!?」


「うむ。まだ決めたわけではないが……」


「いや、十分だって!!」


歓喜が声にそのまま乗り、御珠はくすっと笑った。


「ふふ」


華蓮は照れながら視線を落とす。


「……ありがとな」


「こちらこそじゃ。そなたは優しいのう」


御珠の言葉は嘘がひとつもなく、華蓮の胸にすっと染み込んでいく。


「……言うなって」


顔をそむけつつも、耳は真っ赤だった。


(御珠の隣にいれば……可愛くできる。同じ高校にも行けるかもしれない)

(……最高じゃん)


―――


激しかったバレーが終わると、汗の熱が風に冷やされていき、八人は自然と砂浜へ腰を下ろした。

オレンジ色の光が長く伸び、それぞれの影が静かに寄り添うように重なる。


結局、颯太×莉子の運動部コンビにはどうやっても敵わず、雪杜と咲良は“まだキスもしていない”と、あっさり暴露されてしまった。


照れ笑いと冷やかしがしばらく続き、やがて、沈む夕日が全てを穏やかに包み込んでいく。


咲良は海の方へ体を向け、波に反射する光をじっと見つめた。


「綺麗だね……」


隣で雪杜が静かに頷く。


「うん」


御珠も膝の上で手を組み、遥か水平線を眺めながらつぶやいた。


「海は……広いのじゃな」


風が彼女の声をやさしく運ぶ。


颯太は砂をいじりながら、少し照れたように言った。


「来年も、こうやって集まれたらいいな」


莉子はその言葉に小さく笑い、肩が触れ合う距離で答える。


「うん……」


駆は視線を下げたまま、ぽつりと同意した。


「……いいと思う」


史は控えめに手を上げて苦笑する。


「私は女子高生ですね……ちょっと浮きそうです……」


その自虐にみんなが笑い、輪がほどける。

すぐにまた静けさが戻り、夕日の赤が頬を染めた。


華蓮は遠くを見るように言った。


「……まぁ、悪くないな」


その声には照れと居心地の良さが入り混じっていた。


沈む太陽を前に、雪杜は胸の奥で小さく願う。


(こんな日が、ずっと続けばいいのに)


―――


海沿いの風が弱まった頃、遠くの方からドン、と腹に響くような太鼓の音が聞こえてきた。

夏にしかない気配が、砂浜全体を包む。


「あ、太鼓の音!」


咲良が顔を上げ、嬉しそうに声を弾ませる。


御珠は音の方向を眺めながら静かに頷いた。


「夏祭りの準備じゃな」


雪杜もどこか懐かしそうに肩をほぐす。


「毎年ここで聞いてる気がする」


咲良はその流れで勢いよく振り向いた。


「今年も一緒にいこうね!雪杜!」


息を吸う暇もなく、御珠が即座に割り込む。


「妾とも行くのじゃ」


一瞬、視線が交差する。

咲良は去年の混雑を思い出して、軽く目を伏せた。


(そういえば去年は花火がめっちゃ混んでて、いい感じになれなかったんだった)


そして顔を上げると、柔らかい声で言った。


「今年は私が先でいいよ」


御珠は驚いたように目を開く。


「良いのか?後の方が花火じゃぞ?」


「いい。私、去年花火だったから。御珠ちゃんも楽しんでよ」


咲良の言葉に、御珠は少しだけ表情をゆるめる。


「そなた……わかったのじゃ。妾が後じゃな」


(ふふふ。花火の恐ろしさを知らないな)


咲良は心の中でだけ悪戯っぽく笑った。


雪杜が恐縮しながら確認する。


「えっと……順番決まった?」


「うん!私が初日、御珠ちゃんが二日目!」


「うむ!」


二人の声が綺麗に重なる。


頬をかくように颯太が口を開く。


「俺らはどうする?」


莉子は去年の混雑を思い出し、肩を落とした。


「花火、綺麗だったけど混み過ぎてね……」


颯太がぱっと表情を明るくする。


「そうだ!自分たちで花火すりゃいいじゃん!」


「いいねそれ!」


咲良の瞳に、企みの光が宿る。


(む。雪杜と線香花火……採用)


「楽しみだね」

「楽しみじゃな」

「う、うん……」


雪杜の声は一段高くなり、

咲良の微笑みがすぐそばで揺れた。


「俺たちはどうします?」


駆が控えめに史へ視線を向ける。


史は苦笑しつつ首を傾けた。


「人混みは苦手です……行かなくてもよいのでは?」


そしてほんの少し距離を詰めると、駆の耳元へそっと顔を寄せる。


「代わりに……」


小さな囁きが届き、駆の目が限界まで見開かれる。


「え!?」


耳まで真っ赤になった駆の姿に、史は満足げに微笑んだ。


その輪の外側。

華蓮は砂をつま先で軽く蹴りながら、ぽつんと空を見上げていた。


(あたし、やっぱ場違いじゃねーか)


遠くに見えるカップルたちの笑い声が、自分に何も関係ない場所の音に聞こえた。


(はぁ……彼氏かぁ……)

(なんか寄ってくるヤツはいまいちなんだよなぁ……)


ため息を落とした華蓮を、御珠の目は逃さない。


「華蓮」


「……ん?」


御珠は歩み寄りながら、自然な口調で続けた。


「妾、初日は暇なのじゃ」


「……そうなの?」


「うむ。じゃから、華蓮と一緒に行きたいのじゃが」


その言葉に華蓮は本気で驚いた。

瞳が大きく揺れる。


「……え、マジで!?」


「うむ。一緒に夏祭り、楽しむのじゃ」


胸の奥が一気に熱を取り戻す。

華蓮の表情がぱっと明るくなる。


「いいぜ!行こう!ありがとな、御珠」


「ふふ。こちらこそじゃ」


御珠の微笑みは風よりも優しかった。


(御珠の隣にいれば……可愛くいられる)

(夏祭り、楽しみだな)


華蓮の中で、孤独だった場所に静かに光が差し込んだ瞬間だった。

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