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神愛 ─ 永遠の刹那 ─  作者: 神愛
第4章 中学生編 ― それぞれの場所 ―
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第28話 夏影の再編、それぞれの居場所2

夏の昼下がり、潮の匂いを含んだ風が吹き抜ける。

海辺に佇む宿屋「浜の家」は、白い壁が陽光を反射し、目の前にはどこまでも伸びるきらめく砂浜が広がっていた。


八人がそれぞれ荷物を担ぎながら到着すると、一番に弾けたのは颯太だった。


「うおーーー!海だーーー!!」


その声は波より大きく響き、周囲を一気に夏色に染める。

莉子が慌てて袖を引っ張った。


「颯太、落ち着いて……」


咲良は両腕を広げるように海を見渡し、目を輝かせる。


「ひろーい!」


御珠も静かに景色を眺めた。

その目には、懐かしさと喜びが溶け合っているようだった。


「海じゃな……」


雪杜は小走りで玄関へ向かい、丁寧に頭を下げる。


「修一おじさん、お世話になります」


玄関から出てきた修一は、八人の姿を見て言葉に詰まった。

人数と賑やかさに、数秒ほど固まる。


「……えっと」


「すみません。また人数増えちゃって……」


修一は雪杜の頭越しに八人を数え、ため息とも苦笑ともつかない息を漏らす。


「……今年は八人か。うち五人が女の子……」


雪杜は申し訳なさそうに頭を下げた。


「毎年すみません……」


だが修一はすぐに笑顔を作り、肩を叩いた。


「いや、いいんだ。若いってのは、忙しいな」


(……これ以上増えたらどうしよう。来年は九人か?)


心の声ががっつり漏れ気味だった。


咲良が明るく頭を下げる。


「おじさん、ありがとうございます!」


御珠も丁寧に一礼した。


「和江にもよろしく言っておいてくれなのじゃ」


修一が穏やかに頷く。


「賑やかになるねぇ。楽しんでいきな」


その言葉に背中を押されるように、咲良は華蓮へ振り向いた。


「華蓮ちゃん、そのワンピース可愛い!!」


突然の直撃に、華蓮は肩を揺らし頬を赤くする。


「……別に」


莉子が楽しそうに続ける。


「朱色っぽい赤、似合ってるよねー」


華蓮は耳まで赤くしながら、ぶっきらぼうに返す。


「……言うなって」


御珠もじっと華蓮を見て、素直に言葉を落とした。


「うむ、似合っておるぞ」


その一言が追い打ちのように照れを深める。


「……もういいって」


そこへ颯太が無邪気な一言を放つ。


「そういやお前の私服初めてみたな。兄貴のおさがりじゃねーの?」


莉子が即座に彼の腕をつねった。


「男がワンピース着るわけないでしょ!」


「痛ててててて!」


そのやり取りに、八人の笑い声が一斉に弾ける。

夏の空に溶けるように、賑やかで温かい時間が始まっていく。


―――


庭では炭の匂いが立ち上り、ジュッと肉の脂が落ちる音が昼の気配を切った。

小さなテーブルと簡易BBQセットを囲み、八人が自然と円を描くように集まっている。


颯太はトングを片手に、勢いよく肉をひっくり返しながら叫んだ。


「お前らまた優勝したのか!」


彼の声は相変わらず大きくて、海からの風にも負けない。


雪杜はそれを待っていたかのように顎を上げ、余裕ありげに返す。


「楽勝ですわ」


返事の直後、咲良が跳ねるように突っ込んだ。


「雪杜!?」


御珠が隣で腕を組みながら、静かに釘を刺す。


「雪杜、調子に乗っておるぞ」


駆が炭の脇で淡々と呟いた。


「主に頑張ったの俺だけどな」


それが妙にいいところに刺さって、全員が吹き出す。

史が口元に手を当てながら、優しく続けた。


「ふふ……駆くん、正直」


颯太は駆の肩を叩かんばかりの勢いで叫ぶ。


「駆、お前すげーな!!」


さっきまで胸を張っていた雪杜は、耳たぶを赤くしながらしおらしく頭を下げた。


「すみません……。調子に乗ってました……。駆先生に感謝してます……」


駆はそっぽを向いたまま、短く返す。


「……まぁ、いい」


言葉と裏腹に、耳がほんのり赤い。


肉の焼ける匂いが一段と濃くなったところで、颯太がふと思いついたように胸を張った。


「つーかよ、お前らは謎の大会優勝かもしれんが、俺は県大会ベスト8までいったんだぜー!」


その言葉が意外すぎて、雪杜が目を丸くする。


「え!?すご!

 応援行ったのに、教えてよ!」


颯太はトングを持つ手を止め、視線をそらした。


「いや……だってさ……

 何回試合あるかわかんねーのに毎回呼んだら迷惑じゃん?

 決勝いったら言おうと思ってたんだよ……」


その言葉は軽口のはずなのに、どこか素直な本音が混ざっていて、雪杜は思わず苦笑する。


「……確かに……

 つまり、来年は応援に?」


颯太は海風を受けながら、にやりと笑った。


「おう!決勝まで行ってやらぁ!」


少し離れた位置で、莉子の心が小さく跳ねた。


(颯太……かっこいい……)


咲良は腕を組んで得意げに頷く。


「おお〜、言ったね颯太。言質取ったよ?」


駆が肉をひっくり返しながら淡々と宣告する。


「じゃあ来年の打ち上げは颯太が主役だな。

 焼肉奢りで」


颯太が全力で振り返る。


「なんでそうなるんだよ!!」


御珠はそんなやり取りを楽しそうに見守り、静かに、しかし誇らしげに言う。


「うむ。妾の祝福が効いておるようじゃの」


「それな」


颯太が悪びれず返し、またひとつ、笑い声が夏の空へ弾けていった。


―――


BBQの煙がゆるく立ちのぼり、海風と混ざって甘い匂いを運んでくる。

それぞれが好きな場所に落ち着きはじめると、自然に“ペア”ができていった。


――雪杜×咲良


鉄板の前では雪杜と咲良が並んで肉を焼いていた。

咲良は焼け具合を確かめながら、そのまま雪杜の腕に体を預ける。


「雪杜、この肉焼けた?」

「うん、もうちょっと」


咲良は嬉しそうに口を開く。


「はい。あーん」


雪杜は思わず手元を見つめ、顔を赤くしながら肉を口に運んだ。


――颯太×莉子


少し離れた場所では、颯太が莉子の前で完全に手懐けられている。


「颯太も。はい。あーん」

「お……おう」


肉を差し出されるたびに、颯太の耳が赤くなるのを莉子が楽しんでいた。


――駆×史


控えめな二人は、炭の熱が届かない静かなスペースに並んで座っている。

史は小さく微笑んで、そっと駆に声をかけた。


「駆くん……お疲れ様。肉食べますか?」

「……ああ」


短く答えた駆の横顔は、いつもよりずっと柔らかかった。


――御珠×華蓮


二人は波音の聞こえる方向を眺めながら立っていた。

周囲の甘さが少し目に余ったのか、華蓮がぼそっとつぶやく。


「なぁ。バカップル多すぎねーか?」


御珠は静かに笑い、風に揺れる髪を指先で整えながら答える。


「まぁこんなもんじゃろ。楽しそうでよいではないか」


華蓮はちらりと御珠の横顔を見る。

薄い光に照らされたその姿が、今日もいつも以上に綺麗だった。


「……御珠、今日も可愛いな」


御珠は驚いたように目を瞬き、だがすぐに穏やかな表情へ戻る。


「そなた。きょうは髪も整えてきたのだな。似合っておるぞ」


言われた瞬間、華蓮の肩がピクリと跳ねた。


「……言うなって」


声はそっけないのに、耳の先まで真っ赤だった。


―――


食後、潮風が少し強くなり、砂がさらりと足元で踊った。

恒例の“水着お披露目タイム”が始まると、御珠、咲良、莉子がそれぞれの個性を全開にした姿で現れる。


雪杜は直視できず、顔を真っ赤にして心の中で叫ぶ。


(頑張れ理性!)


颯太も肩を震わせながら歯を食いしばる。


(くそ!毎年成長しやがって!)


なんとか崩れ落ちずに耐えた二人に、咲良が呆れたように笑った。


落ち着きを取り戻した颯太が提案する。


「ふぅ。ビーチバレーやろうぜ!!」

「やるやる!」

「妾もやるのじゃ!」

「私も……」

「じゃあ僕も」


元気よく手を挙げる中で、場の勢いをすっと落とすように、静かな声が続く。


「……俺は見てる」

「私も……陽キャは眩しすぎます」


控えめな二人に続き、華蓮もそっぽを向いて肩をすくめる。


「……あたしも水着じゃねーし。見てるわ」


颯太が溜息混じりにぼやいた。


「またこのメンバーか」


そして急に顔を上げ、闘志を燃やす。


「よし!今年は──御珠ひとりを俺ら四人で倒す!」


咲良が目を丸くする。


「それでも勝てる気しないんだけど……」

「ほんとにやるのそれ……?」


御珠は堂々と胸を張り、波の音すら圧倒する存在感で言い放った。


「ふむ。妾は構わぬぞ。全員でかかってくるがよい」


「くっそ!この余裕、やっぱラスボスじゃねーか!」


(……実際ラスボスみたいなもんだよな)


雪杜の心の声が、妙にしっくり響く。


砂浜では、颯太、咲良、莉子、雪杜の四人が御珠と対峙した。

太陽に照らされる砂がまぶしく、ボールが空へ弾けるように打ち上げられる。


一方、ビーチパラソルの下では、駆と史が寄り添うように腰を下ろしていた。

二人の距離は控えめで、波の寄せ引きみたいに一定だった。


「駆くん。水着見たかったですか?」


「ま……まぁ……」


史はその反応に、ほんの少し意地悪く微笑む。


「ふふ。今度二人きりの時に……」


駆の耳まで赤く染まり、史の笑いがかすかに波へ溶けた。


華蓮は、少し距離を置いた場所からその光景を見ていた。

風も光も楽しそうな声も、自分の周りだけ通り過ぎていく。


(……みんな楽しそうだな。あたしだけ、どこにも混ざれねぇ)

(席あるようで、ないんだよな……こういうの)

(……私、何しにきたんだろ)


その独白が、誰にも届かない場所で零れる。


しかし、御珠には届いたようだった。

ラリーの最中でも、ふと視線だけが華蓮へ向く。


(華蓮……退屈そうにしておるの)


数球ぶんやり過ごし、御珠はボールを受け止めて言う。


「ふむ。そなたらでは話にならんの。

 少し離れるのじゃ」


「そうだ!一旦休んで来い!」


颯太があっさり乗ってくる。


(御珠?華蓮を気にかけてるのか)


雪杜はその意図に気づき、胸の奥があたたかくなる。


その隙に、颯太が叫ぶ。


「雪杜、カップル対決しようぜ!」


「おっと。じゃぁ負けた方は秘密一つ暴露で」


「なに!?」


「ふふふ。莉子とどこまで進んでいるか洗いざらい吐いてもらおうか」


「お前、ブーメランになっても知らねーからな!」


咲良が眉を跳ね上げて怒る。


「ちょっと、勝手に話進めないでくれる!?」


「そうだよ。秘密って何さ」


御珠はそんな喧騒を背に、静かに歩き出す。


(ふむ。妾がいなくても大丈夫そうじゃの)


そして――

一息入れてから、すっと華蓮の方へ向かった。

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