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神愛 ─ 永遠の刹那 ─  作者: 神愛
第4章 中学生編 ― それぞれの場所 ―
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第24話 二度目の夏、揺れる未来4

咲良はバスタオルを肩にかけたまま、大きく伸びをした。


「ふー。なんとか間に合ったね」


史は髪を半乾きのまま整えながら淡く笑う。


「はい。間に合いました」


御珠も、丁寧に結った髪を解きながら小さく頷いた。


「うん」


そこへ、シャワーを終えた後輩の女子が、少しだけ頬を赤らめつつ入ってくる。


「あ。お疲れー」

「お疲れ様です……」


後輩は自分の二段ベッドの下段に腰を下ろし、タオルで髪をぽすぽすと拭き始めた。


咲良がすかさず横へ滑り込む。


「大変でしょ?このイベント」


「そ……そうですね。こんなにガチだと思ってなくて……」


「だよねー!私も去年そうだった!で……」


咲良の目がキラリと輝く。


「どっちが好きなの?」


「え!?!?!?」


反射的にタオルの動きが止まる。

咲良のニヤリはもはや“職人芸”だ。


「いや、だってさぁ、こんなイベントに女子が参加するとか、それ以外に目的ないでしょ?」


ひどい決めつけが炸裂した。


後輩は口をぱくぱくさせながら言葉を探す。


「そ、それは……!」


御珠は枕を抱えながら呆れた顔。


「咲良よ。すべてがすべて自分と同じだと思うなかれ。

 技を磨きたいと思う者もおるじゃろ」


「いーの!女子トークだから、女子トーク!」


史はドライヤーを片付けながら、(……また始まった)という表情で静かに聞いている。

ノートを持ち、たまにメモまで取っている。仕事熱心がすぎる。


そんな中、後輩が恐る恐る切り出した。


「あの……春原先輩って、天野先輩とどうやって付き合ったんですか?」


「え?私?それ聞いちゃう?」


咲良の声が一段階明るくなる。

自慢話の許可を得た瞬間である。


(惚気ておるのう)

(……記録しておこう)


咲良はベッドの上にあぐらをかき、身振り手振りで語り始めた。

雪杜との出会い、距離の詰まり方、入学初日での公開告白――

気付けば、他校の女子まで完全に聞き入っている。


一人が羨望のため息を漏らした。


「いいなー、彼氏いるの」


「えへへ」


後輩がぽつりと呟く。


「さすが噂に名高いマジキューピット……」


「え、1年生でもそれ知ってるの!?」


「はい。2学年でカップルが多いのは春原先輩のおかげだって……」


咲良は両手をばたつかせる。


「あはは……まぁ、ちょっと手伝っただけだよ」


(もう!なんで1年にまで広まってるのよ!)と内心叫んでいる。


(ちょっと……の)

(……私、当事者だった)


咲良は慌てて場を切り替える。


「きょ、きょうはこの辺までにしとこっか!」


だが、他校女子が食い下がる。


「ねぇねぇ、マジキューピットってなに?」


「それはですね……」後輩が説明しようとした瞬間――


「もがが」


咲良は後輩の口を物理で封じる。


「な、なんでもないよー!!」


(広めるなってば……!)

(名誉なことですよ)

(恥ずかしいからやめて!)


女子部屋にだけ共有される、ひそひそ声の攻防。

他校女子はぽかんと首を傾げていた。


「な、なんでもないから。ほら明日も早いし寝よ寝よ!」


部屋の灯りが落ち、静けさが広がる。


――しばらくして。


御珠が、そっと二段ベッドを降りる音がした。


「御珠ちゃん?」

「……今宵も、一緒に眠るのじゃ」

「もう。しょうがないなぁ……」


(……御珠ちゃんが甘えてくれるの、嬉しい)


御珠は布団の中に潜り込み、咲良の腕にぴとっとくっつく。

子どもが安心を求めるみたいに。


(咲良……癒されるのじゃ)

(やっぱ暑っつ!)

(……あの二人、本当に仲良いんだ)

(……咲良さんに甘える御珠ちゃん、かわいい)


夜の静けさはそのまま、女子たちの眠りと秘密をそっと包み込んでいった。


―――


大きな体育館の天窓から、白い朝の光が差し込んでいた。

どのチームも黙々と席につき、コーヒー缶を開ける音が小さく響く。


そんな流れを切り裂くように、朝霧が明るい声を投げた。


「おはよー!今日が本番だぞ!」


雪杜は背筋を伸ばして挨拶する。


「おはようございます」


咲良は目の下に少しクマを作りつつも、元気だった。


「おはよー!」


駆は椅子に座ったまま、半分寝た目を無理やり開く。


「……おはようございます」


史は落ち着いた声で丁寧に頭を下げる。


「おはようございます」


御珠は朝特有の凛とした声で。


「おはようございます」


朝霧は五人の顔を見て、軽く満足そうに頷く。


「とりあえず皆の進捗を聞こうか」


駆が真っ先に口を開く。

眠気は残っているが、進捗報告となると声に芯が戻った。


「アプリはほぼ完成しました。

 マップのほうも、GPSの座標を線で繋げるだけの簡単なものはできてます」


「おお、さすが!」


朝霧は短く称賛し、続いて雪杜へ視線を向ける。


雪杜は資料を開きながら言った。


「僕はプレゼン資料、だいたいできました。あとは微調整です」


咲良が勢いよく手を挙げる。


「私、寸劇のシナリオできたよ!

 御珠ちゃん、後で練習しよ!」


御珠は昨日より落ち着いた表情でこくりと頷いた。


「うん」


史は原稿が綺麗に並んだノートを前に置き、穏やかに微笑む。


「私も発表原稿、だいたい書き上げました」


朝霧は両手を腰に当てながら言った。


「いいね! このペースなら午後の発表に余裕で間に合うな」


五人の胸の奥に、静かだが確かな手応えが積み上がっていく。

今日、ここからが本番だ。


―――


駆は椅子をわずかに引き寄せ、ノートPCを回転させて皆へ向けた。


「これがデモサイトだ」


画面には、OpenStreetMapの簡素な地図が表示されている。

咲良が身を乗り出した。


「おお!地図だ!」


駆は淡々と説明を続ける。


「まだデータがないから、地図しか表示されてないけど……

 アプリからのデータを受信すれば、リアルタイムでマップ上に線が描かれるはず」


その言葉に朝霧が手を打つ。


「じゃあ、試してみようか」


駆が眉を寄せる。


「はい。でも、どうやって……」


朝霧は当然のように言った。


「スマホ持って、誰かが外を走ってくるとか?」


朝の体育館はすでに蒸し始めていた。

外はさらに暑い。

誰も進んでやりたいとは言い出さず、視線が泳ぐ。


――そのとき。


「わたくしにやらせて!」


御珠が一歩、前へ出た。

雪杜が驚き、すぐに名を呼ぶ。


「御珠?」


御珠は胸の前で指を組み、まっすぐに皆を見る。


「わたくし、ずっと何もできてなくて……

 ちょっとでも、役に立ちたい」


その言葉は強がりではなく、真っ直ぐな願いだった。

咲良が思わず目尻を緩める。


「御珠ちゃん……」


駆は視線を落とし、(そういえば身体能力高かったな)と内心でつぶやく。


「……お願いできるか」


御珠は迷いなく頷いた。


「任せて」


駆がスマホを差し出す。


「このスマホを持って、大学周辺の道路をくるっと回ってきてみてくれ。

 あとたまにこの通報ボタンを押してくれ。

 アプリはもう起動してある」


「わかった!」


朝霧も念のため付け加える。


「外、暑いから気をつけて」


その言葉を聞いた雪杜が、心配の色を隠せず口を挟む。


「御珠、ナンパされないか心配だな。僕もついていこうか?」


御珠は後ろ髪を揺らし、振り返って笑った。


「大丈夫!風のように走り抜けるから!」


その一言で、場の力が抜ける。

そして御珠は、スマホを握りしめて駆け出した。


―――


中に残ったざわめきが、すっと引いた。

扉の向こうで足音が軽く弾む。


(……やっと、妾も役に立てるのじゃ)


そう思った瞬間、御珠は地面を蹴っていた。

夏の強い光が髪に反射し、大学の敷地を駆け抜けていく。


(風が……妾を押してくれる……)


呼吸は乱れず、足取りも軽い。

神の身体能力は見た目以上に滑らかで、人目につけば異様に映るほどだ。


(……ふむ。認識阻害も効いておるし、少し本気を出してみるかの)


速度が一段階、自然に上がる。

舗装路を蹴る音がリズムを作り、影が夏の日差しの下で伸びては縮んだ。


――そのころ体育館内。


「おお!線が出てる!」


雪杜の声が上がる。

モニターに映る地図の上に、細い軌跡がリアルタイムで伸びていった。

ところどころに赤い丸が通報の跡として残る。


「すごい!すごい!」


咲良が身を乗り出す。


駆は冷静に目を細める。


「御珠が走ったルートが表示されているな」


だがすぐに違和感に気づいた。


「……でも」


雪杜も首をかしげる。


「あれ……?道路から、ズレてる?」


「本当だ。なんで?」


咲良が画面を指で追う。


朝霧は腕を組んで答えた。


「GPSは誤差があるからな。スマホだと±5〜10メートルはズレる」


史も驚いたように小さく呟く。


「そんなに誤差があるんですか……」


朝霧はさらに画面を見つめながら眉を上げる。


「てか、点の移動速すぎないか?もう一周してきそうだけど」


まさにそのとき。


「だだいまですわ」


御珠が体育館へ戻ってきた。

息一つ切らしていない。


「はや!」


朝霧が素で驚く。


駆は半ば呆れ、半ば感心した声で。


「さすが御珠だな……

 運動部じゃないのがもったいない」


咲良が駆け寄る。


「御珠ちゃんお疲れ!外暑くなかった?」


「平気ですわ」


御珠は本当に涼しい顔をしていた。


雪杜はその横顔を見て、胸がほのかに温かくなる。


(御珠、嬉しそう)


駆がスマホを受け取り、丁寧に礼を言う。


「御珠、ありがとう。おかげでいいテストができたよ」


御珠は誇らしげに胸を張って頷いた。


朝霧が落ち着いた声で補足を入れる。


「カーナビとかはマップマッチングって方法で、道路にピッタリ合わせてるんだ。

 ただ、マップマッチングするには道路データが必要になる。

 昨日も言ったけど、中学生が半日で解決できる問題じゃない」


駆の表情に、わずかに影が落ちる。


「……そうですよね」


朝霧はすぐにそれを察し、明るく続けた。


「そうがっかりしなくていい。システムの基本はできてる。

 発表では『将来のビジョン』として見せれば十分だ。

 課題も正直に言えば、逆に評価される」


「完璧じゃなくてもいいんだよ。大事なのは、課題を認識してることだ」


駆は胸の奥に溜まっていたもやを吐き出すように、小さく頷いた。


「……分かりました」


雪杜がすぐに励ます。


「駆、大丈夫だよ。だいたいの場所が分かれば、危険な道を避けるには十分だし」


咲良も乗る。


「そうだよ!完璧じゃなくてもいいじゃん!」


史が穏やかな声で。


「駆くん、よく頑張りました」


御珠も短く、しかし力強く。


「駆はよくやってるよ」


「……ありがとう」


駆の胸に、少しずつ熱が戻る。


(去年なら、徹夜してでも解決しようとしたかもしれないな)

(上手に手を抜くのも仕事のうちだ)

(……これでいいんだ)


朝霧が手をパンと鳴らす。


「さあ、続きを作ろう。マップはまだ完成したわけじゃないんだろ?」


「はい」


駆は新たに気持ちを整え、再びPCへ向き直った。

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