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神愛 ─ 永遠の刹那 ─  作者: 神愛
第4章 中学生編 ― それぞれの場所 ―
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第4話 おうち改造計画2

修一の車がホームセンターの駐車場に滑り込み、四人は冷たい空気の中を並んで店内へ入った。

広い店内には木材と塗料の匂いが混ざり、鼻の奥にツンと残る。


ストーブ売り場に着くと、展示台に暖房器具がずらりと並んでいた。

雪杜は近くにいた店員に声をかけ、用途を伝える。


「FF式ストーブですね。

 その部屋の広さなら……こちらとかいかがでしょうか」


示されたのは、金属の質感がはっきり出るストーブだった。

雪杜は思わず手を伸ばし、表面をそっと撫でる。


「これが……FF式……」


横で修一が腕を組んだままうなずく。


「薪より、ずっと楽だぞ」


「そうだね……でも値段……」


値札を見た瞬間、雪杜の指が止まった。


工賃込み、21万円。


「21万円……」


その数字に咲良が息を呑み、御珠は首をかしげるようにして雪杜を見る。


「雪杜よ。金のことなら心配するでない。

 年末に試算しておったではないか」


その言葉に、雪杜は背筋を伸ばした。


「うん……そうだね。

 薪が用意できない以上、選択肢なんてなかった」


短く息を吸い、視線を商品に据える。


「買います」


店員がぱっと表情を明るくした。


「お買い上げ、ありがとうございます!」


咲良は少し離れたところで、そのやり取りを見守っていた。

胸の奥で、小さな感嘆がふくらむ。


(大事な決断を即決する雪杜。

 かっこいい……)


修一はメモを確認しながら言った。


「設置は業者呼ばないとな。

 配送と同時に頼めばいいぞ」


店員と日程を調整し、二日後の午後に工事が決まった。

カレンダーに予定が書き込まれ、天野家の“冬の形”が少しずつ組み替わっていく。


―――


ストーブ売り場を後にして、四人は家電コーナーへ足を向けた。

鉄板の並ぶ棚の先に、IHクッキングヒーターがいくつも展示されている。


店員が軽く会釈しながら声をかけてきた。


「IHクッキングヒーターですね」


「はい。ガスコンロから変えたくて」


「ではこちらなどはいかがでしょう?」


店員が示したのは大型のビルトインタイプだ。

表示プレートには「200V専用」と赤文字で書かれている。


雪杜は眉をひそめ、ぽつりとこぼす。


「あれ200V電源ばっかりだ。

 家にない……」


横で修一が腕を組んだ。


「なるほど。電源工事も必要か」


店員は微笑を崩さず頷く。


「電源工事も承りますよ」


棚の前で、雪杜は唇を押しつけるようにして考えた。


「うーん。どうしよっかなぁ」


その横で、御珠が黒い天板にそっと指を当てる。


「これが“IH”か……理は聞いておったが、実物はまた違うの……

 ……ふむ、火も見えぬのに湯が沸くとは……やはり人の技は侮れぬ」


咲良はくすっと笑って覗き込む。


「御珠ちゃん、IH初めて?」


「うむ。

 この黒い箱が火の変わりになるとはの。

 この世はまこと不思議なもので溢れておる」


そんなやり取りを聞きながら、雪杜は店員に尋ねた。


「ちなみに電源工事っていくらくらいですか?」


「相当古い家とかでなければ、4、5万ですよ」


「うーん」


迷いが深まりかけたところで、咲良が別の棚を指差した。


「ねぇねぇ。ちょっと出力弱いけど、こっちのやつはどう?」


そこには脚付きの二口卓上IHが並んでいた。


「これなら100Vで使えるし、工事いらないよ」


「あ、本当だ!」


店員も補足するように微笑む。


「こちらは1400Wですので、ビルトインタイプより火力は落ちますが、普段のお料理でしたら十分ですよ」


値札を見ると、思わず声が漏れた。


「値段は……2万円か。安い!」


修一が軽く笑い、箱を持ち上げる。


「これなら今日持って帰れるな」


「ナイス咲良!

 これにします!」


咲良は胸の前でこっそり拳を握り、喜びを噛みしめた。


「えへへ。褒められた」


御珠も満足そうに頷いた。


「いいものが見つかってよかったの。

 咲良、お手柄じゃ」


その勢いのまま、四人はIH対応のフライパンや鍋も次々とカゴへ入れていった。

新しい暮らしの形が、道具として揃っていく。


―――


ホームセンターを出て、今度は家具屋へ移動した。

広い売り場の奥にベッドコーナーがあり、白い照明の下でマットレスが並んでいる。


御珠はその光景を前にして、ゆっくり足を止めた。


「これが……“ベッド”か」


咲良が横から覗き込み、楽しそうに笑う。


「御珠ちゃん、ベッド初めて?」


「去年、そなたと一緒に寝たではないか」


その瞬間、咲良の顔が一気に熱を帯びた。


「そ、そうだったね……」


(いや、思い出させないで……去年の夏のあれ……!)


視線が泳ぎ、耳まで赤い。


少し離れた場所で、修一が不思議そうに眉を上げた。


(……一緒に寝た?)


御珠は気にせずさらりと続けた。


「じゃがあれとは少し違うようじゃの」


「“あれ”は簡易ベッド。

 こっちは毎日使う用のしっかりしたやつだよ」


「ふむ。確かにこちらの方が寝心地がよさそうじゃの」


「試しに寝てみる?」


雪杜がそう促す。

御珠はこわごわ腰を下ろし、次の瞬間、ゴロンと転がって体を預けた。


「ふむ……程よい弾力……これは快適そうじゃの……」


そして、ぽすんと深く沈む。


「……お、おお!?ふ、ふかふかじゃ!!」


「可愛い……」


咲良は思わず口に出し、雪杜は肩を揺らした。


「気に入った?」


「うむ!

 これにするのじゃ!!」


そこへ修一が口を挟む。


「じゃぁシングル二つかな。

 まさかダブルにしないよな?」


雪杜が硬直する。


「……えっと……」


御珠が首を傾げた。


「ん?“しんぐる”と“だぶる”とは?」


雪杜は渋々説明する。


「シングルは一人用で、ダブルは……二人で一緒に寝る用の大きいやつ……」


「ふむ。今とあまり変わらぬの。

 ダブルにするかえ」


咲良は固まった。


「……え」


(いや、修学旅行の時に聞いてたけど!

 さらっと爆弾落とすのやめて!?)


少し距離を取って見ていた修一も固まった。


(今とあまり変わらないって……

 いくら子供ができないからって、この距離感はヤバくないか?)


雪杜は慌てた。


「い、いや!

 シングル二つでいいよ!」


「なぜじゃ?」


「だ、だって……

 ダブルはその、流石に……」


咲良は口を閉じたまま、頭の中では別の計算を始めていた。


(雪杜と御珠ちゃんは呪いの制約でエッチなことができない。

 ……じゃあ、ダブルでも問題ないよね……?

 もし将来、私がお泊りした時に……もしかしたら……雪杜と……)


咲良は決断した。


「ダブルにしよう」


「え!?咲良、なに言ってるの!?」


「私がお泊りしたら、御珠ちゃんと使うの」


「ちょ、ちょっと待って!

 普段使うの僕たちだよ!?」


御珠は咲良の肩を軽く支えるように言った。


「咲良は家族も同然じゃ。

 咲良が望むのなら、咲良の希望も考慮せんとな」


(御珠は咲良の味方か……)


雪杜がぐぬぬと唸る。


「……でも、お泊りとか澪さんが許すはずないし!」


咲良は淡々と言う。


「御珠ちゃんがいるなら許可がおりるかもしれない」


「そ……それは、そうかもしれないけど……」


咲良がさらに追い打ちをかける。


「それに、雪杜と御珠ちゃんは……その……“そういうこと”できないんでしょ?

 だったら別にいっかなって……」


修一は完全に置いて行かれた。


(こいつら、さっきから何の話をしてるんだ?

 “そういうこと”が……できない……?)


咲良は御珠に確認する。


「ね、御珠ちゃんもダブルがいいよね?」


「妾はどちらでもよいのじゃ。

 雪杜と共におれればよい」


雪杜は限界を迎え、修一に救いを求めた。


「おじさん。こういうの……よくないよね?」


修一は深く息をつき、ゆっくり言った。


「雪杜。お前も大変だな。

 お前らの関係がなんとなく分かってきたよ。

 ダブルでいいんじゃないか?」


「おじさんまで!?」


修一は涙が滲むほど真剣だった。


(そうか……できないのか……

 御珠ちゃんの身体は……そこまで……)


そして肩に手を置く。


「雪杜。しっかり御珠ちゃんを支えてあげるんだぞ」


(なんか壮大な勘違いしてるけど言い出せない!)


雪杜は観念した。


「わ……分かったよ。

 ダブルに……する……」


咲良が飛び跳ねる。


「やったー!」


御珠も満足げに頷く。


「うむ」


(……距離が近いと、御珠の逆流大丈夫かな……)


こうしてダブルベッドに決まり、マットレスと布団一式で15万円、一週間後に届くことになった。


修一は手を叩き、場を締めた。


「さて、買うものも買ったし、せっかくだから皆で昼飯でも食うか?

 おじさんがおごるぞ」


「いいんですか?ごちそうになります」

「ありがとう!おじさん!」

「うむ。馳走になるのじゃ」


こうして四人は近所のファミレスへ向かった。


―――


近所のファミレスへ移動した四人は、窓際のテーブルに案内された。

昼どきで店内は賑わっている。

それでも四人の席は妙に落ち着いていて、会話の端がどこか尖っている。


店員がメニューを片手に微笑む。


「ご注文はお決まりですか?」


「俺はハンバーグセットで」

「僕もハンバーグセットにします」

「私はオムライス!」

「妾は……これがよい」


御珠が指したミックスグリルに店員が頷き、注文をメモして去っていく。


言葉が途切れた。

最初に口を開いたのは修一だった。


「さっきは大変だったな」


「え?」


「ベッドの件だよ。

 お前、押し切られてたじゃねーか。

 ……まぁ後押ししたの俺だけど」


「あ……まぁ……」


咲良はオムライスの写真を眺めながら、にやにやが止まらない。


「えへへ」


修一はその笑顔を“健気な優しさ”と受け取ってしまう。


「咲良ちゃんも、よく説得したな。

 彼女なら普通、逆の行動とらないか?」


「そこは大丈夫。

 私がお泊りした時に御珠ちゃんと使うことの方が大事なんで」


修一の思考が一気に暴走していく。


(……そうか。

 雪杜と咲良ちゃん、二人で御珠ちゃんを癒してきたんだな……

 で、雪杜と咲良ちゃんは恋仲。

 御珠ちゃんは“そういうこと”ができない身体だから、二人の仲を受け入れて……)


テーブルの下で雪杜は頭を抱えた。


(咲良、裏がありそう……いや絶対ある……)


御珠はというと、ニコニコしながら紅茶を飲んでいる。


「うむ。

 咲良と一緒に寝ると、妾、癒されるのじゃ」


「でしょ?」


その言葉が修一の胸に深々と刺さる。


「……雪杜」


「はい」


修一は低く、重たい声で言った。


「お前、ちゃんと御珠ちゃんのこと、大事にしてやれよ」


「え、はい……?」


「……辛いこともあるだろうが、二人で支え合っていくんだぞ」


(何の話なの……ほんとに……?)


雪杜は顔を引きつらせつつ、返事だけは飲み込む。


御珠はその様子に気づいたようで、軽く首を傾げた。


「修一殿。

 妾のことを案じてくれるのか?」


「当たり前だ。

 お前は晴臣さんが大事にしてた子だからな」


言葉の途中で、修一の目がうるむ。


(御珠ちゃん……

 “そういう身体”でも雪杜と添い遂げようとして……

 健気すぎるだろ……)


(おじさん、誤解が限界突破しはじめてる……)


雪杜は膝の上で指を握り直し、紙ナプキンの端をくしゃりと潰した。


そこへ料理が運ばれてきた。


「わーい! オムライス!」

「おお! これが“みっくすぐりる”か! 肉が山盛りじゃ!」

「好きなだけ食えよ」

「うむ!」


御珠はもりもり肉を食べ始めた。

咲良はオムライスにスプーンを入れながら、雪杜と御珠を交互に見て口元を緩める。


(ダブルベッド……

 いつか私も……えへへ)


雪杜は視界の端でその笑顔を見て、肩がこわばった。


(咲良……完全に別の意味で“覚悟”してる……)


そんな混沌の中、修一が口を開く。


「ところで、新学期からクラス替えなんだよな?」


「はい。

 僕と御珠はおそらく別のクラスになります」


「そっか……寂しくなるな」


御珠はナイフとフォークを置き、頷いた。


「うむ。

 でも、家では一緒じゃ」


「……そうだな」


また修一の目が潤んだ。


(別のクラスでも家で支え合って……

 なんて健気な二人なんだ……)


そこへ咲良が元気よく言う。


「私は御珠ちゃんと同じクラスになるんだよ!」


「お、そうなのか?」


「うん!

 雪杜が先生にお願いしたの!」


修一が、耐えきれず雪杜の肩を力強く叩いた。


「……雪杜、お前……いい男になったな」


(褒められてる……けど……複雑すぎる……)


雪杜は苦笑いを浮かべるしかない。


御珠と咲良は声を揃える。


「雪杜は優しいのじゃ」

「ね!」


修一は満足げにメニューを持ち上げた。


「よし。デザートも食うか?」


「食べる食べる!」

「妾も所望する!」

「僕も……」


「よし、好きなの頼め」


四人はデザートメニューを広げた。

笑い声がテーブルに残り、食器の音が軽く混ざる。

ただ一人、雪杜だけは頬を引きつらせたままだった。


(おじさんの誤解……

 いつか解ける日は来るんだろうか……)

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