↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
99/108

#77-16「濁る水、枯れる畑」

砂走車を降りた俺たちは、ラグナードの街へ入った。


……しかし。


「随分と人が並んでるな」


大通りの先に、長い行列ができていた。

並んでいる人たちは、みんな桶や水瓶を抱えている。


「何の行列だ?」

「井戸みたいだね」


リュカが指差した先には、大きな石造りの井戸があった。

だが、水を汲んだ人たちの表情は暗い。


「また濁ってるじゃないか!」

「昨日は綺麗だったのに!」

「これじゃ飲めねえぞ!」


……どうやら、早速現場に当たったらしい。


「ちょっと見てくる」


俺は井戸へ近づいた。


「すまん。何があったんだ?」


声をかけると、水瓶を持った中年の男が振り返った。


「何だ、旅の人か?」

「ああ。水が濁ってるって聞いたんだが」

「そうなんだよ!昨日までは何ともなかったのに、今朝になったらこの有様さ!」


男が水瓶を傾ける。

中の水は茶色く濁っていた。


……ふむ。


「ちょっと見せてもらっていいか?」

「ああ、構わねえよ」


俺は水瓶を受け取り、中を覗いた。

細かな砂のようなものが漂っている。

臭いは……。


「……特に変な臭いはしないな」

「分かるのか?」

「いや、臭いがしないってだけだ。飲めるかどうかまでは分からん」


俺は井戸を覗き込んだ。

石組みに目立った崩れはない。

桶を引き上げる縄も問題なさそうだ。

……見たところ、設備が壊れてるわけじゃなさそうだな。


「この井戸だけなのか?」

「いや、南の方でも同じことが起きてるらしい。畑の水までおかしくなってるんだ」

「……なるほど」


すると、隣にいたチャピが口を開いた。


「キョーくん、これって掃除すれば直るの?」

「分からん。そもそも何で濁ってるのか分からないからな」

「そっか……」


……まずは水がどこから来ているのか確認したいところだ。


「なあ、この辺の水路を管理してる人っているか?」


男が頷く。


「ああ。街の南側に水路を管理する施設があるぞ。そこに行けば何か分かるんじゃねえか?」

「おお、助かる!」


俺は水瓶を返した。


「ありがとな!」

「おう!何か分かったら教えてくれよ!」

「ああ!」


……よし。


次はそこだな。


俺たちは街の南側へ向かった。

城壁を抜けると、広大な農地が広がっていた。

水路が畑の間を走り、ところどころに水を分けるための石造りの設備が設けられている。


……おお。


ちゃんと整備されてるじゃないか。


「キョーくん、何か嬉しそうだね」

「いや、こういう設備を見ると、ついな」

「……本当に好きだよね」

「仕事だからな!」


ばふっ!


「お前も分かるか!」

ルミナスが元気よく跳ねた。

そんな俺たちの前を、一人の農夫が慌ただしく走っていった。


「おーい!誰か手を貸してくれ!」


……ん?


見ると、水路の脇に数人の男たちが集まっている。


「どうしたんだ?」


俺が声をかけると、農夫が振り返った。


「水路の水が濁ってるんだ!このまま畑に流していいのか分からねえ!」


水路を覗き込む。

確かに茶色い。

だが、水の流れそのものは止まっていなかった。


「詰まってるわけじゃないのか」

「ああ!水は流れてるんだ。だが、これを使ってから作物が枯れ始めたって奴もいる!」

「上流は調べたのか?」

「調べたさ!水路の掃除もした!泥も掻き出した!それでも駄目なんだ!」

「……そうか」


俺は水路の底へ目を向けた。

確かに、目立った泥の堆積はない。

水をせき止めるようなゴミも見当たらなかった。


……おかしいな。


「キョウマさん」


蓮が隣にやってきた。


「俺にも何かできることはありますか?」

「ああ。ちょっと手伝ってくれ」

「はい!」


俺は農夫から空の桶を二つ借りた。

一つには水路の水。

もう一つには、先ほど井戸で調べた水と比較するため、近くの井戸から汲んできてもらう。


並べてみる。


……どっちも濁ってるな。


「同じ原因なんでしょうか?」

「さあな。見た目が同じだからって、原因まで同じとは限らん」

「……そうですね」


しばらく桶を確認したが、見ただけでは原因を判断できなかった。

その時、農夫が深いため息をついた。


「……もうどうすりゃいいんだ」

「ん?」

「畑が駄目になったら、今年の収穫は終わりだ。俺たちは何を食って生きていけばいい?」


……。


男は枯れた畑へ目を向けた。


「水はあるんだ。なのに作物が育たねえ。水が足りなきゃ運べばいい。だが、ある水が使えねえんじゃ……」


その言葉に、俺は返す言葉が見つからなかった。


……確かにな。


水路を掃除しても駄目。

井戸も濁っている。

しかも作物まで枯れている。

これは、ちょっと厄介だぞ。


「農家の人たちは、どうしてるんですか?」


チャピが尋ねた。


「ああ。セリア様がいろいろ手を尽くしてくださってる。使える井戸から水を運んだり、食料を分けたりな」

「セリア?」

「ああ!この南部を治めておられる方だよ!」


……そういや。


王選で見た、鹿の獣人の女だったな。


「でも、もう限界だ。このままじゃ、街の食料まで足りなくなっちまう」


農夫が拳を握りしめた。

俺はもう一度、水路を見る。

流れ続ける濁った水。

その向こうには、茶色く枯れた畑が広がっていた。


……参ったな。


いつもの汚れなら、ルミナスで綺麗にできる。

だが、今回の問題はそれだけじゃない。


「なあ、リュカ」

「ん?」

「さっき言ってた水路の管理施設、案内してくれるか?」

「うん。もちろん!」


俺は立ち上がった。


「じゃあ、行こう」


チャピが頷く。


「うん!」

「我が君。わたしもお供いたします」

「ああ、頼む」


ばふっ!


「お前もな!」


……さて。


水はある。

なのに使えない。

作物は枯れ、人々は困っている。

この水がどこから来ているのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。