#77-15「南部ラグナード、枯れゆく大地」
翌日。
窓の外の景色が、少しずつ変わり始めていた。
昨日までは見渡す限り砂ばかりだったのに、今はところどころに草が生えている。
やがて低い木々が現れ、その向こうに広大な畑が見えてきた。
「……おお!」
思わず窓に顔を近づける。
「畑だ!」
「南部ラグナードは農業が盛んな地域だからね」
リュカが答えた。
「へえ!砂漠ばっかりだと思ってたぞ」
「この辺りは地下水が豊富なんだよ。だから農業ができるんだ」
なるほど。
確かに、畑の間には水路のようなものが走っている。
……しかし。
「……ん?」
何かおかしい。
畑の一部が、妙に茶色い。
よく見ると、作物が倒れ、葉が枯れていた。
「なあ、リュカ。あれって……」
「……うん」
リュカも窓の外へ目を向けた。
「聞いていたとおりだね」
砂走車が進むにつれ、同じような畑がいくつも現れた。
青々と育っている場所もある。
だが、そのすぐ隣では作物が枯れている。
……なんだこれ。
「水不足なのか?」
「それが、そうとも限らないみたいなんだ」
リュカが首を振る。
「井戸には水があるのに、作物が育たなくなったって話もあるんだよ」
「水があるのに?」
「うん。それに、井戸の水が濁ることも増えてるらしい」
……妙だな。
水が不足してるなら分かる。
だが、水があるのに育たないってのはどういうことだ?
「キョーくん」
チャピが窓の外を指差した。
「あそこ、人が集まってるよ」
見ると、畑の脇に十人ほどの農民が集まっていた。
水路を囲み、何やら揉めている様子だ。
一人が水路を指差し、別の男が激しく首を振っている。
……おいおい。
かなり揉めてるな。
やがて、一人の農民が桶を持ち上げた。
中には、茶色く濁った水が入っている。
「……あれか」
「そうみたいだね」
チャピが小さく頷いた。
その時、蓮が口を開いた。
「水に何か混ざっているんでしょうか?」
「さあな。実際に見ないと分からん」
俺は水路へ目を向けた。
水は流れている。
だが、その色は明らかにおかしい。
……となると。
「上流に何かあるのかもしれないな」
「上流?」
「ああ。水が濁ってるなら、まずはどこから濁ってるのか調べないとな」
チャピが俺を見る。
「……やっぱり行くつもりでしょ?」
「まだ何も言ってないぞ?」
「顔に書いてあるよ」
……そうか?
すると、背中からルミナスが飛び出した。
ばふっ!ばふっ!
「お前、気が早いって!」
ノアが楽しそうに笑う。
「ふふっ。我が君。この水を濁らせた不届き者がいるのでしたら、わたしが始末してまいりましょうか?」
「いや、誰かがやったって決まったわけじゃないだろ!」
「では、怪しい者を片っ端から捕まえてまいります!」
「だから犯人探しじゃねえって!」
「まあ!キョウマ様はなんとお優しい!」
「話を聞け!!」
……こいつに任せたら、別の事件が起きそうだな。
そんなやり取りをしているうちに、砂走車が速度を落とし始めた。
やがて、前方に大きな街が姿を現す。
広い農地に囲まれた城壁。
遠くには風車が回り、街の周囲にはいくつもの水路が伸びていた。
「見えてきたよ!」
リュカが窓の外を指差す。
「あれが南部最大の都市、ラグナードだよ」
「……おお」
ついに到着か。
俺は窓の外へ目を向けた。
広大な農地に水を運ぶ水路。
そして、ところどころに広がる枯れた畑。
……さて。
今回は、どこから手をつけたもんかな。
「……そうだな……まずは水を調べるか」




