#77-13「再び王都へ、広がる不安」
砂走車に揺られること一日。
ようやく見慣れた巨大な城壁が姿を現した。
……しかし。
城門へ近づくにつれ、何やら様子がおかしいことに気づいた。
門の前には長い行列。
荷車が何台も停まり、兵士たちが一台ずつ積荷を確認している。
「……随分混んでるな」
「警備が厳しくなってるみたいだね」
リュカが窓の外を見ながら答えた。
「ザルガードで聞いた話か?」
「うん。王都周辺でも盗賊や魔獣の被害が増えてるからね」
……なるほど。
俺たちの乗った砂走車も、しばらくして検問所で停まった。
兵士が乗り込んでくる。
「全員、身分を確認させていただきます」
乗客たちが順番に身分証を差し出していく。
やがて俺たちの番になった。
チャピが身分証を見せると、兵士が慌てて姿勢を正した。
「し、失礼いたしました!」
「気にしないで。お仕事お疲れさま」
……おお。
さすが王女様。
普段は俺に怒鳴ってばかりなのにな。
「キョーくん、今失礼なこと考えたでしょ?」
「考えてない!」
「嘘!」
……何で分かるんだよ。
検問を終えた砂走車は、ようやく城門を抜けた。
街の中も、以前とは少し様子が違っていた。
市場には人が集まり、店先では商人と客が言い争っている。
「だから!昨日より高いじゃないか!」
「仕方ねえだろ!仕入れが届かねえんだよ!」
……物資不足か。
別の通りでは、武装した兵士たちが巡回していた。
「何だか落ち着かないですね」
蓮が窓の外を見つめている。
「そうだな。王都ってもっと賑やかな場所だったよな」
「人はいるけど、みんな余裕がないみたい」
チャピが小さく呟いた。
やがて砂走車が乗り場へ到着した。
俺たちは荷物を持って降りる。
「さて、南部行きはどこだ?」
「明日の朝に出る便があるよ」
リュカが乗り場の案内を確認して答えた。
「じゃあ、今日は一泊か」
「そうだね」
……よし。
宿を探すか。
そう思って歩き出したところで、通りの向こうから怒鳴り声が聞こえてきた。
「早く運んでくれ!怪我人がいるんだ!」
見ると、荷車を引いた商人が兵士たちに助けを求めていた。
荷台には、腕を押さえた男が座り込んでいる。
「どうしたんだ?」
近くにいた兵士へ声をかけた。
「南へ向かっていた隊商が、王都から半日ほどの街道で魔獣に襲われたそうだ。引き返してきたらしい」
「南?」
思わず聞き返す。
「俺たちがこれから行く方じゃないか」
「……そうだね」
リュカの猫耳がぴくりと動いた。
兵士たちが怪我人を運び出そうとしている。
すると、蓮がすぐに駆け寄った。
「俺も手伝います!」
「あ、ああ!頼む!」
蓮は荷台に上がり、負傷した男に声をかけた。
「大丈夫ですか?今、安全な場所へ運びますから!」
「す、すまねえ……」
男を支えながら、慎重に荷車から降ろしていく。
俺も手を貸そうとしたが、すでに兵士たちが集まっていた。
……仕事が早いな。
怪我人が運ばれていくのを見送ると、蓮が戻ってきた。
「……ひどい怪我でした」
「ああ」
「この辺りは、そんなに魔獣が多いんですか?」
リュカが首を振った。
「王都の近くまで出てくるのは、あまり聞かないね」
「……そうですか」
蓮は南へ続く街道を見つめた。
何やら考え込んでいる。
「蓮?」
「あ、はい」
振り返った蓮が、少しだけ表情を引き締めた。
「キョウマさん。明日、もし魔獣に遭遇したら――」
「ん?」
「俺が前に出ます」
「頼もしいな!」
「一応、俺も勇者ですから」
蓮が少し照れたように笑った。
「そういやそうだったな!」
「忘れてたんですか!?」
「いや、最近一緒に現場仕事ばっかりしてたから!」
「……確かにそうですね」
二人で笑う。
そんなやり取りをしていると、王城の方角から鐘の音が響いてきた。
見上げれば、城壁の上には大勢の兵士たちが立っている。
今もどこかで、誰かがこの街を守っているんだろう。
ザルガードからの援軍も、もうすぐ到着するはずだ。
……レオンなら、何とかするか。
俺は背中のルミナスを担ぎ直した。
「よし、宿を探すぞ!」
「うん!」
明日は南部ラグナードだ。




