#77-10「繋がった道、その先へ」
「よし! 野郎ども! 次の部材だ!」
「おう!」
俺も工兵たちと一緒に返事をした。
それから数時間――。
資材置き場に並んでいた金属の骨組みは、いつの間にか巨大な橋の形になっていた。
……でけえ。
「おい、キョウマ!ぼさっとするな!」
「いや、こんなもん本当に架けるのかと思って」
「架けなきゃ何のために造ったんだよ!」
そりゃそうだ。
ガンツが豪快に笑う。
その向こうでは、工兵たちが橋の両端を支える土台を仕上げていた。
「隊長!支持部の確認、完了しました!」
「おう!架橋班、準備しろ!」
「了解!」
号令とともに、巨大な巻き上げ機が動き出した。
ギギギギ……。
金属の骨組みが、ゆっくりと前へ進んでいく。
「……おお」
橋が動いてる。
いや、当然なんだけど。
「すげえな、これ」
「軍用の仮設橋だ。こういう時のために用意してあるんだよ」
ガンツが胸を張る。
「ただし、架けられる場所は限られる。今回は両岸に使えそうな岩盤があって助かったぜ」
「なるほどな」
「キョウマ!そこの工具箱、架橋班へ持っていってくれ!」
「おう!」
俺は工具箱を抱え、指定された場所へ運んだ。
目の前では工兵たちが声を掛け合いながら、橋の位置を調整している。
「もう少し前だ!」
「右側、合わせろ!」
「よし!そこで止めろ!」
ガコンッ!
鈍い金属音が響いた。
橋の先端が、向こう側の土台に届いた。
「……おおっ!」
「まだ喜ぶのは早いぞ!固定が終わってねえ!」
「分かってるよ!」
それからも作業は続いた。
工兵たちが橋を固定し、補強材を取り付けていく。
俺も言われるまま工具を運び、資材を押さえ、足りない部材を取りに走った。
やがて――。
「隊長!架橋作業、完了しました!」
「よし!」
ガンツが橋を見渡した。
崩落した道路の上に、一本の金属製の橋が架かっていた。
向こう側まで、ちゃんと繋がっている。
「……できたな」
「ああ。だが、まだ終わりじゃねえ」
ガンツがレオンのもとへ向かった。
「閣下!仮設橋の設置が完了しました。これより試験通行を行います!」
「分かった。通行可能な重量を確認しろ」
「はっ!」
まず、工兵たちが橋の状態を確認する。
その後、荷を載せた無人の台車が慎重に渡され、橋のたわみや固定部分に問題がないか調べられた。
「……大丈夫そうだな」
俺が呟くと、ガンツが首を振った。
「まだだ。実際に車両を通して確認する」
やがて、荷物を積んでいない小型の砂走車が橋の手前へ移動した。
操縦席には軍の操縦士。
周囲では工兵たちが計測器を構えている。
「試験車両、前進!」
ゆっくりと車両が動き出した。
ゴウン……。
車体が橋の上へ進む。
金属の骨組みが僅かに軋んだ。
……おい、大丈夫か?
「ガンツ」
「静かに見てろ」
……はい。
車両はそのまま進み続けた。
橋の中央。そして、向こう岸へ。
「通過完了!」
工兵の声が響く。
だが、ガンツはすぐには喜ばなかった。
「支持部の状態は!」
「異常ありません!」
「橋材の変形は!」
「許容範囲内です!」
「よし!」
ガンツが大きく頷いた。
「閣下!軽車両の通行は可能です。ただし、重量と速度の制限が必要になります!」
「承知した」
レオンが副官へ向き直る。
「補給部隊を通せ。一台ずつだ。橋の両端に誘導員を配置しろ」
「はっ!」
ついに、物資を積んだ砂走車が動き出した。
一台、また一台。
長い時間をかけて、補給車両が向こう側へ渡っていく。
「……すげえな」
「何がだ?」
「いや、さっきまで道がなかったんだぜ?それがもう車が通ってる」
「ははっ!俺たちの仕事だからな!」
ガンツは橋を見ながら笑った。
「壊れたら直す。通れなきゃ通れるようにする。それだけだ」
……なんだ。
こいつ、俺と似たようなこと考えてるな。
その時、レオンの声が響いた。
「キョウマ」
「ん?」
「第三砦まで同行するか?」
「いいのか?」
「ああ。協力してもらった礼もある。砦の状況を見たいのだろう?」
「そりゃ、まあ」
「補給が届いたことを、自分の目で確かめていくといい」
「じゃあ、お言葉に甘えるよ」
「ガンツ。お前も同行しろ。砦側の道路の状態を確認してもらいたい」
「はっ!承知しました!」
ガンツが敬礼する。
「よし、キョウマ!乗るぞ!」
「おう!」
俺たちはガンツの案内で仮設橋を渡り、向こう岸で待機していた補給車両に乗り込んだ。
それからしばらく。
砂走車は、荒れた大地を東へ進んでいた。
街道の両側には岩山が続き、ところどころに監視塔が建っている。
遠くには、武装した兵士たちの姿も見えた。
「……ずいぶん兵隊が多いな」
「ここから先は第三砦の防衛区域だからな」
「魔物が出るのか?」
「ああ。とはいえ、普段は砦より東で食い止めてる。俺たち工兵の仕事は、あいつらが安心して戦えるようにすることさ」
確かに。
飯が届かなきゃ、どんなに強い兵士だって戦えない。
武器が壊れても、補充できなきゃ困る。
……建物の管理と同じだな。
表に出ない仕事ほど、止まると大変なんだ。
「見えてきたぞ!」
ガンツの声に顔を上げる。
岩山の間に、巨大な城壁が見えてきた。
灰色の石を積み上げた壁。
その上には見張り台が並び、兵士たちが周囲を警戒している。
さらに奥には、いくつもの塔がそびえていた。
「……でけえ」
「第三砦だ」
ガンツが誇らしげに言った。
「この辺りじゃ、前線の要になる砦だぞ」
やがて、補給車両が砦の門へ近づいていく。
門の前では、大勢の兵士が待ち構えていた。
「補給隊だ!」
「本当に来たぞ!」
「門を開けろ!」
重い音を立てて、巨大な門が開かれていく。
俺たちの車両が中へ入ると、すぐに兵士たちが集まってきた。
「食料は!」
「水もあります!医薬品も!」
補給隊の兵士が答える。
「よし!荷下ろしを始めろ!」
途端に、砦の中が慌ただしくなった。
兵士たちが次々と荷物を運び出していく。
水の入った樽。食料の袋。武器の予備部品。
……結構な量だな。
「これで何とか持ち直せるな」
「そんなに困ってたのか?」
「ああ。ここ数日、道の具合が悪くてな。補給が遅れがちだったんだ」
「なるほど……」
俺は砦の中を見渡した。
疲れた顔をした兵士たち。
それでも、物資が届いたことで表情が明るくなっている。
「閣下!」
一人の軍人が駆け寄ってきた。
レオンが車両を降りる。
「補給を再開した。受け入れ状況は?」
「はっ!滞っていた物資の搬入を進めています。これで備蓄を回復できます!」
「よし。引き続き防衛態勢を維持しろ」
「はっ!」
軍人が敬礼して去っていった。
レオンは砦の様子を見渡した。
「……ガンツ」
「はっ!」
「よくやった。お前たちのおかげで、補給路が繋がった」
「いえ!工兵隊全員の働きです!」
「そうだな。全員に私から礼を伝えてくれ」
「はっ!」
ガンツが嬉しそうに笑った。
……おお。
あのおっさんでも、褒められるとあんな顔するんだな。
「キョウマ」
レオンが俺へ向き直った。
「お前にも感謝する」
「いや、俺は手伝っただけだぞ」
「その手伝いが必要だった」
「……そうか」
何だか照れくさいな。
横からガンツが笑いながら俺の肩を叩いた。
「ははっ!素直に受け取っとけ!」
「痛えって!」
「何だよ、ひ弱だな!」
「お前の力が強すぎるんだよ!」
ガンツが腹を抱えて笑う。
俺もつられて笑ってしまった。
……ったく。
異世界に来てまで、こんなおっさんと一緒に現場仕事するとはな。
「なあ、キョウマ」
「ん?」
「また何かあったら手伝ってくれよ!」
「おう。俺にできることならな」
「ははっ!頼りにしてるぜ!」
ガンツが大きな手を差し出してきた。
俺はその手を握り返す。
ごつごつした、分厚い手だった。
……働く男の手ってやつだな。
「さて!」
ガンツが手を離す。
「俺は砦側の街道を見てくる。まだ補修が必要な場所もあるからな!」
「おう、頑張れよ!」
「お前もな!」
そう言って、ガンツは工兵たちを連れて歩いていった。
俺はその背中を見送った。
「キョーくん」
チャピが隣へやってくる。
「よかったね」
「ああ」
補給は再開した。
第三砦の兵士たちも、これでひとまず安心だろう。
俺は砦の城壁を見上げた。
あちこちに補修の跡が見える。
新しく積み直された石材。
壁面を走る細い亀裂。
……こっちも、結構傷んでるんだな。
「どうしたの?」
「いや、あそこも直してるんだなって」
チャピが俺の視線を追う。
「本当だ」
「まあ、これだけでかい砦なら、維持管理も大変だろうな」
……さて。
とりあえず、今日の現場は一段落か。
遠くでは、ガンツの威勢のいい声が響いている。
「おい!そこの資材、こっちだ!急げ急げ!」
……元気なおっさんだな。
俺は笑いながら、その声を聞いていた。




