#77-8「第三砦への、道」
宿を取った俺たちは、その日は早めに休むことにした。
翌朝――。
ドンドンドン!
「シライシ・キョウマ殿!いらっしゃいますか!」
……何だよ、朝っぱらから。
扉を開けると、軍服姿の男が立っていた。
「昨日、レオン閣下とお話しされていた方ですね?」
「ああ、そうだけど」
「閣下から伝言を預かっております」
「伝言?」
「第三砦への補給路を確認するため、工兵隊が出発します。協力の意思が変わらないのであれば、同行を許可するとのことです」
……おお。
昨日は入るなって言ってたのに。
「行く行く。ちょうど現場を見たかったんだ」
「では、一時間後に東門へお越しください」
兵士は敬礼して去っていった。
身支度を整えた俺たちは、東門へ向かった。
門の前には、軍用の砂走車が何台も並んでいた。
資材を積んだ車両。
兵士を乗せた車両。
その間を、工兵らしい男たちが忙しく行き来している。
「おう、来たか!」
声をかけてきたのは、がっしりした体格の中年男だった。
猪の耳に、口元から覗く短い牙。
分厚い作業服に、工具の詰まった腰袋。
……なんだか親近感が湧く格好だな。
「俺はガンツ。ザルガード工兵隊の隊長だ。今日はお前らを連れて行くことになってる」
「白石恭真だ。よろしく」
「ああ。聞いてるぞ。設備のことなら多少分かるんだって?」
「多少な。地割れを直せるわけじゃないぞ」
「ははっ!そりゃ俺たちだって同じだ!」
男が豪快に笑った。
「俺たちにできるのは、崩れた場所を調べて、安全に道を通せるようにすることだ。地面そのものをどうにかできるわけじゃねえ」
「……だよな」
少し安心した。
何でも直せと言われたらどうしようかと思ったぜ。
「まあ、現場で何か気づいたら言ってくれ。ただし、危ない場所には勝手に入るなよ」
「ああ、分かった」
男は満足そうに頷いた。
「よし、出発だ!」
号令とともに、兵士たちが砂走車へ乗り込んでいく。
俺たちも案内された車両に乗り込んだ。
やがて、軍用の砂走車がゆっくりと動き出す。
東門を抜けると、景色は一変した。
砂の平原。
遠くに見える岩山。
そして街道に沿って、一定の間隔で建てられた監視塔。
「……ずいぶん厳重なんだな」
「ここから先は前線だからね」
隣に座っていたリュカが答えた。
「第三砦より向こうは、魔物の生息域に近いんだよ」
「へえ……」
「だから補給路が塞がると大変なの。砦の兵士が食べる物も、武器も、全部ここから運ぶんだから」
なるほど。
道が一本使えなくなるだけでも、影響は大きいわけか。
しばらく進んだところで、車両が速度を落とした。
「……何だ?」
前方に、兵士たちが集まっている。
その先には、街道を横切るように地面の亀裂が走っていた。
「うわ……」
思わず声が出た。
道が、途中でなくなっている。
舗装された地面が大きく割れ、一部が下へ崩れ落ちていた。
周囲には崩れた石材が散乱し、道路の端から端まで亀裂が広がっている。
「……こりゃ通れんわ」
車両が停止する。
俺たちは工兵隊長に続いて降りた。
「ここから先は徒歩だ。崩落箇所には近づくなよ」
「ああ」
俺は地面を見た。
崩れた道路に、露出した地層。
その向こうには、まだ続いているはずの街道が見える。
……何が起きてるんだ?
「キョーくん、何か分かる?」
チャピが訊いてきた。
「いや、全然」
俺は腰を落とし、足元の舗装を眺めた。
割れ目の近くには新しいひびが走っている。
工兵たちは測量用の道具を広げ、地面の状態を確認していた。
「……なあ、隊長」
「何だ?」
「ここ、いつからこんな状態なんだ?」
「昨日の朝からだ。最初は小さな亀裂だったらしい。それが昼過ぎに一気に広がって、道が落ちた」
「……へえ」
昨日の朝は、小さな亀裂。
それが数時間で、ここまで。
俺は再び崩落した道路を見た。
「今も広がってるのか?」
「それを調べてるところだ」
隊長が工兵たちを見る。
「だから、まだ近づけねえ」
「なるほど」
……だったら、まずは待つしかないな。
俺は立ち上がった。
「分かった。調査が終わるまで邪魔しないよ」
隊長が少し意外そうな顔をした。
「……お前、随分と物分かりがいいな」
「いや、危ないだろ。崩れてる場所に勝手に入ったら」
「そりゃそうだが……」
何だよ。
レオンといい、このおっさんといい。
俺はそんなに無茶する奴に見えるのか?
その時――。
「隊長!」
工兵の一人が声を上げた。
「崩落箇所の反対側にも、新しい亀裂が確認されました!」
「何!?」
隊長が振り返る。
「広がっているのか?」
「まだ分かりません! ですが、このままでは残った街道も危険です!」
……おいおい。
つまり、今ある道も安全じゃないってことか?
隊長が険しい顔で崩落現場を見た。
「全員、測量位置を下げろ!崩落箇所から離れろ!」
工兵たちが一斉に動く。
俺たちも兵士に誘導され、後方へ下がった。
これじゃ道を直す以前に、作業する場所そのものが危ない。
俺は遠くに続く街道を見る。
その先には、物資を待っている第三砦がある。
……さて。
こいつは、どうしたもんかね。




