↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
89/110

#77-6「鉄壁の街、ザルガード」

砂走車に揺られること一日。

ようやく、地平線の向こうに巨大な城壁が見えてきた。


「……でけえな」


思わず声が出た。

灰色の城壁が左右にどこまでも伸びている。

その上には等間隔に見張り塔が並び、兵士たちが周囲を警戒していた。


「ここがザルガード?」


チャピが窓から身を乗り出す。


「そう。東部最大の軍事都市だよ」


リュカが答えた。


「なんか、ものものしいな」

「東の荒野には魔物がたくさんいるからね。ここは、その魔物たちが大陸の内側に入ってこないように守ってるんだ」

「へえ……」


改めて城壁を見る。

あんなものが必要なくらい、危険な場所なのか。


「だったら俺たちも、魔物に襲われたりするのか?」

「この辺りまでは滅多に来ないよ。東の砦で食い止めてるから」

「……それなら安心だな」


俺は座席に深く腰を下ろした。やっぱり安全第一だ。

その横で蓮が城壁を見上げている。


「すごいですね……。あの壁を維持するだけでも、相当な人手が必要でしょうね」

「そうだな。あれだけ長けりゃ点検だけでも大仕事だ」


俺は壁の上を目で追った。

石造りの壁面には、ところどころ足場が組まれている。

作業員らしい男たちが、何かを運び上げていた。


「……あそこ、補修してるな」

「最近の地割れの影響だよ。城壁の一部にも亀裂が入ったんだって」

「そりゃ大変だ」


壁が傾いたり崩れたりしたら、その下を歩く人間まで危ない。

やがて砂走車が速度を落とした。

前方には大きな城門。

だが、その手前には長い列ができていた。


「……渋滞か?」


荷車や旅人がずらりと並び、兵士たちが一人ずつ確認している。


「検問だよ。ザルガードは出入りが厳しいからね」


城門の左右には武装した兵士。

さらに壁の上からも、こちらを見下ろしている。

……なんか悪いことしてなくても緊張するな。

しばらくして、俺たちの番になった。


「止まれ!」


鎧を着た兵士が砂走車の前に立った。


「身分と入城目的を申告しろ!」

「観光……じゃないな」

「キョーくん!」


チャピが小声で突っ込んできた。


「何だよ。じゃあ何て言えばいいんだ?」

「調査でしょ!」


ああ、そうだった。


「調査だ」

「何の調査だ?」


……困った。

世界の穢れを調べています。

なんて言って通じるのか?


「えーっと……地割れとか、そういうのを見に来た」


兵士の眉が動いた。


「地割れ?」

「そう。何か変なことが起きてないか、現場を見たくて」

「許可証はあるのか?」

「……ない」


兵士の表情が険しくなった。


「無許可の調査は認められん」

「いや、別に勝手に掘ったり壊したりするつもりは――」

「キョーくん、ちょっと黙って!」


チャピが俺の前へ出た。

懐から身分証を取り出す。


「風の大陸シルフィード、ピュルシエール王家第一王女、チャルディアノクス・ピュルシエールです」


兵士が身分証を確認する。


「……ピュルシエール王家の王女殿下?」


「はい。大地の大陸で発生している異変を調査しています。正式な手続きが必要なら、担当の方へお取り次ぎください」


兵士は姿勢を正した。


「承知しました。確認いたしますので、少々お待ちください」


そう言い残し、門の奥へ向かっていった。


「……すげえな、チャピ」

「キョーくんが余計なこと言うからでしょ!」

「事実を言っただけだぞ」

「言い方の問題!」


……難しいな、外交って。

しばらくすると、先ほどの兵士が戻ってきた。


「確認が取れました。入城を許可します。ただし、軍の管理区域へ入る際は別途許可が必要です」

「分かりました」


チャピが答える。

門が開き、砂走車がゆっくりと動き出した。

その先に広がっていたのは――


「……うわ」


思わず声が漏れた。

真っ直ぐに伸びる大通り。

整然と並んだ灰色の建物。

道の両側には兵士が立ち、軍服姿の男たちが隊列を組んで歩いている。

遠くから号令が響いてきた。


「一、二!一、二!」

「……街中で訓練してるのか?」

「訓練場があちこちにあるんだよ。ここでは珍しくない光景だから」

「へえ……」


商人も住民もいる。

だが、王都ヴァルグランとはまるで雰囲気が違った。

人々は決められた通路を歩き、荷車は兵士の指示に従って進んでいる。

交差点には交通整理の兵士まで立っていた。


「……交通誘導まで軍がやってんのか」

「ここでは軍が街の管理も担当してるからね」

「なるほど……」


よく見れば、道路の一部が柵で囲まれていた。

地面に大きな亀裂が走り、その周囲で作業員が補修している。

別の通りでは、荷車が列を作って止まっていた。


「そっちは通れないのか?」


俺が尋ねると、リュカが顔を向けた。


「あの先も地割れが起きたんだって。迂回するしかないみたい」

「結構あちこち壊れてるんだな」

「……うん」


その時だった。

前方から、甲高い鐘の音が響いた。


カン! カン! カン!


街を歩いていた兵士たちが、一斉に足を止める。


「……何だ?」


直後、通りの奥から一人の兵士が駆けてきた。


「伝令!伝令!」


声を張り上げながら、門の方へ走っていく。


「緊急伝令!第三砦への補給路が崩落!司令部へ報告する!」


周囲の兵士たちが慌ただしく動き始めた。


「第三砦への補給路が崩落!」

「第一補給隊、待機!工兵隊へ連絡!」


次々と指示が飛び交う。

さっきまで整然としていた街の空気が、一気に変わった。


「……何かあったみたいだな」


俺が呟くと、リュカが険しい顔をしていた。


「第三砦は、東の防衛線にある砦だよ」

「それがどうした?」

「補給が止まったら……」


リュカはそこで言葉を切った。

遠くで、また鐘が鳴る。

兵士たちが走り、補給車両が次々と動き出していく。

蓮が真剣な顔で、その様子を見つめていた。


「……前線にいる人たちが危ないということですね」

「うん。長く補給が止まれば、魔物を食い止められなくなる」


俺は城門の向こうを振り返った。

あれだけ頑丈そうな城壁。

それを守る大勢の兵士。

なのに、一本の道が崩れただけで、こんな騒ぎになるのか。

俺はもう一度、通りの奥を見た。

何が起きているのか、まだ分からない。


だったらまずは――


「……ちょっと話を聞いてみるか」

「やっぱり!」


チャピの声が、騒がしい街路に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。