#77「五つの印、四つの異変」
王城へ入った俺たちは、そのまま大広間へ案内された。
中にはすでに大勢の人が集まっていた。
その中央に少し離れて、四人の男女が立っている。
熊の耳を持つ大柄な男。
銀灰色の髪に、狼の耳を持つ男。
淡い金茶色の髪をした、鹿の獣人の女。
そして赤茶色の髪に、狐の耳を持つ男。
「……あの四人が?」
「王位候補よ」
隣にいたリュカが小声で答えた。
やがて広間のざわめきが収まる。
前に立っていた老人が、一歩前へ出た。
「――これより、王選を開始する!」
声が大広間に響き渡った。
「先王亡き今、グランディアの玉座は空位となっている」
老人の前に、五つの紋章が掲げられる。
「一つ。王都ヴァルグランの《王都印》」
「二つ。北部ドルガンの《鉱山印》」
「三つ。東部ザルガードの《軍統印》」
「四つ。南部ラグナードの《豊穣印》」
「五つ。西部メルヴァナの《交易印》」
「これら五つの印は、それぞれの地域を代表する者たちが保持する」
なるほど。五つの地域。五つの印。
「各地域は、次代の王に相応しいと認めた候補者へ、その印を託す。候補者は各地を巡り、自らが王に相応しいことを示さねばならない」
老人が四人へ視線を向けた。
「方法は問わぬ。民を救うもよし、問題を解決するもよし、己の政策を示し支持を得るもよし。印を誰に託すかは、各地域の判断に委ねられる」
なるほどな。要するに、選挙活動みたいなものか。
「また、一度託された印も、王が決するまでは絶対ではない。相応しくないと判断されれば印は返還され、別の候補者へ託されることもある」
結構シビアだな。
「そして――」
老人が声を張り上げる。
「五印のうち、三印を同時に得た者を――次代グランディア国王と認める!」
広間がざわめいた。
俺は腕を組む。
「要するに、三票取った奴が王様ってことか」
「キョーくん……」
「違うのか?」
「だいたい合ってるけど……」
ならいいじゃないか。
老人が再び声を張り上げる。
「王位候補者――前へ!」
四人が、一斉に前へ出た。
「北部ドルガン――ガルド・ドルガン!」
大柄な熊獣人が前を向く。
「東部ザルガード――レオン・ザルガード!」
銀灰色の狼獣人。
「南部ラグナード――セリア・ラグナード!」
鹿の獣人の女。
「西部メルヴァナ――アルベルト・メルヴァナ!」
最後に狐獣人の男。
四人が並ぶ。
誰が王になるのか、俺にはまだ分からない。
そもそも、誰がまともなのかすら知らない。
「それでは――」
老人が四人を見渡した。
「各々、次代の王たることを示せ!」
四人が、一斉に頭を下げた。
こうして、大地の大陸の王を決める《王選》が始まった。
王選の式典が終わり、大広間にいた人たちが次々と出ていく。
「さて」
俺も立ち上がった。
「キョーくん、どうするの?」
「とりあえず王都を見て回る」
王選のことも気になる。
だが、俺たちがこの大陸まで来たのはそれだけじゃない。
風の大陸で起きたことが、ここでも起きていないとは限らない。
「何か変な汚れがないか見ておきたい」
ばふっ!
ルミナスもやる気らしい。
「王都を見るの?それなら、あたしが案内したげるね!」
リュカが得意げに前へ出た。
「頼む」
それから俺たちは、リュカに案内されて王都を歩いた。
路地裏。水路。市場。街の外れ。
気になるところを一通り見て回ったが――。
「……ないな」
普通の汚れはある。
砂なんて掃除しても掃除しても飛んでくる。
だが、それだけだ。
世界樹で見たような、あの黒い汚れは見つからない。
なら、ここじゃないのか?
その後も街を回りながら話を聞いていると、気になる話がいくつか出てきた。
北部ドルガンでは、鉱山の崩落が増えている。
坑道に入れず、採掘が止まっている場所もあるらしい。
東部ザルガードでは、地割れが相次いでいる。
軍の移動や物資の輸送に支障が出て、周辺の治安にも影響しているという。
南部ラグナードでは、井戸の水が濁ったり、作物が育たなくなったりしている。
西部メルヴァナでは、街道が陥没し、隊商が足止めされているそうだ。
「……あちこちで起きてるんだな」
鉱山に、井戸に、街道。
聞いた限りじゃ、どれも黒い汚れの話ではない。
鉱山なら、古い坑道が崩れただけかもしれない。
井戸の濁りだって、水の通り道に何かあれば起きる。
これだけで、風の大陸と同じことが起きているとは言えない。
「キョーくん、気になる?」
「ああ。話だけじゃ、何が起きてるのか分からん」
俺は王都の外へ続く道を見る。
「現場を見るしかないな」
「四つとも行くの?」
リュカが俺の顔を覗き込んだ。
「まずは一つだ。行ってみて、ただの事故ならそれでいい」
「ただの事故でも、放っておかないんでしょ?」
チャピに言われ、俺は頭をかいた。
「……まあ、困ってるならな」
ばふっ!
ルミナスが足元で跳ねた。
こいつも行く気らしい。
「リュカ。北の鉱山まで、どうやって行けばいい?」




