#75「清掃員、大地の大陸へ」
風が強い。
俺は魔道飛行船の甲板から、遠ざかっていく風の大陸を眺めていた。
眼下には雲がかかり、そのさらに下に、緑色の大地が広がっている。
風の大陸――シルフィード。
世界樹、精霊王にあの黒い汚れ。
色々あった。本当に色々あった。
……そして今……俺たちは次の大陸へ向かっている。
大地の大陸――グランディア。
「…………」
手すりに肘をつく。
大陸中で起きている反乱。
国同士の衝突。
そして、その中心で行われている王位争奪戦。
偶然にしては、重なりすぎている。
だから。
『大地の大陸……行ってみるか』
俺がそう言った。
そこまではよかった。
問題は――その後だ。
……
………
…………
「私も行く」
チャピがそう言うと、国王の動きが止まった。
「…………」
「…………」
妙な沈黙……嫌な予感がする。
「今……なんと言った?」
「だから、私もキョーくんと大地の大陸へ行――」
「ならん!!」
早い!即答だ!!
「なんでよ!」
「何故も何もあるか!大地の大陸では戦が起きているのだぞ!」
「分かってるわよ!」
「分かっていて何故行く!」
「だからこそでしょ!」
チャピが国王へ詰め寄る。
「世界樹で何が起きてたか、お父様も聞いたでしょ!?大地の大陸でも同じように穢れが関わってるかもしれないの!」
「だからといって、お前まで行く必要はない!」
「ある!」
「ない!」
「ある!!」
「ない!!」
……親子だな、ホントによく似てる。
俺は少し離れたところで、その様子を眺めていた。
巻き込まれないようにしよう。
こういうのは触らないのが一番だ。
下手に口を挟むと面倒なことになる。
「そもそも!」
国王が叫ぶ。
「何故チャルディアノクスが行かねばならんのだ!」
「私が行きたいからよ!」
「何のために!」
「キョーくんについて行きたいの!」
…………。
国王が止まった。
ゆっくり……本当にゆっくり……こっちを見る。
「…………キョウマ」
「なんだ?」
「きさまぁぁぁぁぁぁ!!」
「なんで俺なんだよ!!」
やっぱり来た!!
国王がものすごい勢いで俺を指差す。
「娘をどこへ連れて行くつもりだ!!」
「俺じゃねえよ!こいつが勝手について来るって言ってんだよ!」
「キョーくん!勝手って何よ!」
「だってそうだろ!」
「きさま!!娘を勝手呼ばわりするか!!」
なんでこうなる。
「お父様!私が自分で決めたの!」
「チャルディアノクスは黙っていなさい!」
「なんでよ!」
「きっとこやつに何か吹き込まれたのだ!」
「吹き込んでねえよ!」
俺が言ったのは、大地の大陸へ行ってみるか。
それだけだ、一緒に来いなんて一言も言っていない。
「そもそも俺は一人でも――」
「キョーくん?」
「…………」
なんかすげー目が怖い。
「いや。ノアは来るだろうけど」
「当然でございます」
いつの間にか俺の横にいたノアが、胸へ手を当てる。
「キョウマ様が赴かれる場所であれば、たとえ戦場であろうと、奈落の底であろうと――」
「お前は話をややこしくするから黙ってろ」
「そんなご無体!」
国王の顔がさらに険しくなった。
「つまり、きさまはその娘だけを連れて行き、我が娘を置いていくつもりだったと!?」
「いや、なんでそれで怒るんだよ!」
「キョーくん!」
「お前も怒るな!!」
二方向から来たぞ!?意味が分からん。
「私は認めん!!大地の大陸など危険すぎる!ましてや男と二人で――」
「ノアもいるって言ってるだろ!」
「もっと駄目ではないか!!」
「なんでだよ!!」
その時。
かつ……かつ……。
廊下から、ゆっくりと足音が近づいてきた。
「あなた」
王妃の声がした……国王が止まる。
「…………しかしだな」
「あなた」
「大地の大陸では戦が――」
「あなた」
「だがチャルディアノクスは――」
「あなた」
「…………」
なんだこれ。
前より性能上がってないか?
「チャルディアノクスは、自分で行くと決めたのでしょう?」
王妃が微笑む。
「はい」
「でしたら、行かせてあげればよろしいではありませんか」
「しかし……」
「あなた」
「…………」
止まった。
すげえ、完全に制御されてる。
もはや人間というより――あなたマシーンだ。
国王が何か言おうとする。
「あなた」
止まる――また口を開く。
「あなた」
止まる。
すごいぞ!何度でも止まる。
「……分かった」
ついに国王が折れた。
チャピがぱっと顔を明るくする。
「ありがとう、お父様!」
「ただし!!」
国王が再び俺を見る。
「キョウマ!!」
「だからなんで俺なんだよ!!」
……
………
…………
「……あのおっさん、最後まで俺に怒ってたな」
「誰がおっさんよ」
横から声がしたので振り返ると、チャピが立っていた。
その後ろには、当然のようにノアもいる。
「いや、お前の親父」
「お父様って言って」
「国王」
「なんで急に他人行儀になるのよ!」
また始まった。
俺は甲板の向こうへ目を向ける。
もう風の大陸は、かなり小さくなっていた。
進行方向、雲の遥か先に、まだ見えない大地の大陸がある。
「……まあ、行ってみりゃ分かるか」
何が起きてるかなんて、ここで考えても分からない。
だったらこの目で見るしかない。
俺は背中のルミナスに声をかけた。
「次の現場だな、相棒!」
ばふっ!とルミナスが勢いよく開いた。




