↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
79/108

#73「それでも、一緒に行く」

「……もういい」

「はい?」

「誓約のことだ」


ノアを見る。


「無理に話さなくていい」

「ですが――」

「いい……言えないなら、言わなくていい」

「…………」

「証明しなくていい」


ノアの目が僅かに見開かれた。

俺も、自分で言った言葉に引っかかった。

まただ……なんでこんな気持ちになる。


「私は五大魔族です」

「聞いた」

「かつて穢れを集めておりました」

「それも聞いた」

「そして今も、キョウマ様にお話しできないことがあります」


ノアの表情から、いつもの薄ら笑いが消えていた。


「それでも?」


俺はノアを見る。


「一個だけ聞く」

「はい」

「今、お前は俺たちの敵か?」


ノアは一瞬だけ黙った。


「いいえ」

「ならいい」

「…………」

「俺は、俺が見たもので判断する。お前は俺たちを助けた。それで十分だ」


「キョウマ様……」


ノアは何も言わなかった。

ただ、いつもの薄ら笑いとは少し違う。

静かな笑みを浮かべた。


「……承知いたしました」


その声を聞いた瞬間。


胸の痛みが――少しだけ消えた。


「話は済んだか」

「ああ」


精霊王は俺たちをゆっくり見渡した。


「ならば、行くがよい」

「もういいのか?」

「伝えるべきことは伝えた」


精霊王の視線がチャピへ向く。


「チャルディアノクス」

「はい」

「王家へ戻り、ここで起きたことを伝えよ」

「分かりました」


チャピが頭を下げる。

そして……精霊王が俺を見る。


「白石恭真」

「なんだ?」

「世界樹を救ったこと。礼を言う」

「…………俺は汚れてたから掃除しただけだ。何度も言わせるな。」

「そうか」


精霊王が僅かに笑った。


「ならば、これからもお前のやり方で進むがよい」

「……掃除しろってことか?」

「…………」


少し間があった。


「それでよい」

「だよな」


レナが後ろでため息をついた。


「絶対そういう意味じゃないと思うけど」

「同じだろ」

「全然違うわよ!」


広間に声が響く。

精霊王は何も言わず、ただ、静かに俺たちを見送っていた。


精霊王との話を終え、俺たちは世界樹を出た。


外へ出ると、眩しく感じた。

ずっと地下にいたせいか、木々の隙間から差し込む光がやけに強く感じた。


「……終わったんだよな」


振り返ると巨大な世界樹。

あれだけ広がっていた黒い汚れは、もうどこにも見えない。

葉は風に揺れ、根元には、淡い光が流れている。


「うん」


チャピが隣に立った。


「終わったよ」


なんだか実感がない。

ものすごく長い間ここにいたような。

ほんの数時間しかいなかったような。

変な感じだ。


「じゃあ帰るか」

「……それだけ?」


レナが呆れた顔をする。


「掃除しただけだろ」

「実にキョウマ様らしい幕引きでございます」

「幕引きっていうな。帰るぞ」


来た道を戻る。

森を抜けると。

そこには俺たちが乗ってきた風走車が、そのまま待っていた。

御者が俺たちを見るなり、目を見開く。


「ご無事でしたか!」

「ただいま」


チャピが笑った。


翌朝。


風走車は王都アステリアへ向けて走り出した。

行きと同じ道。

草原、小さな村、遠くに見える山。

退屈な道のりだ。


二日目の午後。


窓の向こうに白い城壁が見えてくる。


「見えたよ」


チャピが窓を指差した。

王都アステリア。

その中央に、王城が見える。


「やっと着いたか……」

「二日しか経ってないでしょ」

「十分長い」


尻が痛い。

風走車は速いけど、二日乗れば普通に疲れる。

やがて城門を抜けると、そのまま王城へ向かった。


門の前には、兵士たちが並んでいた。


「……なんだ?」


俺が窓から覗いていると。

風走車がゆっくり止まった。

扉が開く。

最初にチャピが降りた。


「チャルディアノクス!」


聞き覚えのある声。

国王だった。

その後ろには王妃。

兄と妹もいる。


「お父様」


チャピがそう言った瞬間。

国王が早足で近づいてくる。

そのままチャピの肩を掴んだ。


「怪我はないか!?」

「だ、大丈夫よ」

「本当か!?どこも痛くないか!?」

「ないってば!」


相変わらずだな。

だが、その顔は本気で安心しているようだ。

王妃もチャピを抱き締める。


「お帰りなさい」

「……ただいま、お母様」


兄は何も言わず、小さく息を吐いた。

妹は満面の笑顔でチャピへ抱きついている。


「姉様、お帰りなさい!」

「アウレシアーナ、ちょっと苦しい」


俺たちも風走車を降りる。すると……国王がこっちを見た。


「キョウマ」


しばらく黙っている。

なんだ?

また何か怒鳴られるのかと思ったが。

国王は静かに頭を下げた。


「……娘を連れて帰ってくれたこと、感謝する」

「…………」


このおっさんが。

俺に頭下げた。


「なんだその顔は」

「いや……普通に礼が言えたんだなって」

「きさまぁぁぁ!!」


やっぱりいつものおっさんだった。


「あなた」

「…………」


そしていつもの王妃だった。

少しだけ笑ってしまった。

帰ってきた……ようやく。

そんな感じがした。


……

…………


その夜、夕食を終えたあと。

俺たちは前にも使った客室に集まっていた。

チャピ、ノア、レナ。……そして俺。

俺は椅子に座りながら、三人を見る。

精霊王から聞いた話が頭から離れない。

五大魔族……穢れ……この世界に起きていること。

俺が何をするべきなのか。

そこまで考えて、ふと思った。


「なあ、お前ら、これからどうする?」

「え?」


チャピが首を傾げた。


「俺は……たぶん、これから他の大陸にも行くことになる」


精霊王に言われたから、だけじゃない。

あの黒い汚れを見た。

怖いし、出来れば逃げ出したい。

でも、放っておけば、また誰か死ぬかもしれない。


だったら。


原因を見つけて、掃除するしかない。


「でも、お前らまで付き合う必要はないだろ」


最初に答えたのはチャピだった。


「行くよ」

「即答かよ」

「だって、キョーくん一人じゃ何するか分からないし」

「子供じゃねえぞ」

「知ってる」


チャピが笑った。


「でも、一緒に行く」

「……そうか」


次にノアを見る。


「お前は?」

「まあ」


ノアが胸に手を当てる。


「なんという愚問でしょう」

「なんでだよ」

「わたくしはキョウマ様にお仕えする身」


いつもの薄ら笑い。


「キョウマ様の舞台が続く限り、どこへでもお供いたします」

「舞台じゃねえけどな」

「わたしにとってキョウマ様との旅は最高の舞台です」


よく分からん。

最後にレナを見る。


「レナは?」

「私は……」


少しだけ間があった。


「一度、光の大陸に戻るわ」

「戻るのか?」

「ええ」


レナが頷く。


「教会に報告しないといけないもの」


精霊王や六柱の神、五大魔族。

世界樹で起きたこと。

確かに、報告することだらけだ。


「それに、他の勇者にも伝える必要がある」

「そうか」

「だから……ここでお別れね」


お別れ……その言葉が妙に引っかかった。


「また会うだろ」

「!!……そうね……確かに」


レナが少しだけ笑った。


「どうせ、あなたのことだから。また面倒事のど真ん中にいるでしょうし」

「俺は掃除してるだけなんだけどな」


チャピが笑う。

ノアも笑っている。

俺は三人を見る。

一人は来る。

もう一人も来る。

一人は別の場所へ戻る。

ずっと四人でいるわけじゃない。

当たり前のことなんだけど。


少しだけ、寂しい気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。