↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
73/106

#70.11「恐怖する心、信頼する心」

「やった!開いたよ、キョーくん!!」


チャピが振り返った。

嬉しそうな顔だった。


「じゃあ行こ!」

「…………」


足が動かない。


「キョーくん?」


なんだよ、これ。

道を見るだけで胸が苦しい……足が震える。

行きたくない!絶対に、この先へ行きたくない。


「……待ってくれ」

「え?」

「俺……行けない」


チャピの顔から笑顔が消えた。


「キョーくん?」

「悪い。ちょっと……待ってくれ」


俺はその場に座り込んだ。


「キョウマ?」


レナが近づいてくる。


「大丈夫?」

「ああ……いや、大丈夫じゃないかもしれん」


自分でも何を言ってるのか分からない。

チャピが俺の前にしゃがんだ。


「キョーくん」

「…………」

「何が怖いの?」


顔を上げる。


「怖いんでしょ?」

「…………」


チャピが俺を見ている。


「話して」

「いや……」

「お願い」

「…………」


何を話せっていうんだ。

俺にだって分からない……でも。


「……この中に入りたくない」

「うん」

「理由は分からん。ただ……怖い」

「うん」

「それだけじゃない」

「…………」


チャピを見る。


金色の髪、長い耳、緑色の目……胸が痛い。


「みんなが……チャピが……」


声が震える……。


「……死ぬ気がする」


チャピの目が大きく開いた。


「…………」


何言ってんだ、俺。


「悪い。忘れてくれ」

「どうして?」

「どうしてって……」

「キョーくんがそう思うんでしょ?」

「思うっていうか……」

「じゃあ、何かあるんだよ」

「…………」


今度は俺がチャピを見る。


「信じるのか?」

「うん」


即答だった。


「なんでだよ」

「キョーくんがまじめに答えてるから」

「理由になってねえよ」

「なってるよ」


チャピが笑った。


「それに、ホントに怖いなら原因を探せばいいんじゃない?」

「……原因?」

「うん」


チャピが立ち上がる。


「キョーくん、いつも言ってるじゃん」

「何を?」

「汚れるなら、どこかに原因があるって」

「…………」


ああ……言ってる。


汚れだけ取っても意味がない。

また汚れるなら、どこかに原因がある。

水漏れなら漏れている場所を探す。

異臭なら発生源を探す。


「……そうだな」


俺は立ち上がった。

まだ怖い、足も震えてる。

それでも。


「原因を探すか」

「うん!」


俺たちは世界樹の中へ入った。

精霊王のところへは向かわない。

まずは点検だ。


「チャピ。この辺の魔力って、どこから来てる?」

「世界樹全体だよ」

「全体?」

「根から吸い上げた魔力が幹を通って、枝とか葉っぱとか、全部に流れてるの」

「配管みたいなもんか」

「はいかん?」

「気にするな」


壁に手を当てる。

木だ……いや。

世界樹なんだから当たり前なんだが。


「流れを確認できる場所は?」

「魔力の?」

「ああ」

「うーん……」


チャピが考え込む。


「精霊王様なら分かると思うけど」

「それじゃ遅いかもしれん」

「そっか……」


俺たちは道を進んだ。

途中で枝分かれしている場所を見つけるたびに止まる。


「こっちは?」

「たぶん古い根につながってるんじゃないかな」

「古い根?」

「もう使われてないところだと思う」

「使われてない?」

「うん。シルフィードにある巨木もずっと同じ根を使ってるわけじゃないから」


俺は足を止めた。


「……使わなくなった根はどうするんだ?」

「え?」

「そのままか?」

「たぶん切り離されると思うけど……」


切り離す。

使わなくなったもの。


「そこ、見られるか?」

「えっと……」


チャピが周囲を見る。


「多分……こっちだと思う」


チャピについていく。

細い道を進む。

さっきまであった淡い緑色の光が少なくなっていく。


「暗いな」

「この辺、もうほとんど使われてないみたいね」

「……怪しいな」

「そうなの?」

「使ってない場所ってのはな、異常があっても気づくのが遅れるんだよ」

「なるほど……」


さらに奥へ進む。

その時だった。

足が止まった。


「……キョーくん?」

「待て」


何かいる。

道の先に黒いものが見えた。


「……あれ」


チャピが息を呑む。


黒い汚れ……!!


木の根を這うように広がっている。


「やっぱり……」


あった……あれだ!あれが恐怖の元凶だ。

俺の頭がおかしくなったわけじゃない。

あれが原因で……チャピが……みんなが……死ぬ。


「キョウマ!」


レナが剣を抜く。


「分かってる」


ルミナスを構える。


その時、黒い汚れの向こうから声がした。


「……何者です?」


女がいた。

黒い汚れの中に立っている。


「…………」


誰だ?……知らない女だ。

知らない……はずなのに。

背中が冷たくなる。


「お前……」


女が俺を見る。


「お前が……やったのか?」

「何のことでしょう?」

「とぼけんな」


ルミナスを握る。


「この黒い汚れだよ」


女の目が細くなる。


「……なぜ、そう思うのです?」

「知らん」

「…………」

「でも、お前が関係してる」


そう思う。

いや……分かる。


「みんなこいつを倒すぞ!」

「……私を?」


女が小さく笑った。


「面白い人間ですね」

「キョウマ、気をつけて!」

「ああ!」


レナを見た女の目が細くなる。


「ああ……生き延びたのか」


誰に言うでもなくそうつぶやく。


レナが横へ回る。

チャピを後ろへ下がらせると、そのまま女の逃げ道を塞いだ。

こいつを倒せば、黒い汚れを――。


「キョウマ様」


ノアの声がした。

女の表情が変わった。


「…………」


視線が俺から外れる。

俺の後ろ、ノアを見ている。


「……きさま……」


さっきまで笑っていた女の顔から余裕が消えた。


「《戯演侯》ノクターリア……?」

「…………」


ノアも笑っていない。


「なぜきさまがここにいる!!」

「……《戯演侯》?」


なんだ?何の話だ?


「ノア?」


ノアが俺の前へ出る。


「《遺棄侯》デレクティア」


まただ、知らない名前。

なのに聞いた瞬間、胸がざわついた。


「きさま……まさか……」


デレクティアが一歩下がる。


逃げる、とっさにそう思った。

でも、こいつを逃がしちゃいけない。


「レナ!」

「分かってる!」


レナが走る。

俺もルミナスを握って駆け出した。


「チッ……」


デレクティアの足元から黒い汚れが噴き上がった。


「待て!!」


黄金色の光を放つ。

黒い汚れが消える。

だが、そこにはもう誰もいなかった。


「クソッ!!」


逃げられた。


「ノア!知ってる奴なのか!?」

「…………」

「ノア!」


ノアは答えない。

ただ、デレクティアが消えた場所を見ていた。

いつもの薄ら笑いはない。


その時、足元から黒い汚れが噴き上がった。

「っ!」

さっきより多い。


「……なんで止まらない?」


あいつを倒さないと止まらないのか!?


「追うぞ!」

「どこへ?」


レナの言葉に止まる。


「どこって……」


分からない……デレクティアがどこへ消えたのか。


「チャピ!他に怪しい場所は!?」

「分からない!こんなの見たことないもん!」

「クソッ!」


ゴボッ。


「…………」


足元を見ると黒い汚れが溢れてくる。


「キョーくん……」


壁も、天井からも。


「まずい!」


ルミナスを振るう。

黄金色の光が汚れを消す。


「こっちも!」


チャピの声。


「分かってる!」


もう一度。消える。また出る。


「クソッ!」

「キョウマ!後ろ!」

「っ!」


振り返ってルミナスを振るう。

消える、また出る。


多すぎる。


「ノア!あいつがやったんだろ!?」

「…………」

「だったら、どこだ!やつはどこへ行った!!言え!!」

「キョウマ様……」


ノアは俺を見ると、苦しそうな顔をしている。


「申し訳ありません……」

「だから何が――!」


ゴボッ!!

黒い汚れが一気に噴き上がった。


「キョーくん!!」

「チャピ!」


黒い汚れが辺りを黒に染め上げる。

何も見えない。


「チャピ!!」


返事がない。


「レナ!!」


聞こえない。


「ノア!!」


何も、何も分からない。

原因を見つけられない。

黒が俺の身体を包む。

最後まで。

俺は、何も――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。