↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/109

#67「王女様と、言えなかった言葉」

「私がキョーくんを連れていく」


そう言って、こっちを見る。

少しだけ笑っていた。


「私が案内する」

「おう。頼む」

「……うん」


チャピが小さく頷く。

その時だった。


「では、出発は明日の朝にいたしましょう」


王妃がそう言った。


謁見の間の大きな窓から差し込む光は、もうだいぶ赤くなっていた。

そういえば、ここへ来てから結構経っている。


「ですので今夜は、皆様こちらへお泊まりください」

「いいのか?」

「もちろんです」


王妃がにこりと笑った。


「チャルディアノクスがお世話になった方々ですもの。これくらいはさせてください」

「助かる」


正直ありがたい。

船を降りて、そのまま王都まで来て。

そこからずっと騒ぎっぱなしだ。


さすがに疲れた。


「では客室を――」

「待てい!!」


国王が立ち上がった。

……なんなんだよこのおっさん……。


「どうしたんだよ」

「どうしたではない!」


国王が俺を指さす。


「きさまを王城へ泊めるだと!?」

「そういう話だっただろ」

「チャルディアノクスと同じ屋根の下ではないか!!」

「今も同じ屋根の下だろ」


ここ城だぞ。

国王の顔が引きつった。


「そういう意味ではない!!」

「じゃあどういう意味だよ」

「きさまは娘を愛称で呼んでおる男だぞ!!」

「またその話かよ!」

「終わっておらんと言っただろうが!!」

「知らなかったって言ってんだろ!」

「知らなければ何をしても許されると思うな!」

「何もしてねえよ!」

「愛称を付けただろうが!!」

「名前が長いからだよ!!」

「また娘の名前を長いと言ったなぁぁぁ!!」


国王が玉座から降りてきた。


「ちょっとパパ!」


チャピが間に入る。


「キョーくんに何する気!?」

「チャルディアノクス!そこを退きなさい!」

「嫌!」

「なぜそいつを庇う!」

「何でって……!」


チャピが詰まった。

国王が目を見開く。


妹がものすごく楽しそうな顔をしている。


「お姉様、顔赤いですよ?」

「アウレシアーナ!!」

「やっぱりキョウマ様のこと――」

「違うから!!」


何が違うんだ?

兄が深いため息をついた。

レナも額を押さえている。

ノアはさっきから黙って見ているが、口元が笑っていた。

……こいつ……楽しんでるだろ。


「あなた」


その一言で。


国王の動きが止まった。

王妃が笑っている。


「客人の前ですよ?」

「……しかし」

「客人の前ですよ?」

「…………」


国王が俺を見る。

俺も見る。


「……部屋は離せ」

「あなた」

「分かった!普通の客室でいい!」


負けた。

国王なのに。


「では決まりですね。皆様のお部屋をご用意いたします。夕食もこちらで」

「世話になる」

「チャルディアノクスのお友達が泊まりに来るなんて、いつぶりでしょう」

「お母様……余計なこと言わなくていいから」

「では明朝、大森林へ向けて出発とする」


国王が不機嫌そうに言う。


「通常、王都から大森林までは馬車で十日ほどかかる」

「十日?思ったより遠いな……」

「だから今回は、王家の風走車を使わせよう」

「風走車?」

「馬車より遥かに速い。明日見れば分かる」

「そうか」

「……きさまはもう少し興味を持て!!」

「では、お部屋へご案内しましょう」


王妃が侍女を呼ぶ。

ようやく終わった。

そう思った、その時。


「キョウマ」


国王が俺を呼んだ。


「ん?」

「今夜……」


妙に低い声だった。


「チャルディアノクスの部屋へ近づくな」

「行かねえよ」

「絶対だぞ!!」

「行かねえって!」

「廊下ですれ違ったとしても――」

「あなた」

「……何でもない」


この国本当に大丈夫なのか。

俺は少し不安になった。


……

………

…………


夕食を終え、用意された部屋へ戻った頃には、外はすっかり暗くなっていた。

王城の客室だけあって広い。


ベッドもでかい。ソファーもでかい。意味の分からない壺まで置いてある。

……落ち着かん。

俺はベッドに腰を下ろした。

今日一日だけで、色々ありすぎた。


王都まで来て、何故か親父に怒鳴られて、明日は世界樹へ向かう。


「……疲れた」


ルミナスを壁に立てかける。

そろそろ寝るか。

そう思って靴を脱ごうとした時だった。


コン、コン。


扉が鳴った。


「ん?」


こんな時間に誰だ?

……ノアか……。いや、あいつならノックとかせずに入ってきそうだ。

俺は立ち上がり、扉を開ける。


「……キョーくん」


そこにいたのはチャピだった。


「な!?チャピ?」

「しっ!」


いきなり口元に指を立てられた。


「声大きい!」

「なんで来たんだよ!お前の親父に見つかったりしたら――」

「いいから!」


チャピが廊下の左右を確認する。


「入っていい?」

「……」


俺が身体を退けると、チャピはするりと部屋へ入った。

すぐに扉を閉める。


「お前、何してんだ?」

「何って……ちょっと話したくて」

「昼間あんだけ喋っただろ」

「そういう話じゃないの!」


また怒られた。最近チャピ怒りっぽいな……。俺がなんかしたのだろうか。


チャピは部屋の奥へ進むと、ソファーに座る。

俺も向かいに座った。


「で?話があるんだろ?」

「分かってるわよ。ちょっと……考えてるの」


チャピが黙る。


「……」


窓の外から、虫の鳴く声だけが聞こえてくる。


しばらくして。

チャピが小さく息を吐いた。


「今日ね……パパが言ってたでしょ。……光の使徒を、世界樹へ導けって話」

「ああ」

「前に話したじゃない。私、あの役目が嫌だったって」

「覚えてる」

「……そっか」


チャピが少しだけ俯く。


「でもね……今日、パパからもう一度あの話を聞いて……ちょっと変な感じがしたの」

「変?」

「うん」


チャピは少し黙ってから、俺を見る。


「ずっと嫌だったはずなのに」


そこで言葉を切った。


「今は……嫌じゃないの」

「そうなのか?」


チャピが小さく頷く。


「前はね。誰かに勝手に決められた役目だった。でも今は違うの」


チャピが俺を見る。


「パパに言われたからじゃない……王家の役目だからでもない……。私が……キョーくんを世界樹まで連れていきたいって思ってるから」


「……」

「……」


目が合った。チャピも何も言わない。

俺も何を言えばいいのか分からない。

そのまま、しばらく見つめ合う。


「……っ」


急に、チャピの顔が耳まで真っ赤になった。

慌てたように目を逸らす。


「暑いのか?」

「違う!」


じゃあ何なんだ……。


「……キョーくん」

「ん?」

「私ね……」

「どうした?」

「ちょっと待って」

「おう」


チャピが小さく息を吸う。

それから、もう一度俺を見る。


「最初に会った時はね……キョーくんのこと、変な人だと思ってた」

「ひどくないか?」

「今は黙ってて」

「はい」


また怒られた。


「何考えてるか分からないし。危ないことばっかりするし。自分のことより、誰かのことばっかりで……」

「……」

「見てるこっちが、心配になるの」


チャピの手が、膝の上でぎゅっと握られる。


「それなのに……気づいたら、いつも隣にいるのが当たり前になってて」

「チャピ?」

「だから……私……」


声が少し震えた。


チャピが顔を上げる。

真っ赤になったまま……瞳が少し潤んで見えた。


「キョーくんのこと――」


ガチャ。


……なぜかノアが入ってきた。


「……」


ノアが俺を見る。

チャピを見る。

もう一度、俺を見る。


「…………」


次の瞬間。


「キョウマ様ぁぁ!!」

「うおっ!?」


ノアが勢いよく抱きついてきた。


「な、なんだよ急に!」

「キョウマ様のお顔が見たくなりました!」

「あんたねぇ!!キョーくんから離れなさい!!」

「嫌ですぅぅ!!キョウマ様から離れません!!」

「それとノックぐらいしなさいよ!!」

「チャルディアノクスの声がしたぞぉぉぉ!!」


「…………」


俺は大きくため息をついた。

明日は世界樹へ向かうんだよな。


「……頼むから寝かせてくれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。