#65「王家、盛大に取り乱す」
国王の声が、妙に低くなった。
「チャルディアノクス……今、この男をキョーくんと呼んだのか?」
「呼んだわよ」
「なぜだ!!」
突然、謁見の間に声が響いた。
「……だって……ずっとそう呼んでるから」
「ずっとぉぉぉぉ!?」
国王が勢いよく立ち上がった。
「チャルディアノクス!お前は分かっているのか!?我らエルフにとって愛称を付けるということが、どういう意味なのか!」
「分かってるわよ!」
「分かっていてキョーくんと呼んでいるのか!?」
「そうよ!」
「そうよぉぉぉぉぉぉぉ!?」
国王の顔が引きつった。
……何だ。
さっきまでの威厳はどこへ行った。
その隣の王妃だと思われる女性が楽しそうに口元へ手を添える。
「あらあら」
「チャルディアノクス!!」
少し離れたところにいた若い男が立ち上がった。
「お兄様まで何よ」
「いつからだ」
「何が?」
「キョーくんと呼び始めたのは」
「最初からだけど」
「最初から!?」
「お姉様!?」
今度は小さいエルフが声を上げた。
「何よ!」
「そんなの聞いてない!」
「言ってないもの!」
「どうして!?早く教えてよ!!」
そう言いながら、なぜか目を輝かせている。
「待てぇい!!」
国王が鬼の形相で俺を指さす。
「では、そなたは我が娘を何と呼んでいる!」
「えっ!?……チャピ……だが?」
静かになった。
四人の視線が一斉に俺へ向く。
「……何だよ」
「……チャピ……?」
国王が呟く。
王妃が目を見開く。
兄が固まる。
妹だけはさらに瞳をキラキラさせている。
「お前まで愛称で呼んでいるのか!!」
「……俺が付けたんだぞ?」
「付けたぁぁぁぁぁぁ!?」
国王の絶叫が響いた。
「キョーくん!」
チャピが慌てて俺を見る。
「何だよ。本当だろ?」
「そうだけど今それ言わないで!!!」
王妃がにっこり笑う。
「まあまあ」
なぜだろう……猛烈に嫌な予感がする……。
「つまり、お互いに愛称で呼び合っているのですね」
「そうなるな」
「キョーくん!!」
なぜ怒る!?。
「いつからだぁぁぁぁぁぁ!!パパは聞いてないぞ!!」
「お父様に言う必要ないでしょ!」
「ある!!」「ない!!」「ある!!」「ないってば!!」
「チャルディアノクス」
兄が低い声を出した。
「今まで一度も聞いていない……」
「だから言ってないもの」
「なぜだ!?……なぜ手紙の一つ送らない!?」
「何でお兄様にまで報告するのよ!」
「!!……兄だからだ!」
「お姉様ぁ!その人のどこが好きなの!?」
「なっ!?」
チャピの顔が一気に赤くなった。
「誰が好きって言ったのよ!!」
「違うの?」
「それは……!」
「ほう……」
国王の目が光る。
兄も俺を見る。
王妃はニコニコと笑う。
妹は嬉しそうだ。
……帰りたい。
「皆様」
ノアが一歩前へ出た。
「!?お前は黙ってろ!!」
「まだ何も言っておりませんが?」
「言う前から分かる!!」
「ご安心ください。私はキョウマ様の妻ですので」
「違う!!」
俺とチャピの声が重なった。
また、静かになった。
四人がゆっくりノアを見る。
次に、俺を見る。
「……妻?」
国王の声が低くなる。
「違うぞ」
「はい。妻です」
「違う!!」
「キョウマ様ったら、皆様の前だからと照れて――」
「照れてねえ!」
「あんた何言ってんのよ!!」
「事実になる予定を少々先取りしただけですが?」
「その予定は存在しない!!」
兄が俺の前へ出た。
さっきまでより明らかに目が怖い。
「……キョウマ殿」
「……何だ」
「詳しく聞かせていただこう」
「何を?」
国王も来た。
「妻とはどういうことだ!」
「だから違う!」
妹まで詰め寄ってくる。
「じゃあ、お姉様とはどういう関係なの!?」
「仲間」
「キョーくん!」
「!?何でお前まで怒るんだよ!」
「だって!仲間って……もう少し何かあるでしょ!」
「何かって何だよ!?」
「では、そちらの女性とは?」
王妃が微笑む。
ノアを見る。
「勝手についてきた」
「キョウマ様!?」
「事実だろ!」
「ひどいです!よよよ……」
わざとらしく顔を伏せる。
「昨夜はあれほど激しく――」
「何もしてねえ!!」
「昨夜だとぉぉぉぉ!?きさま!!そこへ直れ!!」
「昨夜とはどういう意味だ!」
国王と兄まで俺へ詰め寄る。
「何もない!」
「お姉様!」
「私に聞かないでよ!!キョーくん!あいつ黙らせて!」
「何で俺が!」
「あらあら。あなたの妻なんでしょ?」
「お母様まで乗っからないで!!」
「皆様、落ち着いてくださいませ」
ノアが言った。
「お前が言うな!!」
謁見の間が、一気に騒がしくなる。
ノアはさらに何か言おうとして、チャピに口を塞がれている。
俺は天井を見上げた。
……あだ名を付けただけで、なんでこんな騒ぎになってんだ。




