↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
109/115

#77-26「三つ目の印、新たな国王」

会議室では、代表者たちの議論が続いていた。


「レオン殿の功績については異論ありません。しかし、王都の印を託すとなれば、慎重にならざるを得ません」

「確かに。北部ドルガンのガルド殿も、鉱山の事故に尽力されたと聞く」

「他の候補者についても、改めて評価すべきでしょう」


……うーん。

やっぱり簡単には決まらないか。

俺は隣のチャピに小声で話しかけた。


「なあ、これっていつまで続くんだ?」

「分からないよ。王様を決めるんだから、時間がかかるのは当然でしょ?」

「……まあ、そうだよな」


そう言われると何も言えない。

そのとき、一人の代表者が口を開いた。


「レオン殿。一つ、お尋ねしたい」

「何でしょうか?」

「もし国王となられた場合、各地で起きている異変について、どのように対処されるおつもりですかな?」


レオンは少し考えてから答えた。


「まずは各地域の状況を正確に把握し、必要な支援を行います」

「それは現在も行われていることでは?」

「はい。しかし、各地域が個別に対処している現状では、対応にも限界があります」


レオンは代表者たちを見渡した。


「北部の鉱山、東部の補給路、南部の水源。そして王都の物流。それぞれ別の問題として扱われていますが、大陸全体に影響が及んでいることは確かです」


……。


「国王となれば、各地域の協力を得やすくなる。私はその立場を利用し、原因の調査と復旧を進めたいと考えています」

「では、すべて解決できると?」

「……それは、お約束できません」


会議室が静かになった。


「ですが、解決できないからといって、何もしないわけにはいきません」


相変わらず、はっきり言うな。

できないことは、できない。

それでも、やれることはやる。

……なんか、いいな。


「なるほど……。では、もう一つ」

「はい」

「あなたは、国王として最も必要なものは何だとお考えですかな?」


何だか難しい質問が来たぞ。

俺なら何て答えるかな。

……権力?いや、金?

うーん。

やっぱり休みか?


「キョーくん、何考えてるの?」

「いや、王様って年間休日どれくらいあるのかなって」

「今それ!?」


……だって気になるだろ。

そんな俺たちをよそに、レオンが口を開いた。


「……人を信じることだと考えています」


……ん?


「国王一人で、国のすべてを動かすことはできません。軍には軍の、商人には商人の、農民には農民の役割があります」


レオンは静かに続けた。


「それぞれの力を生かし、必要なときに協力できる国を作ること。それが国王の役目だと考えています」


……。


「そして、判断を誤ったときには、その責任を負うことです」


……すげえな。

俺だったら絶対そんなこと言えないぞ。

そんなことを考えていると、代表者の一人がこちらを向いた。


「ところで……そちらの方は?」


……ん?、何だ?


「えっと……俺か?」

「はい。先ほどからレオン殿の隣にいらっしゃいますが」

「白石恭真。清掃員だ!」

「……清掃員?」


老人が目を丸くした。


……何だよ。

清掃員が王城にいたらおかしいのか?


「今回、倉庫の整理を手伝っていただいた方です」


レオンが説明する。


「彼のおかげで、滞っていた荷物の搬出が進みました」


「ほう……」

「いや、俺は掃除しただけだぞ?」

「……掃除?」


またその反応か。

……まあ、慣れてるけど。


「では、キョウマ殿。あなたから見て、レオン殿はどのような人物ですかな?」

「レオン?」


俺は隣に座る狼獣人を見た。


……どんな奴、か。


「……真面目な奴だな」

「ほう?」

「あと、無茶なことは言わないな」


レオンがこちらを見た。


「東部でも、南部でも、困ってる奴がいたらちゃんと助けようとしてた」


……。


「でもさ、レオン一人で全部やったわけじゃないんだよ」

「……と申しますと?」

「俺たちも手伝ったし、兵士たちも働いた。商人も、街の人たちもな」


俺は少し笑った。


「だから、レオンが言ってることは間違ってないと思うぞ」

「……なるほど」

「それに――」


俺はレオンを見た。


「こいつ、自分ができないことはちゃんと認めるんだよな」

「…………」

「王様になったって、全部一人でできるわけじゃないだろ? だったら、皆でやればいいじゃないか」

「……ふむ、実に興味深いご意見です」

「いや、そんな大したこと言ってないぞ?」

「いえ。国を支えるのは、まさしくそのような人々なのでしょう」


何だか褒められたぞ。

隣でチャピが小さく笑っている。


「キョーくん、たまにはいいこと言うね」

「たまには余計だ!」


すると、会頭が静かに口を開いた。


「私も、キョウマ様のお考えには賛同いたします」

「おお、会頭!」

「私ども商人も、今回の件で多くの方々に助けられました。レオン様のご協力がなければ、輸送路の安全確保も難しかったでしょう」


会頭は代表者たちへ頭を下げた。


「王都の商人として、今回のご尽力に深く感謝申し上げます」


……。


会議室の空気が、少し変わった気がした。


――それから、さらに議論が続いた。


他の候補者の功績についても、改めて確認が行われた。

北部、南部、西部。

それぞれの地域が抱える事情も違う。

誰を王にするか。

簡単に決められる話じゃない。


……そして。


「それでは、結論を申し上げる」


進行役の老人が立ち上がった。


「王都ヴァルグランの代表者として、我々は今回の王選について協議を重ねた」


老人はレオンへ視線を向けた。


「レオン・ザルガード殿」

「はい」

「あなたのこれまでの功績、そして国王としての考えを評価し――」


……。


「王都ヴァルグランの《王都印》を、あなたに託すことを決定した!」

「……やったな! レオン!」

「キョーくん! 静かに!」

「お、おう!」


代表者の一人が、小さな箱を運んできた。

蓋が開かれる。

中には、一つの印が収められていた。


……あれが。


《王都印》。


老人が箱から印を取り出した。


「レオン・ザルガード殿。王都は、あなたを次代グランディア国王として支持する」

「……謹んで、お受けいたします」


深く頭を下げ、その手に印を受け取る。


……三つ。


《軍統印》。


《豊穣印》。


そして、《王都印》。


「五印のうち、三印が揃った」

「王選の定めに従い、ここに宣言する!」

「レオン・ザルガード殿を、次代グランディア国王として認める!」


……おおお!


本当に王様になっちまった!

周囲から拍手が起こる。

レオンはしばらく三つの印を見つめていた。

そして、ゆっくりと顔を上げた。


「……皆様の信頼に、心より感謝いたします」


静かな声だった。


「この国が抱える問題は、まだ何一つとして終わっておりません」


……。


「ですが、私は逃げません。皆様と共に、この国を守っていきたいと思います」


再び拍手が起こった。


……いいな。

こういうの。

何だか、俺まで嬉しくなるぞ。

――会議が終わったあと。

俺たちは王城の廊下を歩いていた。


「いやあ、すげえな! レオン!」

「ああ。ありがとう、キョウマ」

「王様だぞ! 王様!」

「……ああ」

「何だよ、もっと喜べよ!」

「喜んではいる。だが、それ以上に責任を感じている」

「……そういうもんなのか?」

「そういうものだ」


……大変だな、王様って。

俺には絶対無理だ。


「でも、これで少しは落ち着くんじゃない?」


チャピが嬉しそうに言った。


「そうだな。各地の協力も得やすくなるだろう」

「おお! じゃあ南部の水も直せるかもしれないな!」

「ああ。原因の調査を本格的に進めたい」


……よし。

それなら俺も手伝わないとな。


「困ったら呼んでくれよ! 掃除でも修理でも、俺にできることなら何でもやるぞ!」

「……頼りにしている」

「任せとけ!」


ばふっ!


背中のルミナスも元気よく跳ねた。


「お前もやる気満々だな!」


……さて。


これで新しい王様が決まった。

北部の鉱山。

東部の補給路。

南部の水源。

そして、王都の物流。

まだ問題は山積みだけど、皆で協力すれば何とかなる。

……そうだよな。

俺たちは、少しずつでも前に進んでいる。

そう思いながら、王城の出口へ向かって歩き始めた。

――そのときだった。


……コトン。


「……ん?」


足元から、小さな音が聞こえた。

廊下の隅に置かれていた花瓶が、わずかに揺れている。


……地震か?


俺は立ち止まって床を見た。

だが、それっきり何も起こらない。


「どうしたの、キョーくん?」

「いや……今、少し揺れなかったか?」

「え? そう?」


チャピが首をかしげる。


……気のせいか?


「……まあ、いいか」


俺は再び歩き出した。

新しい国王が誕生した。

これから、この大陸も少しずつ良くなっていく。


……そう信じていた。


少なくとも、このときの俺は――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。