↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
103/115

#77-20「救援、先にあるもの」

次の日の朝――。


街の大通りには、昨日運び込まれた水樽や食料が並んでいた。

兵士たちが荷物を運び、職員たちが住民を誘導している。


「……おお、すごいな」


昨日までとは、随分と雰囲気が違う。

あれだけ長かった行列も、少しずつ進んでいるようだ。


「キョーくん、おはよう!」


チャピが駆け寄ってきた。


「おう、おはよう!」

「今日も手伝うんでしょ?」

「もちろん!」

「……やっぱり」


何だよ、その呆れた顔は。

……まあ、昨日も休むって言いながら結局ずっと働いてたけどな。


「おはようございます、キョウマさん!」


蓮も大きな荷箱を抱えてやってきた。

「おお、蓮!もう仕事してたのか!」

「はい!人手が足りないそうなので!」


……こいつも働き者だな。

そのとき、背後から聞き慣れた声が響いた。


「我が君!」


……ん?


振り返ると、ノアが水樽を抱えて立っていた。

いや、抱えているというより、頭の上に軽々と持ち上げている。


「わたしも働いております!」

「……おお、偉いじゃないか」

「お褒めいただき光栄です!」


ノアが嬉しそうに笑った。


「では、ご褒美に我が君のお膝を――」

「仕事しろ!」

「まあ!厳しいご主人様!」


……ったく。


こいつは相変わらずだな。

そんな騒ぎをしていると、少し離れた場所から声が聞こえてきた。


「その水は南側の配給所へ回せ。食料は地区ごとに分けて運ぶんだ」


レオンだ。


何人もの兵士を前に、次々と指示を出している。

隣にはセリアも立っていた。


「こちらが各地区の住民数です。配給所の位置も記してあります」

「助かる。では、この人数を基準に必要量を割り当てよう」

「はい。ただ……」


セリアが少し表情を曇らせた。


「どうした?」

「街の外にある農村への輸送が、まだ十分ではありません」

「農村?」

「ああ。南部には街の外にも集落があるんだが、そこまで物資を運べていないらしい」


俺が近づいて尋ねると、セリアが頷いた。


「はい。街道の被害もあり、大きな砂走車が通れない場所もあるのです」


……なるほど。

街に物資が届いても、そこから先へ運べなければ意味がないわけか。


「それなら、小さい車両で運べばいいんじゃないか?」

「それも検討しています。ですが、使える車両と人員が不足していまして……」

「……そうか」


レオンが地図を覗き込んだ。


「セリア殿。この周辺で、特に水が不足している集落はどこだ?」

「こちらの三つです。すでに井戸が使えなくなり、住民たちは水を運ぶために何時間も歩いています」

「……分かった」


レオンは兵士へ向き直った。


「輸送部隊の一部を小型車両へ切り替える。街への配給は継続しつつ、郊外にも物資を回せ」

「はっ!」

「通行できる道を確認し、必要なら護衛をつけろ。無理に大型車両を通すな」

「承知しました!」


……おお。

対応が早いな。


「それと、セリア殿」

「はい?」

「今後の輸送は、そちらの職員にも協力してもらいたい。軍だけでは各集落の事情までは把握できん」


セリアが目を見開いた。


「もちろんです。職員たちに伝えます」

「ああ。必要な物資が必要な場所へ届くようにしたい」


……なるほど。

軍だけで全部やるんじゃなくて、現地の人たちと協力するわけか。

そのときだった。


「ちょっと待ってくれ!」


住民の一人が声を上げた。


「郊外に水を運ぶってことは、俺たちの分が減るんじゃないのか!?」

「そうだ!こっちだって足りないんだぞ!」


周囲がざわつき始めた。

……おいおい。

せっかく水が届いたのに、今度は取り合いか。

レオンが住民たちの方へ歩いた。


「心配する気持ちは分かる」


低く、落ち着いた声だった。


「だが、郊外にも水を必要としている人々がいる。街の外だからといって、見捨てるわけにはいかん」

「でも、足りなくなったらどうするんだ!」

「追加の輸送を手配する」


レオンは即答した。


「ただし、十分な量を確保できるまでには時間がかかる。それまでは皆で分け合ってもらう必要がある」

……。

住民たちは黙り込んだ。

レオンは続けた。


「私もできる限りのことをする。だが、今ある水を公平に届けるためには、皆の協力が必要だ」


しばらく沈黙が続いた。

やがて、一人の老人が口を開いた。


「……分かったよ。村にも孫がいるんだ。あいつらだって困ってるだろうしな」

「……そうだな」

「水が届くんなら、俺たちも協力するよ」


少しずつ、周囲の人たちが頷き始めた。

……おお。

すごいな。

さっきまで文句を言っていた人たちが、今は納得している。


「レオンさん、すごいね」

「ああ。俺だったら何て言えばいいか分からんわ」

「キョーくんなら、きっと一緒に水を運び始めちゃうよね」

「……まあ、そうだな」


チャピがくすっと笑った。

……何だよ。

別に悪いことじゃないだろ。


ばふっ!


「お前もそう思うよな!」


ルミナスが元気よく跳ねた。

……よし。


「レオン!」


俺は声をかけた。


「ん?」

「俺たちも郊外への輸送を手伝うぞ!」

「……お前たちもか?」

「ああ!どうせ原因はまだ分からないしな。今できることをやろうと思って」


レオンがしばらく俺を見ていた。


「……そうか。では頼もう」

「任せろ!」


こうして俺たちは、水樽を積んだ小型の砂走車に乗り込み、郊外へ向かった。


――数時間後。


道の両側には、広大な畑が広がっている。

だが、その景色は以前よりも悪くなっていた。

枯れた作物。

茶色く変色した畑。

水路には相変わらず濁った水が流れている。


「……ひどいな」


思わず呟いた。


「キョウマさん……」


蓮も畑を見つめていた。


「これだけ広い土地で作物が育たなくなったら、大変ですよね」

「ああ」


水だけじゃない。

このままじゃ、次の収穫も期待できない。

……根本的な原因を何とかしないと。

俺は水路へ目を向けた。

……だが、分からん。

一週間調べても分からなかったものが、今すぐ分かるわけでもない。


「……くそっ」


小さく呟く。

そのとき、前方から声が聞こえてきた。


「水だ!」

「水が来たぞ!」


見ると、小さな集落から大勢の人たちが駆け寄ってきていた。

老人や子供たち。

皆、手には桶や水瓶を抱えている。


「本当に持ってきてくれたのか!」

「ああ!順番に配るから並んでくれ!」


俺が声をかけると、住民たちは次々と列を作り始めた。

中には、涙を流している女性もいた。


「ありがとうございます……これで、子供に水を飲ませられます……」

「……ああ」


俺は頷いた。

……よかった。

本当によかった。

だが、同時に思う。

この水も、いつかはなくなる。

また運んでこなければならない。

畑だって、このままじゃ駄目だ。

……やっぱり原因を直さないとな。

俺はもう一度、遠くの畑へ目を向けた。


――その日の夕方。


街へ戻ると、レオンとセリアが配給所の前で話していた。


「郊外への輸送はどうなっていますか?」

「今日の分は届け終えた。明日以降も継続する」

「……ありがとうございます」


セリアが深く頭を下げた。

レオンは静かに首を振った。


「まだ十分ではない。王都の備蓄にも限りがある。東部からの追加輸送も手配しているが、届くまでには時間がかかるだろう」

「……そうですね」

「それまで、今ある物資をできる限り公平に届けたい」


セリアはしばらく黙っていた。

そして、ゆっくりと口を開いた。


「……レオン様」

「何だ?」

「あなたは、なぜそこまでしてくださるのですか?」


レオンが少し首を傾げた。


「……どういう意味だ?」

「ここはあなたが守る東部ザルガードではありません。それに、あなたも王位候補の一人です。ご自身の地域を優先することもできるはずです」


「……そうだな」


レオンは静かに頷いた。


「だが、同じグランディアの民だ」

「……!」

「東部も南部も関係ない。困っている者がいるなら、助ける。それだけだ」


……おお。

なかなか格好いいこと言うじゃないか。

セリアは何も言わず、レオンを見つめていた。

その表情が、先ほどまでとは少し違って見えた。


「……そうですか」


やがて、小さく微笑んだ。


「レオン様。明日もよろしくお願いいたします」

「ああ。こちらこそ頼む」


二人が軽く頭を下げ合った。


……さて。


俺もそろそろ休むか。

そう思って歩き出したところで――。


「キョウマ!」


レオンに呼び止められた。


「ん?」

「お前にも礼を言っておこう。今日は助かった」

「何だよ、急に」

「郊外の住民たちも喜んでいたそうだ」

「まあ、俺は運んだだけだからな!」


レオンが小さく笑った。


「……お前はいつもそう言うな」

「実際そうだろ?」

「……そうかもしれんな」


……何だよ、その意味深な言い方は。

まあ、いいか。

俺は肩を回した。


……疲れた。


今日もよく働いたな。

だが、まだ終わったわけじゃない。

水を運ぶことはできる。

食料を届けることもできる。

それでも、井戸の水は濁ったままだ。

……いつまで続くんだ、これ。

俺は遠くに広がる畑を眺めた。

夕日に照らされた大地は、ところどころ茶色く枯れている。


「……何が起きてるんだろうな」


小さく呟いた。


ばふっ……。


背中のルミナスが、静かに揺れた。

俺はその柄を軽く叩いた。


「……まあ、明日も頑張るか」


原因はまだ分からない。

それでも、このまま放っておくわけにはいかない。


――少なくとも、俺はそう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。