神は死んだ
とある世界が滅亡した。なんの予言も無く滅んだ。なんの預言も無く滅んだ。なんの前触れも無く滅んだ。なんの抵抗も無く滅んだ。なんの慈悲も無く滅んだ。そして、何も残す事無く滅んだ。
「ヒュッ・・・ヒュッ・・・」
その事にただ一人、涙を流す神がいた。いや、もう彼女は神ではない。世界を持たない、信仰されない神など神ではない。
「随分とあっさりだったな。」
滅ぼしたその世界とは違う世界の神である日本の主神は、その事を特に何も感じてはいなかった。なぜなら、その世界が滅ぶきっかけを作ったのは紛れも無く今、目の前ので泣いている彼女だからだ。
「お前らがもっとしっかりしていれば滅ばなかったのにな。」
日本の主神はそう言うと、水の女神から手を引き抜いた。ドサリという音と共に下に落ちた水の女神は、もう生きてはいなかった。
「やっはり、神1柱だけだと私の力に耐えきれないか」
彼はそう呟くと、足元に転がっている女神と、他の2柱の女神を一つの場所に集める。
「世界消失により、こいつらにはもういる意味は無い。そろそろ消える。まあ、お前は私の力で消える事など出来ないがな。」
3柱の女神たちが徐々に光に包まれる。フワフワとした綿毛の様な物が体から溢れ出し、段々と薄くなっていく。そして、一気に光の粒子へと霧散した。
「もう、これで残るのはお前だけだ。」
「ヒュッ・・・ヒュッ・・」
未だに涙を出し続けるリアリーという名の者は俯きながら、悲しみに暮れていた。全てを失った彼女に残されているのは泣く事だけだった。零れ落ちる涙は、まるで一つ一つが彼女の心の切れ端の様に、光っては消えた。
「和泉梨々香。」
「はい。」
日本の主神が名前を呼ぶと、そばにいた和泉梨々香は目線を外す事無くこちらに近づいてくる。
「まだ、見ているのか。このままでは私の方が落ちつかん。この体も本調子ではないし、あの姿に戻るか。」
日本の主神の周りに霧が立ち込めてきた。白い霧は日本の主神を包み込むと、すぐに散った。そこには、先程の男の姿があった。
「あっ・・・」
和泉梨々香が残念そうな声を上げた。名残惜しそうな顔をしながらこちらを見ている。
「そんな顔しても、もうあの姿にはならないぞ。そんな事よりだ。こいつの喉を治してくれ。何言ってるのかわからない。」
初めはふてくされた様な顔をしてたが、リアリーを一瞥すると真剣な顔つきに戻った。
和泉梨々香がリアリーの喉に触れると、緑色の光が彼女を覆った。
「うっ、うっ、どうして・・・」
少しづつ、獣の息の音から言葉に変わっていく。しかし、リアリーはそれに気づかずにずっと泣いていた。
そんな彼女を日本の主神が髪を持ち上げて顔を寄せる。
「お前が自分で蒔いた種だ。その報いが帰ってきただけだ。」
焦点の合わない目でこちらを見る彼女は、もう生きる気がないのか精気が無い。
「もう、こいつは使えないな。」
日本の主神はそう呟くと、彼女の拘束を解いた。そして、そのまま彼女を空中に持ち上げると真っ黒な穴の開いた場所の上に運ぶ。
「これは一方通行の穴でな。こちらから送ったら、貴様ではもうニ度とこちらには帰っては来れない。黄泉の国にて、たっぷり自分の罰について考えるんだな。永遠に。」
そう言って、彼女を暗い穴へと落とした。その穴は彼女を歓迎するかの様に、より一層暗さを増した。




