染川くんの話
染川くんと初めて一緒に帰ったのはもう何カ月も前のことだ。
「はああ……ササ、どうすれば俺に惚れてくれるんだろう」
「それ、私以外に言ったらドン引きされるよ」
染川くんはその時、笹塚ちゃんが田宮くんに惚れていると思っていて、落ち込みようが半端じゃなかった。
「たみっちゃんも、笹塚に告られたら付き合うよな?」
「そうかもねー」
お互いに溜息を吐いた。
「もう望月さん、たみっちゃんと付き合っちゃえよ!」
ノリで言った染川くんに、私は慌てた。
「ばばばばば、バカじゃないの? なんでキミの私利私欲のために付き合わないといけないわけ?」
「あっはっは。だよなあ~」
「それに私が告白したからといって田宮くんがOKしてくれるとも限らないでしょ!」
「……マジかよ」
染川くん、絶句。
うぎゃああああ! 墓穴掘った! 穴があったら入りたいけど、墓穴には入りたくない! 生きたい!
「もう染川くんは世の中の染川さん全員に謝るべきだよ!」
「なんでいきなり!? っていうかマジなのね――――」
***
「――――マジなのね?」
夏目くんが引きつった顔をして私を見る。
両手に花、もとい男の私を見ての言葉だ。
よりにもよって今回も夏目くんのバイト先でカラオケなんて……。
「もうどうでもいいよ……。ウーロン茶で」
「俺、リンゴジュース」田宮くん無表情。
「俺はアイスココア」染川くんにこにこ。
「かしこまりました」
そして、夏目くんは私に耳打ちする。
「俺、何度もピンク対応したことあるけど、さすがに男二人に女一人のやつはヤバくないか……?」
「お前死ねよ! 生き返ってくんな! 黄泉の世界で腐れ!!!」
「ど、どうした?」
田宮くんには夏目くんの言葉が聞こえていなかったようで、不安そうにこちらを見てくる。
怒鳴った理由など、言えるはずもなかった。
***
染川くんは、歌はそこまで上手じゃなかったけれど、選曲のセンスはかなりよかった。
ソナーポケット、バックナンバー、ベースボールベアー、グッドモーニングアメリカン。
どれもメロディが耳に残る曲だった。
私は基本的には可愛い曲を歌うが(田宮くんに可愛いと思って欲しいからね)、染川くんへのサービスでバンドの曲も歌うようにしていた。
田宮くんはというと……自殺の歌を歌っていた。ぶれないなあ。
三時間くらい歌っていて、みんな歌うことに飽きたのでお喋りタイムに移る。
「田宮くん! 恋していますかー?」
キャー染川くーん!
「え……」
田宮くんは黙り込む。
「しているんじゃない?」とぽつり。
染川くんは目を見開いた。
「おお! 誰?」
「いや、アニメのキャラかもよ?」
そこで笑いが起きた。
「へえ、アニメのキャラなんだ」
私がちょっと低い声を出すと、田宮くんが「違うかもよ」と日和る。この男は……。
「でも俺、望月さんと田宮くんがくっつくんじゃないかなーと思っているんだよー」
染川くんは純粋な子だなーと思った。
***
帰りの電車にて。
染川くんだけ西武新宿線に乗って帰るので、東西線の電車には、私と田宮くんの二人だけだ。
「染川くんって優しいね」
「そうだな。俺と全然違う」
田宮くんの言葉に私は慌てて言った。
「いや、ジャンルは違うけど、田宮くんもちゃんと優しいよ! 田宮くんは、臆病だから優しいんでしょう?」
「そうかもね」
「あのさー、手を繋がない?」
「どうしたいきなり?」
田宮くんは目を剥いた。
「ええと、手を繋ぎたくて!」
「……手汗酷いよ」
最も格好悪くて遠まわしな拒絶。
私は落ち込んだ。
「いや、ほんとに」
「い、いいよ! 手汗ひどくっても!」
私はぱっと右手を差し出した。
田宮くんは迷ったのちに右手を返す。
あれ? これって握手じゃない?
でも、まあいいかあ。
電車の中でオタクと女の子が握手していたら、それは私たちだ。
ツイッターとかで拡散しないでくれたまえ。
ちなみにその夜。
『今日は楽しかったよー。望月さんのおしゃれな私服も見れたし!
あ、これ、田宮くんの写メ! どうぞ~』
染川くんが私に協力的なのは、田宮くんが大好きだからか!!




