初デートの話
今までは障害者の望月さん中心で話が展開していましたが、彼女は恋愛に関してはわりと普通の女の子です。
代わりに田宮くんは非常に精神的に色々抱えているため、恋愛がしづらい。
これからは彼を中心に話が展開していきます。
どうぞお付き合いください。
ちなみに好きなキャラの登場回数を増やしてほしいとか、山名くんを幸せにしてほしいとか、望月さんの家庭の描写がほしいとか、ご希望があれば沿えるように努力いたしますので、どうぞ感想等よろしくお願い致します。
発達障害に関してはまだまだぺーぺーなんですけれども。
では、引き続きお付き合いください!
告白はした。私たちは付き合っている。
じゃあ田宮くんの休日を頂戴する権利も私にはあるのではないだろうか。
私はパステルピンクのガラパゴス携帯を取り出すと、田宮ヤシロを選択して発信ボタンを押した。
『はい』
「もしもしっ。田宮くん?」
思わず声が上擦るが、相手はいたって冷静だ。
『どうしたの?』
「今度の日曜日、一緒にあああ、遊ばない!?」
『いいよ。どこに行くの?』
「あ! 考えてなかった!!」
『ああ……』
失笑だか苦笑いだかわからないけれど、田宮くんの吹き出す吐息が聞こえた。
「ええと、何して遊びたい?」
それとなく相手の意向を訊いてみる。
『何って……カラオケとゲーセン以外思いつかないんだが……』
「そうねー」
男子と遊ぶとなると買い物や甘いものを食べながらお喋りっていうのはアレだし。
結構趣味合わないんだよなあ。
「田宮くんは街を決めてぶらぶらする派? それとも映画を見るとか目的がないとダメ派?」
『目的があると助かるけど……でも映画はやめてくれ』
結構声が頑なだったので、とりあえず映画はやめておこうと思った。
「そっかあ」
『あと、なるべく金がかからないものがいい』
「……え?」
無理じゃね? という言葉を飲み込む。
田宮くんもさすがにそれはわかっていたようで、意を決したように告げた。
『あー、じゃあカラオケで! それがいいよ』
「うん」
『十一時から六時まで、めいっぱい歌うからな!!』
「はは、うん」
田宮くんは私と同レベルのケチだなあ。そう思ったが言わなかった。
***
五月の日曜日がついにやってきた。
今日は田宮くんとのデートの日だ。
白いブラウスに黄色い七分丈のカーディガン、スキニージーンズと、まあまあ上品な格好で決めてきた。
待ち合わせ場所に着くと、田宮くんは辞書のプリントがしてあるTシャツ姿だった。どこで売っているのだろう……。この前遊んだ時は恐竜のプリントのTシャツだったし。
「服? 完全な親の趣味だよ。おしゃれとか興味ないし」
「あの人おしゃれだなーとも思わないの?」
「俺は他人をとやかく言えるほどおしゃれじゃないしなあ」
そうですね……。
「例えば、私の今日の服はどう思う?」
頑張って尋ねてみたが、田宮くんはしばし黙った後に告げるのみだった。
「俺はおしゃれじゃないからわからない」
「さいですか」
ちらっと駅近くに立っている時計を見ると、まだ十一時にもなっていなかった。
そりゃそうだよねー、私、待ち合わせ時刻の十五分前に来たし。
「田宮くんはいつも早いよねー。何分前に来たの?」
「今日は三十分前かな」
「はやっ! 一年前の図書委員会のメンバーでのカラオケは五分前だったよね?」
「あれは増谷とお前の企画だったから、一番に来たら悪いかなと思って……」
目を逸らしながら言う田宮くんに、私は苦笑してしまった。
「不安なんだね」
「そう。すっげー不安」
要するに、私とのデートが楽しみ過ぎて早く来たというわけではないらしい。
「じゃあ、カラオケに行きましょうか」
私が歩き出すと田宮くんは着いて来る。
某有名カラオケチェーン店に入ると、背の高い店員(男)がいた。
「夏目くん!」
私は目を丸くする。
「知り合いか?」
田宮くんに訊かれて頷いた。
「う、うん。不登校時代の適応指導教室での友達……」
狼狽する私に構わず、夏目くんは田宮くんに挨拶した。
「いらっしゃいませ! 望月さんの友達の夏目です!」
「どうも、田宮です」
田宮くんが頭を下げると、夏目くんは人のよさそうな笑顔で言った。
「望月さん彼氏連れてくるとか勘弁してよー、こちとら連日ピンク対応で疲れているんだよー」
「うるっさいな!」
やめてくれー!! こういうノリが嫌なのよ!
「じゃあ、お部屋は七○三号室となりますので。お飲み物は何に致しましょうか」
「ウーロン茶で」
「うん。望月さんはウーロン茶って感じがする。絶対甘酸っぱくないよね」
「そんなので私の人間性を語るな!」
「田宮くんは?」
私の憤慨を無視して夏目くんは田宮くんのほうを見やる。
「オレンジジュースで……」
「ぶほっ。似合わねー!」
「こら! 夏目くん!! 店長呼んで、減給させるぞ!!!」
ぶち切れ寸前の私に田宮くんは苦笑いを浮かべるのみだった。
***
最初の方はお互いに照れからかネタ曲しか歌わなかった。
しかしだんだんガチな曲を歌うようになる。
でも、三時間くらい経つとやっぱりお互いに喉が限界になって、歌うことを休憩して喋り出した。
「あのー。田宮くん……」
私は今までどうしても訊きたかったことを訊いてみる。
「田宮くんは私のことをどう思っているの?」
「いや~」
田宮くんは一分くらい黙りこくる。私はひたすら返事を待つ。
「よくわからない……」
やっと帰ってきた言葉はそれだった。
「嫌い?」
「それは絶対にない! それに好きじゃないわけじゃないけど……」
田宮くんは俯く。
「今まで二次元以外に恋をしたことなんてなかったし……」
「……」
そういう人、現実にいるんだ。私は初恋三歳だったけれど。
「でも、こいつと付き合ったら楽しいだろうなーって思ったりはするんでしょう?」
「まあね」
「それでその相手は私じゃないんでしょう?」
「……まあね」
田宮くんはさりげなく、けれどはっきりと頷いた。
「じゃあ、好きな子がいるのに告白されてとりあえず私と付き合ったの?」
「だから、片思いって程じゃないんだよ。お前だってイケメン見れば格好いいなーとかいい気分になったりするけど、恋とは違うだろ?」
「私はイケメン無理だし。人生楽しそうで妬ましいとさえ思う」
「……」
今度は田宮くんが黙り込む。そして私も黙っていたが、先に沈黙を破ったのはやはり私だった。
「じゃあ、そこまで落ち込むこともないわけね」
「まあ、お前のことをどう思っているかは複雑だから、言葉を整理して今度言うよ」
「……うん。待っているね」
私は苦々しい気持ちながらも笑った。
その後、私達はまた歌いだす。
シャウト系の悲恋ソングばかり歌っているのはただの偶然である。お互い、早くも恋愛に心が折れたわけではない。
だが、一時間で喉が限界になり、私達はまた喋り出した。
田宮くんは初めて家族のことを自分から私に話してくれた。親が弁当に親子丼やうどんを入れる変わった人だとか、検査技師じゃなくて学校の事務員になれとうるさいだとか他愛もないことだったけれど。
私は嬉しかった。五倍くらい私も家のことを語っていたけど。
なんだかんだで楽しくカラオケを終えることができた。
***
「俺、送って行ったほうがいいの?」
「あー。じゃあ駅まで一緒に……」
私は控えめに頼んだ。
「あー……うん」
「なんか問題でもあった?」
駅までって時点でかなり気を遣っているのだが。どうせ田宮くん飯田橋通るし。
「いや、ここまでバスで来てさ、家の最寄駅に自転車おいているんだよねー。家に最寄駅が二つあって、東西線で帰ると、もう一つの最寄駅まで歩いて四十分くらいだから」
「ええ!? じゃあ悪いよー」
「でも、いい。今日は遅くなるって親に言ってあるし」
田宮くんがそう言ってくれたので、今日はお言葉に甘えることにした。
***
「今日はありがとね」
電車の中で私は礼を述べる。
「いや別に」
「とっても楽しかった」
心から笑うと、田宮くんも頷いた。
そして私は、田宮くんの手をごくごく自然にとろうとしたが、田宮くんには手に持っていた切符を渡された。
「ええ……」
ええと何、と訊こうとして。
「切符! お前いつもパスモだから切符見てみたかったのか? 変わっているなあ」
早口でまくしたてる田宮くん。
ああ、田宮くんはやっぱり鈍感だなあ。
「わーい……切符だー……懐かしいなあ……」
私は顔で笑って心で泣いていた。
「……飯田橋、着いたぞ」
田宮くんが私の降車駅に着いたことを知らせてくれる。
「あ、うん」
私は田宮くんに切符を返した。
「気を付けて帰れよ」
「ありがとう」
そう言って私は電車を降りる。
あーもう! 電車一緒に乗ってくれて、田宮くんは優しいけど、全体的にありえない!!!
でも、最初からお互いに惚れているカップルなんてごくごく少数だよね。
好きになってもらえるように努力しよう。




