川辺くんの話 前編
川辺くんにはよく遊びに誘われて断っている。
でもこんなに誘われているのに一度も行かないのは失礼なので、今日は川辺くんと本屋さんに行こうと思う。
川辺くんにはメールアドレスを尋ねられて答えなかったりしているが、友達としては非常に大切な人だ。
こんなに長い付き合いの人は他にいない。だって、みんな私にうんざりして離れていくから。中学以降はアスペルガー症候群なりにコミュニケーション能力もアップしてまだ友達ができたけれど。
きっと川辺くんは私のことが好きだ。ここまでわかりやすいとさすがに気が付く。
でもきっと、「冴えない自分なんかの傍にいてくれる特別ブスじゃない女の子」だったら誰でもよかったのだと思う。
私はそれでも中学一年生の時、川辺くんのことが異性として好きだった。だって価値観が合うし、喋っていて楽しいもん。
その時にどちらかが告白していれば、川辺くんとの未来もあったかもしれない。
でもお互い臆病だったのだ。私は「障害者の自分なんて」状態だったし、川辺くんは今以上のツイ廃引き籠りだったし。
結局、私はその後、適応指導教室を卒業して、元の中学校に通うようになって、山名くんに出会った。
そして、今では田宮くんにめちゃくちゃ惚れているという……一度も誰とも付き合ったことがないクセに結構惚れっぽいな。一人につき、一、二年しか恋愛感情抱いてねえ。
で、本題。
川辺くんとの待ち合わせは一時に飯田橋駅だ。
「おまたせー!!」
私は普段待ち合わせ時刻ぴったりに着くようにしている。理由は早く到着すると待つのが暇だから。
「全然待ってないよ」
川辺くんはすでに待ち合わせ場所に立っていた。シャツにカーディガン、ジーパン、眼鏡という理系男子っぽい出で立ち。
「あのさ……今から何言っても引かない?」
川辺くんに真剣な目で見つめられて私はたじろぐ。それを悟られないように笑顔で返した。
「場合によっては引くね」
「もう死にたい……」
早くも川辺くんは心が折れた模様。しかし、彼はこのままではいけないと思ったのか、キッと顔を引き締める。
「それでもいいよ。言っていい?」
「言わなくてもいいよー」
「何それ俺めっちゃ拒否られてんだけど!!」
さすがに川辺くんは落ち込んだ様子だった。
……が、池袋に到着したら。
「ホームセンター寄っていい?」
「いいよ」
川辺くんの言葉を私は了承する。
「うおおお!」
川辺くんはめちゃくちゃ楽しそうに様々な植物の種を見ていた。ここまで楽しそうだとこちらまで嬉しい。
やっぱり川辺くんといると楽しいなあ。この関係をずっと続けたい。
だから、告白なんてしないでね。振って気まずくなりたくないから。
私は川辺くんを大切にしたい。今はもう惚れていないのに付き合ったとしても、川辺くんがそれに気づいたら傷つくだろう。
だから、ずるいかもしれないけど、告白自体を拒否するの。
振っても受け入れても川辺くんは傷つくから。
――――じゃあ今は傷つけてない?
そんな疑問が脳裏に浮かんだ。その声の鮮明さにドキッとする。
このままだと川辺くんは生殺しじゃない?
ああ。やっぱり私は卑怯だ。自分のことしか考えていなくてそういう発想自体が無かった。
「……やっぱり誠実にしなくちゃなあ」
私はぼそっと呟いた。
ホームセンターを後にして、本屋さんの帰り。
私は人気のない住宅街で川辺くんに尋ねた。
「さっき待ち合わせた時、川辺くん、何言おうとしていたの?」
「ぶっ」
川辺くんは吹き出した。そして誤魔化すように言う。
「無かったことにしていいから!」
「え?」
この返答は想定外だ。私はどうしようか軽くパニックになる。
「ええと、川辺くんのことは友達としては本当に好きなんだけど、私、田宮くんが好きなの」
とりあえず用意しておいた言葉を述べてゆく。
なんか告られてもないのに振っているぞ、私。
後半へ続く。




