親友の話 前編
新学期になって数週間が経った。
夏休みによってだるんだるんになった心は徐々に引き締められていき、いつもと変わらない日常が繰り返される。
廊下を歩いていると、増谷くんと目が合った。お互い微笑んですれ違う。
田宮くんの親友が川辺くんで、ひさきちゃんの親友が松美ちゃんなら、私の親友は増谷くんだ。
今日は、増谷くんの話をしようと思う。
***
六月のある日。
ひさきちゃんと松美ちゃんは、私が田宮くんのことを好きなのを知っている。
でも、やはり田宮くんは彼女たちにとって多少壁のある異性なので、特に協力してくれるわけではない。
だから、田宮くんの男友達の力をどうしても借りたかった。
誰に相談しよう。田宮くんの友達で、私の知り合いは……。
第一に、染川くん。ううむ。そこまで仲良くないしなぁ。
第二に、川辺くん。彼は幼馴染とはいえ、ちょっと話しにくい。思い出といえば、近所の同級生に、『飯田橋の二大ヒキニート』とはやし立てられたことくらいだ。今まで語っていなかったかもしれないが、川辺くんは小学校三年生の時から学校を休みがちで、中学二年生の時なんて、完全なる不登校だったのだ。
第三に、増谷くん。うむ。彼なら笑わないで話を聞いてくれそう。
よし! 善は急げだ!
「増谷くーん! 今日、一緒にマクドナルドに行きましょう!」
一年一組の扉を開けるや否や叫ぶと、増谷くんは顔を真っ赤にしながら近づいた。
「クラスメイトにあらぬ誤解が生まれたよ……。どうしたの? いきなり」
「ええとね、ちょっと相談があって……」
「ああ、人がいないところが良いんだよね? いいよ。マックに行こう」
増谷くんは爽やかに微笑んだ。
***
マクドナルドにて。
私は百円のお茶と、ポテトを頼んで、増谷くんは何も頼まないで席に座った。
「……で、ものは相談なんだけど」
私の言葉に、ごくり、と増谷くんはつばを飲み込む。
「……増谷くんは好きな子いる?」
やっぱり私は狡い。自分の情報を渡す前に、相手の弱みを握ろうとするなんて。
「え? ええ? 好きな子ねえ……。コウミちゃんはいるの?」
真っ赤な顔の増谷くんの切り返しに、私は覚悟を決めて申し上げた。
「田宮くんかな。気づいているかもしれないけど」
今の私はどんな顔しているのだろう。結構平然としている気がする。
「えーーー!! 全然気が付かなかったんですけど!!」
増谷くんはマクドナルドの中で、遠慮なく驚いた。
そしてちょっと声量を抑え気味に呟く。
「俺の好きな人は、図書委員の人かもよ?」
「私のこと?」
「全然違うよ! 俺と同じクラスのひさきちゃん!」
全然違うという言葉に、私はちょっとだけしゅんとする。
優しい増谷くんは、ちょっとだけ悪いと思ったのか、語り出した。
「いやね、この前、ひさきちゃんが余ったからってパウンドケーキをくれたんだ。それがすごく美味しくて……」
「胃袋を掴まれたって奴だね?」
「まあ、ね」増谷くん、モジモジ。
「いいねー。青春だね!」
「それよりも田宮くんだよ! どうするの? 告白する?」
「まあ、いつかはするよ……」
というか、こんなにお土産あげたり、デートに誘ったりしているのだから、いいかげん気が付いて、向こうから告白してくれないかな……。
「田宮くんは恋愛に興味があるのかなー」
「わかんないけど……笹塚ちゃんに告白されたら付き合うと思う」
私の言葉に、増谷くんはにっこりと微笑んだ。
「それなら大丈夫。コウミちゃんも可愛いもん。俺はそう思うよ」
でも、可愛いなとは思っても、恋愛対象かといえば「全然違うよ!」なんですよね……。
「まあ、告白の仕方とか、色々協力するから! 頑張ってね!」
増谷くんに励まされて、私は俄然勇気が出た。
頑張るぞー! おー!
***
ここまでなら普通の男友達との話だ。
だが、まあここからが変わったエピソードになる。
後半へ続く。




